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香港ファンドが東京ドームに敵対的TOB、なぜ突然「三井不動産」は救済に入ったのか?

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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東京ドーム(「Wikipedia」より/DX Broadrec)

 2020年11月27日、東京ドームをはじめとするレジャー施設を運営する東京ドームが、国内不動産最大手の三井不動産による普通株式の公開買付け(TOB)に賛同すると発表した。今回の三井不動産の登場の背景には、筆頭株主である香港の投資ファンド、オアシス・マネジメントと東京ドームとの対立がある。

 今年1月、東京ドームはオアシスから1株1,300円で全株を買い取る敵対的TOBを仕掛けられた。その後、10月19日付で臨時株主総会の招集を求められ、長岡勤代表取締役社長ら3名を解任する動議がなされている。そこに三井不動産が救済者=ホワイトナイトとして登場した。

 近年、日本では企業買収における敵対的TOBの実施が増えてきた。そのなかには、買収を目指す企業と買収される側での意見対立が表面化し、結果的に両社にマイナスの影響が及んだケースがある。そうしたケースで、TOBをかけられた企業の救済に立ち上がるホワイトナイトの存在は重要になりつつある。

 現在、新型コロナウイルスの感染再拡大によって、日本企業を取り巻く事業環境は厳しい。そのなかで東京ドーム経営陣は、事業運営の持続性を高めるために三井不動産からの買収を受け入れた。今後、三井不動産傘下で東京ドームは保有資産の魅力を磨き、新しい人の動線を生み出そうと取り組むだろう。今回の買収案件は、企業の生き残り策の一つとして友好的買収の重要性が高まっていることを確認するケースといえるかもしれない。

東京ドームに救いの手を差し伸べた三井不動産

 今回の事例の根幹は、筆頭株主であるオアシスと東京ドームとの対立激化に対して、三井不動産が救いの手を差し伸べたことにある。東京ドームは自力で収益力の向上に努めてきたが、その取り組みは新型コロナウイルスの感染発生によって行き詰まった。一方、三井不動産は、東京ドームシティをはじめとする資産の潜在的な価値は高く、手法によって大きな成長の可能性があると判断した。

 新型コロナウイルスの発生によって、東京ドームの業績はかなり厳しい。2021年1月期の第2四半期決算にて東京ドームは最終赤字に陥った。同社にとって収益の柱である東京ドームシティ事業の売り上げは前年同期比で7割減だった。新型コロナウイルスの感染拡大によってプロ野球の開幕が遅れ観客の入場制限が行われたことや、コンサートが中止、あるいは延期された影響は深刻だ。

 また、コロナショックの発生は、東京ドーム経営陣に中長期的な事業運営への危機感をも与えた。同社は2017年1月期から2021年1月期までの中期経営計画として、営業利益130億円をはじめとする数値目標を掲げた。収益を確保した上で、同社は東京ドームの改修などを行い、持続的な成長を目指そうとした。

 しかし、直近の決算において東京ドームは2021年1月期の営業利益が130億円の赤字に陥るとの見通しを示した。その意味は、事実上、コロナショックによって中期経営計画の実現が困難になったことだ。それに加えて、収益と財務内容の悪化も避けられない。その状況下、同社が自力で施設の老朽化対策に取り組むことは難しい。

 同社を取り巻く事業環境は当面厳しい状況が続くだろう。東京ドームシティのように人の動線に依存したビジネスモデルの場合、収益は感染と景気の動向に大きく影響される。世界経済が新型コロナウイルスの感染を克服するには、ワクチンの安全性と供給体制が確立されなければならない。2021年の年初以降に世界的にワクチンの接種が進み、春先にかけて効果が発揮されるのであれば、年央以降に世界経済が回復に向かう可能性はある。言い換えれば、ワクチンの接種と効果確認のタイミングによって、東京ドームの事業環境は大きく変わり得る。

三井不動産のノウハウ発揮への期待

 東京ドームにとって、今回の三井不動産の友好的買収は“渡りに船”だ。オアシスとの対立激化を防ぐことができ、しかも三井不動産には不動産開発に関する多くのノウハウがある。それに加えて、三井不動産がデジタル技術の導入に取り組んでいることも重要だ。

