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大飯原発、規制委の設置許可「取り消し」判決…原発再稼働の論拠崩れる、事実上困難に

写真・文=粟野仁雄/ジャーナリスト
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勝利判決を喜ぶ石地優さん(左)

「福島第一原発の事故後、国が設けた世界一厳しい基準をクリアしたのだから」

 電力会社が錦の御旗にしてきたこの論拠が通用しなくなった。

「勝ちました、勝ちましたよ」。12月4日午後3時過ぎ、大阪地裁の正門から福井県若狭町の石地優さんと女性ひとりが垂れ幕を手に飛び出した。「やったあー」「よーし」と集結していた人たちは歓喜に沸いた。石地さんは「(裁判長が)主文を読み上げている時、涙がこみ上げてきた。今後につながる希望がある判決」。遅れて出てきた冠木(かぶき)克彦弁護団長は「全国の原発に大きな影響を与える判決だ」と興奮気味に話した。

 原告団は関西電力が再稼働を目論む大飯原発(福井県おおい町)の3、4号機(定期点検中)について「大地震への耐震性が不十分」と、国の原子力規制委員会(以下、規制委)が2017年5月に許可した設置変更の取り消しを求めていた。原発は原子炉等規制法により、原子炉の設置(すでに設置されていて再稼働などの場合は設置変更)が認められなくては動かすことはできない。

 森鍵一裁判長は規制委のGOサインについて「看過しがたい過誤、欠落がある」と厳しく批判、設置(変更)許可の取り消しを言い渡した。東京電力福島第一原発の事故で新たな規制基準ができて以降、原発の設置許可を取り消す司法判断は初めて。電力会社への「お墨付き」が大きく揺らいだ瞬間だった。

 関西在住者ら約130人の原告団の闘争の勝利。会見で原告側の小山英之共同代表は「8年半にわたって闘ってきた成果。勝てる確信はあったが、やはりうれしかった」と喜び、アイリーン・美緒子・スミス共同代表は「今日だけは喜びましょう。でも日本は地震国。原発事故から市民や環境、経済を守るための最後の警告です。コロナ禍で原発事故が起きたらどうするのですか」と改めて訴えた。

 判決内容については「地震は平均値が襲ってくるのではないんですよ」という冠木弁護士の言葉が端的だ。原発は立地近辺での予想最大震度である「基準地震動」を算出して設計、建設される。関電は過去の震災から平均的な「基準地振動」を想定して規制委に再稼働許可の申請をしていた。一方、規制委は平均値とはかけ離れた強震などの「ばらつき」を検討することを内規の審査ガイドに盛っていた。

「ばらつき」に注目したお手柄の小山氏によれば、1月に行われた進行協議で森鍵裁判長は国に対して、「審査ガイドの『ばらつきも考慮する必要がある』という部分は、福島原発事故後の新規制基準になって初めて設定されている。被告はその意味をよく考え、ばらつきとして少なくとも標準偏差を考慮しても設置許可基準規則を満たすことを具体的に示しなさい」と指示した。しかし国や関電はなんら具体的な回答をしなかった。もちろん、できなかったのだが、裁判長に対して「素人が口を出すな」と高をくくった態度もしっぺ返しをくらった。

 森鍵裁判長は「審査のガイドラインには、基準地震動の設定にあたっては過去に起きた地震の規模の平均値より大きな規模の地震が起きることも想定し、そうした『ばらつき』を考慮する必要があると書かれている。しかし、原子力規制委員会は『ばらつき』を考慮する場合、平均値になんらかの上乗せをする必要があるかどうかすら検討していない。審査の過程には看過しがたい誤りや欠落があり、違法」とし、規制委が自ら設けたガイドラインを軽視したことを厳しく指摘した。国と関電側にとってこれまでにない打撃となった。

 規制委の田中俊一元委員長(現委員長は更田豊志氏)は再稼働にGOサインを出すたびに「世界一厳しい基準をクリアしたということです。しかし絶対安全と言っているわけではありません」と言ってきた。聞き飽きた責任回避の言葉も空しい判決だった。

