NEW
航空経営研究所「航空業界の“眺め”」

ANAとJAL、苦境下でLCC推進は無謀か賢策か…欧米路線に就航や傘下に2社設置も

文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学航空・マネジメント学群客員教授
【この記事のキーワード】

, ,

9.11同時多発テロ、リーマンショックを乗り越えて大きくなった米国のLCC

 2001年の9.11同時多発テロ、および08年のリーマンショック後の世界同時不況は、共に世界の航空に深刻な打撃を与えた代表的なイベントリスクである。米国では、当時6つあった大手航空会社のすべてが記録的な赤字経営に陥り、その後、破産法11条の適用となり、合併、吸収も経て、現在の3つの大手航空会社(アメリカン、デルタ、ユナイテッド)となった。ところが、そういった大手航空会社の苦難を尻目に、LCCであるサウスウェスト航空とジェットブルーは黒字経営を維持し続け、むしろイベントリスクをテコにして規模を拡大したのである。

ANAとJAL、苦境下でLCC推進は無謀か賢策か…欧米路線に就航や傘下に2社設置もの画像2

 このような、LCCビジネスモデルのイベントリスクへの相対的な強さは、前にも述べた事業構造の単純さ/簡素さと、それと表裏一体にある生産性(人的効率)の高さに大いに関係している。生産性の高さを具体的にいうと、例えば総旅客数に対する社員数の比は、ピーチはANAHDの3分の1以下と小さく、人的効率が高い。したがって、需要に応じて路線の新設、切り換えなどを機敏かつ柔軟に行うことができるわけである。

大手航空会社がLCCをグループ内でうまく活用できるかが今後の課題

 大手航空の子会社LCCの場合は、独立系のLCCとはいろいろな面で異なった企業運営となる。そこには、メリットも多い。まず、親会社のリソース(機材整備など)やノウハウを活用できる点である。そして何より重要なことは、親会社の顧客層の一部を旅客需要に取り込める点である。

 例えば、JALの子会社LCCジップエアは、北米線や欧州線という長距離国際線に就航する予定であるが、このようなLCCによる長距離国際線(ロングホール・ローコストと呼ばれる)は世界的にもまだまだ未開拓の分野で、成功例はそれほど多くはない。大いなる挑戦であり課題である。少なくとも最初は、JALという親のすねをかじってこそ、成功の可能性が高まってくる。一方で、親会社との調整や忖度が必要となり、完全なフリーハンドで企業運営できるわけではない点は、子会社LCCの持つ限界でありデメリットである。

 大手航空会社、すなわち親会社の側から見た場合にも、LCC活用での課題は多い。第一に、本体とLCCとの路線の棲み分けである。同じ路線や似かよった路線では、必ず旅客のカニバリゼーション(共食い)が発生する。特に、グループ内に2つのLCCを抱えることになるANAHDの場合には、本体とLCCとの棲み分けに加え、アジア路線では2つのLCC間の路線の棲み分けも必要となる。この点についてANAHDは、日本発の需要も強く総需要の大きい路線はワイドボディ機の新LCCに任せ、ナローボディ機のピーチと棲み分けてカニバリゼーションを避けるとしているが、課題であることには間違いない。

 もうひとつの課題は、本体とLCCとの間の運営とブランドの分離と差別化である。ブランド面では、運賃とサービスレベルを適正に設定して、本体とLCCのそれぞれの顧客層に納得感を与えなければならない。かつて米国の大手航空会社は、ユナイテッド航空の「Ted」やデルタ航空の「ソング」のように、こぞって子会社LCCを立ち上げてサウスウェストに対抗しようとしたのだが、運営とブランドの境界があいまいであったこともあり、結局のところことごとく頓挫し子会社LCC消滅に至っている。

 このように課題は少なくないのだが、利用者目線に立てば、フルサービスの大手航空に加え国内線と国際線で日系LCCの選択肢が増えることは、大いに歓迎すべきことである。ANAとJALの今後のLCC活用が奏功し、日本でのLCC利用と、ひいては航空需要全体の回復と拡大につながることを期待したい。

(文=橋本安男/航空経営研究所主席研究員、桜美林大学航空・マネジメント学群客員教授)

RANKING
  • 連載
  • ビジネス
  • 総合