ビジネスジャーナル > 社会ニュース > 日本学術会議「任命拒否」の真相
NEW

日本学術会議「任命拒否」の真相…なぜ共産党主導で抗議?70年続く根深い問題点

文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家
【この記事のキーワード】, , ,
日本学術会議「任命拒否」の真相…なぜ共産党主導で抗議?70年続く根深い問題点の画像1
菅義偉首相(「Getty Images」より)

 新型コロナウイルスに席巻された2020年だったが、10月に入ってからは日本学術会議の「任命拒否問題」が政治における話題の中心となって、現在も議論は続いている。

 この問題には、わかりにくさがある。それは、日本学術会議が内閣府、つまり総理大臣が直轄する組織でありながら、なぜ「独立性」が問題になるのか、根拠が曖昧なことだ。

 日本学術会議が2017年に宣言した「軍事的安全保障研究に関する声明」では、軍事研究に反対すると主張している。そして2018年には、防衛省の助成を受けてきた北海道大学が、日本学術会議などから圧力を受けたことで、研究半ばで撤退へと追い込まれている。日本学術会議は国の安全保障政策を阻止する立場なのである。

 国の安全保障の基本となるのは軍事力であり、そこで重要なのが軍事技術だ。中国の軍事的圧力が強まり尖閣諸島周辺などの国土が脅かされて、国際的に中国の脅威への警戒感が高まるなか、総理大臣が直轄する日本学術会議が市民団体のような活動をしていることに違和感を覚えた人も多いはずだ。

 なぜ日本学術会議には、そのような“特権”があるのだろうか。

過剰な表現による攻撃

 前述したように、日本学術会議は総理大臣が直轄している組織であるが、同会議が推薦した学者の一部の任命を見送ったことで菅義偉首相は、野党やリベラルマスコミ、日本学術会議に加え多くの学術関係者から攻撃を受けることになった。

 しかも日本学術会議だけでなく、任命拒否を受けた学者が当事者としてメディアに露出して、菅首相や加藤勝信官房長官への批判を繰り返して、総理官邸前デモまで起こった。いまだに「戦後」を引きずったまま冷凍保存されている組織が、総理大臣の直轄だというのはどういうことなのか。

 さらには、任命権がある総理大臣が任命を拒否したことに対し、「ヒトラー」「ポルポト」「ムソリーニ」など独裁者のアイコンで罵るのは明らかに過剰である。総理大臣に任命権があるのなら、任命しない権利もあると考えるのが普通であり、拒否できない任命権などありえない。だが、日本学術会議はその「普通」が通用しない組織なのだ。

 もちろん、任命拒否されたことを不満に思い「反政府的活動をしていて何が悪い」と開き直ることを、異常とまで言うつもりはない。異常に感じるのは、若者を指導する立場である大学教員でありながら、日本学術会議を直轄する菅首相を独裁にたとえて「無知だ」「インチキだ」と、マスコミのカメラの前で騒ぎ立てるところにある。大学教授という肩書を持つ者が、なぜ冷静な抗議ができないのだろうか。

任命拒否問題の本質

 任命拒否問題とは、会員の半分が交代する2020年に、日本学術会議側が推薦した105名のうち菅首相が6名の指名を見送ったことである。6名の学者が会員としてふさわしくないと政権側が考えて、指名を見送ったわけである。

 問題は105名という候補者の数だ。定員ちょうどの105名しか推薦しなかったのは、日本学術会議側が菅首相に「全員指名しろ」「1人も拒否するな」と圧力をかけたに等しい。

 日本学術会議は前回の会員交代年である2017年には110名を推薦しており、「5名の任命拒否枠」を提示していたことになる。ただし、その裏で日本学術会議側は“任命されるべき105名”を指定しており、残りの5名は体裁を繕っただけである。

 総理大臣は任命権を行使すべく110名の内から105名を選抜しているのだが、日本学術会議側はあくまで自分たちが推薦したのは105名であって、定員を超える5名は総理大臣に花を持たせるためだけだったということだ。外形的にはともかく、実質的に総理大臣に任命拒否をさせてはいないのだ。

 すると、2017年はお互いの顔を立ててやってきた約束事を、2020年には日本学術会議が反故にして実(じつ)をとるべく、また105名の推薦に戻したわけである。いわば、日本学術会議が総理大臣にけんかを売ったといえる。

 それに対して菅首相は、儀式化していた“任命見送り分”に1名上乗せした6名の任命を見送った。定員を大きく割り込むにもかかわらず、あえて6名を任命しなかったのは、菅首相が売られたけんかを買ったということだろう。

日本学術会議の常套手段

 実は、「見かけ上は政権に選択肢を渡したように見せて、実際は日本学術会議が一方的に決めている」という手法は、昔から使われていた。拙著『日本学術会議の研究』(ワック刊)で紹介したのは、1970年代に日本学術会議が科学研究費(科研費)の審査を行っていたときのことだ(現在は日本学術振興会が受け持っている)。