 近年、国内外でプロスポーツのスタジアム運営が、まちづくりに重要な役割を果している。そのなかで、プロ野球のスタジアムは、街のシンボルであり、動線を生み出す基点として扱われてきた。それは、三井不動産が参画した「広島ボールパークタウン」から確認できる。広島ボールパークタウンの開発において、同社は、スポーツジムや大型商業施設の誘致に加え、隣接する土地にマンションや結婚式場を建設した。

 つまり、スタジアムの運営に不動産業者の都市開発に関する知見が付加されることによって、人の往来を一段と活発化させ、球場を中心とする地域の魅力を高めることができる。その結果として人の往来が増えれば、プロ野球のファン獲得など、スポーツビジネスの運営にプラスだ。近隣住民からの理解や協力の獲得に関しても、不動産業者が果たす役割は大きい。

 それに加えて、三井不動産はIT先端技術の積極活用によって、不動産のDX=デジタル・トランスフォーメーションを重視している。それが、今後の進展が期待される東京ドームの建て替えや近隣施設の改修などと結合することによって、東京ドームの“スマート・スタジアム”化だけでなく、周辺レジャー施設のスマート化が目指されるだろう。

 米国では、NFLやMLBのスタジアムに数多くのWi-Fiポイントが設置され、座席までの経路案内や飲食物などのデリバリー・サービスなどが支えられ、来訪者が高い満足を実感できる環境の整備が進んでいる。それは、プロスポーツの魅力を発信するためにも欠かせない。例えば、高速通信技術を活用して打者目線での投球のスピード感や、守備技術の高さを発信できれば、試合を見たいと思う人が増えるはずだ。それによってスタジアムへの来客数が伸びれば、近隣の不動産価値は高まり、地域経済への波及効果が期待される。そう考えると、三井不動産にとって都心の一等地にレジャー施設を持つ東京ドームを買収する意義は大きい。

生き残り手段として重要性増すホワイトナイトの存在

 日本経済は、新型コロナウイルスの感染第3波によってかなり厳しい状況を迎えた。先行きは楽観できない。そのなかで東京ドーム三井不動産の友好的買収を受け入れ、さらなる成長を目指そうとしている。つまり、企業が生き残りを目指すために、友好的買収の重要性はかつてないほど高まっている。それは、企業がより多くの選択肢を確保し、変化への対応力を高めるために重要だ。

 言い換えれば、日本にとって既存のモノやサービスに新しい発想を結合し、より満足度(付加価値)の高い製品やサービスを生み出すことの重要性が高まっている。その実現に向けて、東京ドーム経営陣は三井不動産の友好的な買収提案を受け入れた。

 上述したスマート・スタジアムを目指す取り組み以外にも、東京ドームにとって友好的買収の潜在的メリットは多い。例えば、近年、環境に配慮した建材として木材が注目されている。三井不動産は木材を用いた高層ビル建設に取り組んでいる。東京ドームシティの改修や再開発に木材が積極的に用いられることによって、同施設が持続可能な都市開発のモデルとして注目される可能性がある。そうした展開を考えると、今回の友好的買収は、東京ドームの持続性だけでなく、社会の持続性向上にも資するだろう。

 反対に、敵対的買収は禍根を残す。買収される企業では敵対的買収者への反感や、買収後の雇用維持などへの不安が高まり、組織が動揺する。その結果、買収が成立したとしても組織一丸となって新しい取り組みを進めることは難しくなる。それは、社会全体にとってマイナスだ。

 不確実かつ変化のスピードが加速する環境下、社会の公器として持続的な成長を目指すために、企業経営者は資本を有効に活用できているか否かを虚心坦懐に見直さなければならない時を迎えている。そう考えた時、自力での再建ではなく国内不動産最大手のノウハウをはじめ社外の新しい発想の導入を選択した東京ドーム経営陣の意思決定は評価されるべきだ。今後、買収が成立し、その後の組織統合(PMI)が円滑に進み、東京ドームシティをはじめとする資産の魅力度がさらに磨かれることを期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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