町議会は「再稼働の請願」を採択

 画期的判決で「原発反対」運動にも久々に勢いを増してきた。関電は来年1月にも老朽化した美浜原発(福井県美浜町)の3号機を再稼働させる予定だが、12月9日には京都府、滋賀県、愛知県などから駆け付けた「若狭の原発を考える会」の人たち約200人が、小浜市の僧侶の中嶌哲演氏らを先頭に「国は40年廃炉の約束を守れー」などと美浜町を練り歩き、町長と関電美浜事業所の事業所長に再稼働のストップを申し入れた。この日は11月23日に関電本店(大阪市北区)を出発した断続的なリレーデモの締めだ。

 同会の橋田秀美さんは「バスで来るのでコロナ対策などで準備が大変でした。老朽原発を止める本当の闘いはこれからです」と力を込めたがこの日、町議会は「再稼働の請願」を採択してしまった。

「考える会」の理学博士、木原壯林さんは「美浜原発3号機は、大飯原発と同様の算出方法で基準地震動を導き出している。基準地震動の算出にばらつきを考慮すれば、国が言う最大993ガルをはるかに上回り1330ガルになる」などと訴えた。事業所長への申し入れで木原氏は「関電は裁判で『専門的な知見に素人の裁判官が口出しをするな』と主張していた。人を馬鹿にした態度で裁判に臨んでいることを改めるべきでは」と指摘した。所長の代理で応対した広報担当職員は「ご意見を社内で共有したいと思います」などと話して引っ込んだ。

 この美浜事業所こそ、高浜町の森山栄治元助役(故人)が関電幹部に巨額の金品を贈り続けた舞台だった。

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関電へ申し入れる木原壯林氏
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関電美浜事業所へシュプレヒコールをあげる人たち

控訴審の争点

 大飯原発の3号機と4号機については、14年5月に福井地裁の樋口英明裁判長が「地震の揺れの想定が楽観的すぎる」と指摘して、当時、運転を停止していた原発の再稼働を認めない判決を言い渡したが、上級審でひっくり返されている。樋口氏はその後、名古屋家裁の統括官を最後に退官した。

 今回の判決について福井県の杉本達治知事は「当事者である国が責任を持って対応していくものであると思う」とコメント発表した。知事は当事者でなく他人事なのか。

 大飯原発では3号機は配管に傷が見つかり再開の見通しは立っていないが、4号機は来年1月に運転する予定。国は「到底承服できない」として控訴する模様だ。原発裁判は一審で国や電力会社が住民らに敗訴しても、出世しか考えない「ヒラメ裁判官」たちの居座る上級審で覆される歴史だった。

 かつて裁判官時代に金沢地裁で志賀原発の差し止め判決を言い渡した井戸謙一弁護士は「今回の判決は全国の原発裁判でも争点になっている部分なので影響は大きい。とはいえ裁判長は『ばらつきを検討すらしていない』とは言っているが『しなくてはならない』とは言っていない。控訴審で国と関電はこのあたりをついてくるでしょう」と冷静に見る。果たして大阪高裁はどんな裁判官が対応するのだろう。

粟野仁雄/ジャーナリスト

粟野仁雄/ジャーナリスト

1956年生まれ。兵庫県西宮市出身。大阪大学文学部西洋史学科卒業。ミノルタカメラ(現コニカミノルタ)を経て、82年から2001年まで共同通信社記者。翌年からフリーランスとなる。社会問題を中心に週刊誌、月刊誌などに執筆。
『サハリンに残されて−領土交渉の谷間に棄てられた残留日本人』『瓦礫の中の群像−阪神大震災 故郷を駆けた記者と被災者の声』『ナホトカ号重油事故−福井県三国の人々とボランティア』『あの日、東海村でなにが起こったか』『そして、遺されたもの−哀悼 尼崎脱線事故』『戦艦大和 最後の乗組員の遺言』『アスベスト禍−国家的不作為のツケ』『「この人、痴漢!」と言われたら』『検察に、殺される』など著書多数。神戸市在住。

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