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ケースで見る!「働くハイスペック女子」への処方箋

夫は変貌し怒鳴り散らし、妻は精神に変調…親子3人家族が在宅勤務で壊れ始めた理由

文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表
夫は変貌し怒鳴り散らし、妻は精神に変調…親子3人家族が在宅勤務で壊れ始めた理由の画像1
「Getty Images」より

 今年3月頃からコロナ不安が広がり、さらに4月には外出の自粛、将来不安などから自殺者が増えるといわれていました。しかしながら4月の自殺者は激減。産業医として日常的に社員と面談をしている私もテレワークが始まり、逆にホッとしている人が増えていることを実感していました。意外にもヒトはコロナという現実に適宜対応し、むしろ今まで過重労働に苦しんでいた人や、会社での人間関係が良いとはいえない状況だった人にとっては恵みのひと時となっていました。しかし……。

 時は流れ12月、状況は少し変わってきました。東京都医師会が8月の国内自殺者数について、若年層と女性が急増したと報告したのです。資料によると2017~19年の同月平均と比較して、40歳未満の層で見ると、男性は356人で前年比31.4%増であるのに対し、女性は189人で前年比76.6%の大幅増です。

 例年、国内自殺者は男性が7割を占めており、女性が急増するのは珍しい現象です。同報告では、その要因を女性の経済的基盤が弱いことを指摘しています。背景には観光・宿泊・飲食業など「非正規女性職員」が多い業種の休業や減収が考えられる、とも指摘しています。

 ところが、私の面談対象である「正社員かつコロナ禍でも仕事を続けている女性」でも9月頃からメンタルヘルスの面談が急増しているのです。これは経済的な問題だけではないと感じています。

 先の報告でも女性の自殺急増の要因として、自粛生活での孤立に加えリモートワークや子どもの休校措置などの影響で、女性が家族のケアをひとりで抱え込んでいる点も指摘されています。

 日本では依然として、家事、育児、介護の女性の負担が高いことが、総務省の調査でも指摘されていますが、そのような状況での女性就労者が近年急増していました。その中でのテレワーク開始。

 社会学者の落合恵美子氏と、鈴木七海氏が4月に実施した在宅緊急調査によれば、子どものいる女性の36%が「家事・育児」に困ったとしているのに対し、同男性では15%と、女性の半分以下に留まっています。さらに休校や保育園休園が理由で子どもが家にいる場合には44%もの女性が困っていると答えたとのことです。仕事をしながら子どもや夫の昼食の支度、休校中の学校から課された子どもの自宅学習の手伝いなど、昼間の時間をすべてケアワークに費やすことを要請され、睡眠時間が減少し、心身の不調を訴える女性が増加したとも指摘されています。

 加えて問題となっているのが家族関係。欧米ではDVが急増しているといわれていますが、そこまで行かないにしても女性を苦しめる状況は増えているのです。以下、私の経験しているいくつかのケースをまとめた形で紹介します。

A子さん 35歳(個人の特定ができないよう改変しています)

 夫と5歳の娘の3人暮らし。3月よりテレワークが始まった。当初は娘の保育園も休園のため自宅で3人で過ごしていた。夫婦で慣れないテレワークをしつつ、傍らには幼い娘がいる。娘に邪魔されないようビデオでアニメを見せたり、ゲームを与えたりするが落ち着きがなく、すぐに話しかけてくる。そんな娘の姿を職場の人もテレビ会議の画面越しに温かく見てくれていた。しかし、仕事の話が込み入ってくると、さすがに娘の相手は難しく、娘が寝てから仕事をすることに。

 一方、夫も仕事をしながらも勉強を教えたり、食事をさせたりと、妻が忙しいときは娘の世話を手伝うようになって当初は助かっていた。しかし、数カ月と続くうちに段々と夫の様子が変わってきたのです。先日もすでに登園が始まっていた娘を保育園に迎えに行ってくれたのですが、泣きながら家に帰ってきた娘が言うには、夫が髪を引っ張ったり、腕をつかんで押し倒したとのこと。

 夫に問いただすと、娘がコンビニに行くと言い張って、自分の言うことを聞かないから少し叩いただけだというのです。もともと温厚で、外では「いい人」タイプなのですが、最近家ではイライラしている様子で文句ばかり言っています。娘をちょっとしたことで叱り、家の中が汚いとか、果てには怒鳴り散らすようになってきました。

 自分のテレワークで昼間は仕事の合間に洗濯、掃除をし、夕食だけでなく昼食まで夫には期待されているため、朝からその準備に追われる毎日。娘が寝る9時頃にやっと一段落して、ようやくその後、昼間集中できなかった仕事をやることになるのです。

 そんな生活をしているうちに、仕事のミスを指摘されることが増えてきました。最初は家にいるせいで仕事に集中できていないからでしたが、段々ミスの仕方が変だとも言われるようになったのです。どう考えても今まではしなかったようなミスです。 

 自分でも頭が回っていないし、このままどうなるのか漠然とした不安までが襲ってくるようになりました。「このままでは仕事も回らなくなる……」。そんなふうに感じているなか、隣で夫は娘を怒鳴り散らしている。

 夫が自粛により在宅でイライラし、アンガーマネージメントができない、という相談は多々あります。慣れない子育てやテレワークでイライラする「夫のメンタルヘルス」も課題と言えるでしょう。

「ステイホーム」は、今まで以上に家族の時間を「密に」過ごせるという利点があったものの、場合によっては、もともと「疎な」家族で夫の在宅時間が短い中で保っていたバランスを崩すきっかけにもなったともいえるのです。

(文=矢島新子/産業医、山野美容芸術短期大学客員教授、ドクターズヘルスケア産業医事務所代表)

矢島新子/産業医

矢島新子/産業医

矢島新子
山野美容芸術短期大学客員教授。ドクターズヘルスケア産業医事務所代表。東京生まれ。東京医科歯科大学医学部卒。パリ第1大学大学院医療経済学修士、WHO健康都市プロジェクトコンサルタント、保健所勤務などを経て産業医事務所設立。10年にわたる東京女子医科大学附属女性生涯健康センターの女性外来、産業医として数千人の社員面談の経験より、働く女性のメンタルヘルスに詳しい。著書に『ハイスペック女子の憂鬱』(洋泉社新書)ほか。
株式会社ドクターズヘルスケア

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