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東京ヴェルディ、資金ショート・解体の危機…スポンサー「ゼビオ」、スクール事業譲渡を要求

文=松崎隆司/経済ジャーナリスト
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 経営再建中のサッカーの名門Jリーグチーム、東京ヴェルディ(J2)が資金ショートか解体かの存続の危機に直面している。

 東京ヴェルディは今期、ご多分に漏れずコロナ禍の煽りを受けて観客入場料収入やその他の事業収入が大幅に落ち込んだ。深刻な資金難と債務超過転落を回避しようとヴェルディ経営陣は経営再建に走ったが、ヴェルディの実質支配権を握るスポーツ用品販売大手のゼビオが経営陣の経営再建策に反対。ゼビオは、言うことを聞かないヴェルディ現経営陣を一掃し、自社グループがヴェルディ収益事業を破格の値段で買い上げることで資金提供を行う案を提案。それがヴェルディのサポーターたちにも知るところとなり、ゼビオは大反発を受けているという構図だ。

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20日の最終戦で、ヴェルディサポーターからはゼビオのやり方に反発する横断幕が掲げられた

 20日に開催されたJ2最終戦では、「スクール事業の強奪絶対反対。ヴェルディの宝を奪うな」などとゼビオの対応を問題視する横断幕が大量に掲げられ、ツイッター上でもゼビオに反発するサポーターの声で炎上状態となっている。

名門ヴェルディの歴史

 東京ヴェルディの前身は1969年に設立された読売サッカークラブ。91年にJリーグに加盟した「オリジナル10」のひとつで、この年の10月、読売新聞社、よみうりランド、日本テレビの読売グループ3社の出資により運営母体、「読売日本サッカークラブ」が設立された。チームの呼称は「ヴェルディ川崎」。Jリーグ発足当初から2001年までホームタウンを神奈川県川崎市に置いていたからだ。

 ヴェルディ川崎はJリーグがメジャースポーツとして注目される立役者となったチームであり、1992年のJリーグカップでは清水エスパルスを破り、初代王者に輝いたほか、93年の1stステージは鹿島アントラーズに優勝をさらわれ惜しくも2位だったが、2ndステージは優勝。Jリーグチャンピオンシップでも鹿島を破り、初代Jリーグ年間王者に輝いた。さらに翌年もサンフレッチェ広島FCを破り2期連続で年間王者となったが、ラモス瑠偉、ビスマルクなど有力選手の移籍や退団、三浦知良や前園真聖などの不調などからチームの成績は低迷するようになり、98年には読売新聞とよみうりランドが撤退。日本テレビ一社で支えるかたちになり、チーム名は「FCニッポン」に変更。経費削減のため高額年俸の三浦や柱谷哲二などの選手がチームを去った。

 その後、業績低迷の中で呼称も次々に代わっていく。2001年にはホームタウンを川崎市から東京都に移転。呼称も「東京ヴェルディ1969」に変更。2008年には「東京ヴェルディ」に変更され、その年J2降格が決定する。一方で日本テレビが中間決算で37年ぶりの当期純利益で赤字に転落、東京ヴェルディから撤退を決断した。

 経営危機に陥った東京ヴェルディは、Jリーグ史上初のJリーグ直轄運営となり、当時Jリーグの事務局長だった羽生英之氏が社長を兼務、スポンサー探しに奔走した。このとき、羽生氏にスポンサー候補となるゼビオ(現:ゼビオホールディングス)を紹介したのが現在のJリーグチェアマンとなっている村井満氏とされる。羽生氏はその後、ゼビオ、幼稚園を運営するバディ企画研究所などを中心とした複数の企業グループの共同出資を取り付けることに成功した。

「このときゼビオには、企業ロゴの掲示やユニフォームの独占供給など対価として5年間総額で3億5000万円のスポンサー料を提供してもらいました。また、1名の取締役を派遣し、5000万円で東京ヴェルディの過半数の株式を取得できる新株予約権を取得したわけです。この際、ゼビオは、ヴェルディが第三者に増資した場合には、ゼビオはその増資された株数に応じて新たに議決権の過半数を取得できるだけの株式に転換できる新株予約権を無償で発行させるという条件をヴェルディに飲ませました。これがその後、ヴェルディの命運を左右することになりました」(Jリーグ関係者)