 日本学術会議は審査委員の候補を1つのポストにつき2名推薦していたのだが、その際に「第1順位」「第2順位」と優先順位をつけ、実質的に文部省(現文部科学省)に第1順位の候補者しか選ばせていなかった。一度、文部省が、第1順位の候補者が「左翼的」という理由で見送って第2順位の候補者を指名したところ、「学問の自由への侵害」「思想の自由への侵害」と執拗な攻撃を受け、ついに文部省が折れたうえに、「以後、第1順位からしか選ばない」との言質を取られてしまった。

 つまり、今回の任命拒否問題は、このときの繰り返しにすぎず、やり方も抗議方法も50年以上前からほとんど変わっていないのである。いわば、日本学術会議が政府に反抗するための組織であるために、「総理大臣から再び独立するべく反政府運動を起こした」ということになる。

共産党が抗議を主導するわけ

 そもそも任命拒否問題を最初にスクープしたのは、共産党の機関誌である「しんぶん赤旗」だった。本来、新会員の任命は10月1日の発表まで漏れてはいけないものだが、任命拒否された松宮孝明氏(立命館大学教授)が赤旗にリークしたのである。つまり、事前に日本学術会議、松宮氏、赤旗の三者で連絡を取り合った結果として、もたらされたスクープだということになる。これは菅首相が日本学術会議に対して“けんかを買った”ことで、共産党と日本学術会議がタッグを組み、菅首相に対抗すべく攻撃を仕掛けたのだろう。

 10月4日の衆院予算委員会で立憲民主党の枝野幸男代表、共産党の志位和夫委員長、国民民主党の玉木雄一郎代表が質問に立ったが、枝野氏が45分中26分、志位氏にいたっては55分のすべてを任命拒否問題に費やしている。なお、玉木氏は任命拒否問題を扱っていない。最初から共産党中心で進められていたことであって、日本学術会議と共産党が「一体化」していることがうかがえる。

 日本学術会議は1949年の設立後、かなり早い時期から共産党の影響下にあったと考えられる。「産みの親」ともいえるGHQ(連合国軍最高司令官総司令部)が日本学術会議を設立した目的は、同会議を、日本を軍国主義に戻さないための「ストッパー」とするためだった。

 だが、朝鮮戦争勃発などにより、日本がGHQ主導で再軍備に向かうなかでも、日本学術会議はそのまま「日本を軍国主義に戻さない」という思想を踏襲し、70年以上たってもフリーズドライ化したまま抱え込んでしまった。

 それは、日本学術会議が設立された当時の「戦前・戦中のものをすべて否定する」という、戦後すぐの空気のなかで、多くの学者が「左翼的であることが良心的」であると考えたことが要因だろう。日本学術会議の方向性が、共産党の主張する平和主義と親和性が高く、同会議より3年早い1946年に設立され共産党の強い影響下にあった「民主主義科学者協会」の影響を強く受けている。

 民主主義科学者協会は1960年ごろには消滅して、その後は「日本科学者会議」に引き継がれたが、その法学部門である「民主主義科学者協会法律部会」は、現在も活動を続けている。今回、任命拒否された6名のうち、前出の松宮氏を含む3名が民主主義科学者協会法律部会の関係者であり、そのことが任命拒否の要因のひとつであったことは、おそらく間違いないだろう。

 任命拒否問題は単に「菅首相が日本学術会議の推薦者を拒否した」という話ではなく、戦後からずっと続いてきた「共産党影響下の学術組織」を、どうすべきかという歴史的課題である。このまま70年前と同じことを繰り返せば、日本の左傾化した学術界や、安全保障に対する意識の低さや立ち後れなど、日本が根本的に抱えてきた問題もうやむやになる。政治主導で決着をつけるべきだろう。

 本問題については、科研費、左翼に優位な大学職、中国など深刻な課題がいくつもある。詳しいことは、12月17日発売の『日本学術会議の研究』(ワック刊)に記しているので、ぜひご参照いただきたい。
(文=白川司/ジャーナリスト、翻訳家)

白川司/評論家、翻訳家

白川司/評論家、翻訳家

世界情勢からアイドル論まで幅広いフィールドで活躍。著書に『日本学術会議の研究』『議論の掟』(ワック刊)、翻訳書に『クリエイティブ・シンキング入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン刊)、近著に『そもそもアイドルって何だろう?』(現代書館)。「月刊WiLL」(ワック)で「Non Fake News」を連載中。

Twitter:@lingualandjp

日本学術会議「任命拒否」の真相…なぜ共産党主導で抗議?70年続く根深い問題点のページです。ビジネスジャーナルは、社会、, , , の最新ニュースをビジネスパーソン向けにいち早くお届けします。ビジネスの本音に迫るならビジネスジャーナルへ!