
コロナウイルス蔓延で生活が一変した2020年。世の中の多くの演劇、ミュージカルの舞台が中止や延期になり、また小劇場公演がウイルス感染のクラスターとされるなど、密室が前提で行われる舞台興行は大きなダメージを受けた。宝塚歌劇団もご多分に漏れず、コロナウイルスに翻弄される1年を送っていた。
本稿では、「ヅカオタ女医」である筆者が、2020年3月から年末までの宝塚にまつわる動きを振り返りつつ、現状について憂慮される点について指摘したいと思う。
雪組トップスター・望海風斗と星組トップスター・礼真琴が夢のデュエット
3月下旬から6月上旬まで、劇場での公演はおろかタカラジェンヌの劇団でのレッスン等もストップした。通常、宝塚が動いていることを知り得るツールはCS番組『タカラヅカ・スカイ・ステージ』の放送、なかでも『タカラヅカニュース』は日々の宝塚の様子をほぼリアルタイムで伝えてくれる番組なのだが、なにせ劇団が活動を中止しているのでニュース番組とはいえ3月当初は再放送ばかり。逆に異常事態であることが強調されているようだった。
しかしその後、番組のなかで、ステイホーム中のタカラジェンヌが持ち回りでファンに向けてメッセージを送ってくれるようになり、ここでタカラジェンヌの安否を確認できてファンはほっとひと安心。そして、通常なら実現困難と思われる雪組トップスター・望海風斗と星組トップスター・礼真琴という、非常に歌唱力が高いスターらがデュエットする歌番組や、米国の作曲家フランク・ワイルドホーン氏とその妻である元宙組トップスター・和央ようか氏、そして5組トップスターがリモートでコラボする企画等々、スカイ・ステージもしくはオンラインを通じて楽しませてくれる機会が増えた。
7月の公演再開以降、9月、10月と時間が経つにつれ、宝塚ファンにも徐々に“緩み”が
そして7月に宝塚の舞台は上演を再開したのだが、8月、再開後初めて筆者が東京宝塚劇場に足を踏み入れたときの感覚は忘れられない。開演時間直前だったというのもあろうが、ロビー、客席内とも驚くほどの静けさに包まれていた。宝塚の開演前とは思われない異様な雰囲気である。
休憩時間になるとロビーではさすがに会話する人もいたが、それにしても静かだった。コロナ禍で再開した宝塚の火を消すまいと観客が一丸になっているかのようだった。だが9月、10月と時が経つにつれ、休憩時間のロビーでは軽食を取りながらの会話が目立ち始め、11月にはもはや、コロナ禍以前とほぼ変わらない賑わいが戻ってきていた。
劇場入口でのサーモグラフィチェックは必須だが、その後にアルコールでの手指消毒を行わずに入場される方もちらほら。今、取り沙汰されている「緩み」が宝塚ファンにも見られていることは否めなかった。8月の緊張感は一体どこに……である。