 羽生氏は再建のめどがたったところでいったん経営から退く予定だったが、周囲から続投を希望する声が殺到したため、Jリーグの事務総長の職を辞して2010年10月に東京ヴェルディの社長に専念することとなった。そして10年間で売り上げを2.5倍にするなど健闘したという。

ゼビオ、自らの提案を反故

 しかし、プロスポーツ事業はプロ野球でもそうだが、クラブは広告塔的な存在で構造的な赤字を抱えている。単体で黒字化するのはそう簡単なことではない。この赤字をスポンサー企業は宣伝広告費などの名目で補填していく構造になっていることから、収益が拡大・安定している企業でないと維持していけない。

「ゼビオはいつになっても新株予約権を実行しない。株は持たないのに経営は支配するという状況が長らく続いた。おそらく新株予約権を行使することで連結子会社になってしまうと、ゼビオの連結決算の利益に影響を与え、株主から批判されるのを恐れたのではないでしょうか」(事情通)

 ところがコロナ禍のなかで来年1月までに運転資金が底をつく可能性が出てきたことから、羽生氏たちは資金調達の必要性に迫られ、ゼビオにも追加出資の要請をしたが相手にされず。そこで羽生氏は新しい出資先を見つけてきたものの、これにゼビオが猛反対。逆に新株予約権をすべて実行したうえで、ゼビオが派遣する取締役以外を全員辞任させ、その取締役たちが持つヴェルディ株式を1円で買い上げて株主から排除するという条件を提示した。

 これに対して、現経営陣は、ゼビオがすべての新株予約権を行使すればゼビオの子会社となり、経営責任の所在が明確になるため、現状よりもヴェルディのためになると一度は了承した。しかし、ゼビオは自らの提案を反故にした。

「ゼビオは新株予約権を全部ではなく一部だけ行使して8800万円の資金を出資したそうです。ただ、ヴェルディは今期末で5億円程度の債務超過が見込まれていて、それだけでは根本的な対処にならない。羽生社長はクラウドファンディングで支援を呼び掛けていますが、思うように集まらない。

 そこでゼビオから出された案として、ヴェルディの数少ない収益事業であるスクール事業を5億円で譲渡することを要求してきたのです。さらにその後は、クラブ運営は大幅なコストカットを行うことまで示唆してきたのです。これだと一時しのぎはできても先々ヴェルディの収益基盤はもっと悪化して経営の安定化どころではないですし、当然、有力選手の放出なども懸念されます」(事情に詳しい東京ヴェルディサポーター)

 大幅なコストカットなどすれば、クラブの若手の中心選手の放出も避けられないし、日本代表選手を抱える女子チームにも大きな波紋が広がる。これは事実上の東京ヴェルディの解体を意味する。

 すでにゼビオは新株予約権を行使し、11%の株式を取得。ゼビオと共闘関係にある筆頭株主のアマダナ(約22%)を加えると会社提案(現経営陣の増資案)を阻止するための3分の1を手にしたことになるという。

 Jリーグの村井満チェアマンとの太いパイプを持つゼビオは、筆頭株主アマダナとともに、ヴェルディの命運を握っている状況だ。

 ゼビオは本誌の取材に対して「答えることは何もできない」と回答している。ヴェルディは27日に臨時株主総会を開催し、株主に増資案を諮ることを決定した。果たして27日の株主総会ではどのような結果になるのか、目が離せない。

松崎隆司/経済ジャーナリスト

松崎隆司/経済ジャーナリスト

1962年生まれ。中央大学法学部を卒業。経済出版社を退社後、パブリックリレーションのコンサルティング会社を経て、2000年1月、経済ジャーナリストとして独立。企業経営やM&A、雇用問題、事業継承、ビジネスモデルの研究、経済事件などを取材。エコノミスト、プレジデントなどの経済誌や総合雑誌、サンケイビジネスアイ、日刊ゲンダイなどで執筆している。主な著書には「ロッテを創った男 重光武雄論」(ダイヤモンド社)、「堤清二と昭和の大物」(光文社)、「東芝崩壊19万人の巨艦企業を沈めた真犯人」(宝島社)など多数。日本ペンクラブ会員。

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