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榎本博明「人と社会の役に立つ心理学」

「脱・知識偏重教育」「教えない教育」の罠…若者の知識不足→思考力劣化が深刻

文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士
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 社会に出てからすぐに役立つ学びが大切だといって、実践的スキルを学ばせる動きがあるが、たとえばプレゼンテーションのスキルばかり鍛えても、物事を深く理解する力、今後の社会の動きを想像する力が鍛えられていなければ、ろくな発想は浮かばないだろう。

むしろ現状は知識不足が著しい

 知識偏重からの脱却が叫ばれるようになって久しいが、その過程で起こっているのは、紛れもなく知識不足による学びの乏しさである。

 かつて小学校入試のために幼児に大人でもなかなか答えられないような知識の丸暗記をさせている光景を見たりしたとき、知識詰め込みはここまで来ているのかと呆れたものだった。だが、知識詰め込みへの反動から、今は中高生や大学生の知識不足が深刻な問題となるところまできている。

 知識受容型の教育から脱却し、主体的に学ぶ教育で考える力を身につけるというが、知識なしに考えるというのはどういうことなのだろうか。まるで知識が思考の邪魔をするかのような議論が横行しているが、果たしてそうだろうか。

 それぞれの専門分野を極めた知識人や博学な教養人が書籍や新聞・雑誌の記事で発信している内容より、知識も教養も乏しい人がSNSで発信する内容のほうが、よく考えられたものであり、今後の日本社会はそちらを重視する方向を目指すとでもいうのだろうか。

 そんな疑問を常々抱いていたわけだが、引っ越しの際に荷物整理をしていて、30年前、40年前の学生たちのレポートを改めて読み返してみると、昔の学生たちほうが、世間的に言われる大学のレベルが低い場合でも、しっかりものを考えている跡が見られるレポートが明らかに多い。

 本をよく読み、知識も多く取り込み、語彙を豊富にもつ学生のほうが、抽象的概念を駆使して思考を深めることができる。それがレポートにもよくあらわれているということだろう。

 もはや既存の知識は意味がないといった発想こそ、重要な意味を取り逃している。教育現場では生きる基盤となり得る知識をしっかりと伝達することが必要であり、学習者に思考の道具となる知識を提示していかなければならない。

 教育する側も、教育を受ける側も、知識軽視の姿勢を見直す必要があるだろう。知識は思考・発想を妨げるどころか、豊かにする。子どもの教育においては、まずは知識を吸収し、頭の中の世界を広げていくことが重視されるべきだろう。

(文=榎本博明/MP人間科学研究所代表、心理学博士)

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