――これからは民放になるかもしれないNHKのBSに、果たして明るい未来はあるんでしょうか?
高橋教授 あまりないと思う。それにこんな時に、4Kと8Kを作ったのは、ある意味でスゴイ経営感覚だと思う。
――となると、NHKのBSデジタル放送を民放にすればいいという提言は、どのように受け止めればいいんでしょう?
高橋教授 民放にしないで抱えていたら、もっと大変になるでしょう。
――手放したほうがまだマシ、ということですか?
高橋教授 民間にすれば「採算」ということがわかるはずです。
――NHK受信料が半額ぐらいになれば、テレビは「オワコン」状態から脱することができるとお考えですか?
高橋教授 最終的には、テレビは地上波を使うのが無理かもしれない。地上波ではなく、通信にすればネットでコンテンツを提供するようになるかもしれない。
――「放送」というものが、終わると?
高橋教授 放送という、あるテレビ局で周波数帯を独占するって考え方自体が、もうなくなると思う。
――しかし、放送や通信というハードの部分をいじったとしても、「番組」という個々のコンテンツの質の問題までは解決できません。
高橋教授 私が言っているのは、コンテンツの話ではない。電波をどのように使うかということだけです。地上波のテレビ局が占有するのか、通信でみんなで使うのか。それだけのことしか言っていません。
――先生の書かれた記事は、そういう話でした。
高橋教授 コンテンツの話はまったくしていない。コンテンツがどうなるかは、その時のマーケット次第というか、誰にもわかりません。コンテンツを作る人の問題でもあるし。
――今、民放では番組の制作費がどんどん削られて、人手もかけられなくなって質も落ちています。一方、NHKにはそういう心配がなくて、番組の制作費も人手も、民放とは雲泥の違いがあるわけです。
高橋教授 強制徴収する受信料があるからでしょう。それはおかしいのでは? 強制徴収の受信料で人手をかけられるからといって、良いコンテンツが出てくるとは限らないし。
――もちろんそうです。
高橋教授 良いコンテンツっていうのは、マーケティングの中で評価される。NHKの人は、自分たちの番組はすべて良いコンテンツと勘違いして、受信料を正当化しようとする。NHKに「公共」の部分は認めます。さきほど言ったけど、災害とか国際放送とか選挙の政見放送は、補助金を出してやればいい。それ以外のところは全部、補助金なしでやればいい。『紅白歌合戦』をわざわざ公共放送でやるのは理解できない。スポーツ番組とかも、民放とほとんど変わらない。
受信料「月額300円」への道筋
――最後の質問ですが、受信料が半額にできる、ないしは200、300円にできるという根拠と、受信料の大幅値下げに至るまでの道筋を、一般の人向けにご説明いただけますか。
高橋教授 すごく長いプロセスになるが、とりあえずEテレの周波数帯売却をして、あとはBSデジタル放送の民営化をやり、そうするとNHKはテレビ1チャンネル+ラジオになる。テレビ1チャンネルのうち、本当に公共的なところには、国から補助金をもらってもいい。テレビ番組の多くはコマーシャルやスクランブル化で対応できる。そういうイメージです。そうすれば、国民としての負担は公共放送の部分だけだから、それを受信料として取るか、少額であれば他の公共料金と一緒に取る。もしくは税金で取るかという選択になる。その結果、月額200~300円になるだろう。
――というお話であれば、「公共放送の報道機関」を標榜しているNHKとしては、烈火のごとく怒りながら抵抗するんでしょうね。
高橋教授 そうでしょう。
――今の状態が、NHKにとっては“最適”でしょうから。
高橋教授 それを書いたのが「現代ビジネス」の記事です。今のNHKはせいぜい、BSの売却ぐらいしか考えておらず、基本は「現状維持」でしょう。
――ところで先生は、NHKの定時ニュースは「公共」ではないと思っていますか?
高橋教授 ないと思う。普通のニュースで民放と同じでしょう。
(聞き手・文=明石昇二郎/ルポライター)