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吉澤恵理「薬剤師の視点で社会を斬る」

「テキーラゲームは自殺行為」医師が警告…しらふの状態から突然、昏睡状態に陥る恐れ

文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト
「テキーラゲームは自殺行為」医師が警告…しらふの状態から突然、昏睡状態に陥る恐れの画像1
「Getty Images」より

「テキーラゲーム」という言葉がインターネット上を賑わせている。内容は、アルコール度数40%のテキーラ750mlを15分以内に飲み切れば10万円がもらえるというゲームで、チャレンジした女性が死亡したという。

 舞台となったのは東京・恵比寿の高級バーで、そのバーを訪れたことがあるという30代男性は「客の多くは、富裕層や経営者、芸能人などです。恵比寿に限らず、東京の夜の街を遊び慣れた人たちは、盛り上がれば『テキーラ一気飲み』はよくやります。だけど、テキーラを飲みなれた人なら女の子がテキーラを1瓶飲んだら死ぬかもしれないと想像できるだろうし、誰も止めなかったのが信じられません」と首を傾げる。

 予防医療研究協会理事、メディアド代表取締役で精神科医の高木希奈医師に、今回のテキーラゲームについての見解を聞いた。

「テキーラゲームは自殺行為」医師が警告…しらふの状態から突然、昏睡状態に陥る恐れの画像3「急性アルコール中毒は以前からよく問題になっており、特に春の新歓コンパで大学生が一気飲みさせられて死亡したというニュースが時々流れ、世間一般的にも『一気飲みは危ない』という認識が広まっています。急性アルコール中毒は、短時間に多量にエタノールを摂取することで起こる中毒症状で、その症状や重症度は血中のアルコール濃度に比例します。ひどくなると意識レベルが低下し、呼吸状態が悪化、死に至ります」(高木医師)

 大学生やホストの急性アルコール中毒による過去の死亡事例などは、一気飲みによるものが多く、その恐ろしさは繰り返し伝えられてきた。一般にアルコールを飲むと、胃と小腸から吸収され肝臓へと運ばれて分解されるが、どんどん運ばれてくるアルコールをすぐに分解することはできず、分解されなかったアルコールは心臓へと運ばれ、血液の流れによってアルコールは脳にも運ばれ、脳を麻痺させて酔った状態をつくる。

 酔いの程度は、血液の中のアルコール濃度によって6段階(爽快期、ほろ酔い期、酩酊初期、酩酊期、泥酔期、昏睡期)に分けることができる。どの段階も注意が必要であるが、特に昏睡期は命に危険を及ぼすことがあるという。

「アルコール健康医学協会のウェブサイトによると、アルコールの血中濃度が0.41~0.50%になると『昏睡期』と呼ばれます。

・ゆり動かしても起きない

・大小便はたれ流しになる

・呼吸はゆっくりと深い

・死亡

の状態となり、『脳の麻痺が脳全体に広がると、呼吸中枢(延髄)も危ない状態となり、死にいたる』と書かれています。

 この具体的な酒量は、ビール中びん(10本超)、日本酒(1升超)、ウイスキー・ボトル(1本超)となっています。ウイスキーのアルコール度数は約40%ですから、テキーラとほぼ同等です」(同)

一気に昏睡状態へ

 テキーラゲームについて、高木医師は語気を強めて非難する。

「テキーラ1瓶を一気飲みするなど自殺行為です。さらに、これをゲームにするなど言語道断。アルコールの致死量を知らなくても常識的に考えれば、アルコール度数の高いお酒を大量に一気飲みするのは危険ということは、容易に想像がつくかと思います。急性アルコール中毒は、短時間で多量にアルコールを摂取することで起こる中毒症状ですから、通常の酔いの過程である『爽快→ほろ酔い→酩酊→泥酔』という過程を経ずに、しらふの状態から突然、昏睡状態になります。ですから、危険な状態に陥ったことに周りも気づかず、対応が遅れることもあります」(同)

 高木医師が言うように、通常であればアルコールの量に伴い「酔い」の段階が進んでいくが、一気に過量のアルコールを飲んだ場合、アルコールが体に吸収されるまで20~30分程度かかるため、その間はしらふの状態に見える。報道では、テキーラゲームで10万円を提示したとされる起業家は、雑誌の取材で死亡した女性はテキーラ1杯を飲み干したあとも、見た目や話した感じはまったく変わらない様子だったと語っているが、それはアルコールが吸収される前の段階だったのだろう。

アルコールの強さは個人差がある

 アルコールは体内でアルコール脱水素(ADH)により毒性のあるアセトアルデヒドに分解され、さらにアルデヒド脱水素酵素(ALDH)の働きによって毒性のない酢酸に分解される。この ALDHの活性が強い人は、アルコールを速やかに無毒化できるため「酒に強い」ということになるが、個人差があることを認識してほしい。

「お酒に強い・弱いなどの体質もありますが、特に女性の場合は男性に比べて体格が小さく、肝臓におけるアルコールの処理能力が弱いなどの理由から、短時間でアルコールの血中濃度が高くなりやすく、男性の半分の量でも同様の状態になる場合もあります。

 仮に、テキーラ一気飲みを強要したのではなく、女性が自ら志願して飲んだとしても、なぜ周りの大人が止めなかったのか。女性は20歳という情報もあり、お酒が飲めるようになったばかりで、女性自身がアルコールの危険さや、自分にとっての適正量を知らなくても仕方ありません。それを止めるのが周りの大人の役目です。ですので、それを止めなかった周囲の大人にも責任はあると思います」(同)

 コロナ禍に多くの人が自粛するなか、複数人で酒の席に集い、10万円をチラつかせテキーラゲームに興じるなど、人として恥じるべき行為だと強く感じる。警察は、女性が自ら進んで行ったとして事件性はないと結論づける方向にあるようだが、本当にそれでいいのだろうか。SNSでは疑問の声が多く上がっている。

(文=吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト)

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

吉澤恵理/薬剤師、医療ジャーナリスト

1969年12月25日福島県生まれ。1992年東北薬科大学卒業。福島県立医科大学薬理学講座助手、福島県公立岩瀬病院薬剤部、医療法人寿会で病院勤務後、現在は薬物乱用防止の啓蒙活動、心の問題などにも取り組み、コラム執筆のほか、講演、セミナーなども行っている。

吉澤恵理公式ブログ

Instagram:@medical_journalist_erie

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