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三菱銀行出身者しか頭取にしてはならぬ!半沢頭取に沸く三菱UFJ銀行の“鉄の不文律”

文=菊地浩之
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2020年12月24日、三菱UFJ銀行は東京都千代田区内で記者会見を催し、現在同行の常務執行役員を務める半沢淳一氏が次期頭取に就任する人事を発表した。就任は2021年4月1日。写真は左より三菱UFJフィナンシャル・グループの亀沢宏規社長、半沢淳一氏、三菱UFJ銀行現頭取の三毛兼承氏。(写真:毎日新聞社/アフロ)

またもや、“三菱銀行出身者”が頭取に就任

 TBSドラマのあの「半沢直樹」のモデルと噂されていた半沢淳一氏が、三菱UFJ銀行の次期頭取に内定したとの報道が駆け巡った。

 小説『半沢直樹』シリーズの著者で、半沢氏と同期入行の池井戸潤氏は、半沢氏がモデルであることをやんわり否定しているが、ともあれ、三菱UFJ銀行のイメージアップに寄与することは間違いない。

 三菱UFJ銀行(旧称・三菱東京UFJ銀行)は、2006年に東京三菱銀行とUFJ銀行が合併してできた銀行である。さらにいえば、東京三菱銀行は1996年に東京銀行と三菱銀行が、UFJ銀行は2002年に三和銀行と東海銀行が合併してできた銀行なので、母体の銀行は4つあるのだが、この銀行は誕生以来、ただひとりを除いて、すべて三菱銀行出身者が頭取に就いている。

 たとえばみずほ銀行の場合、第一勧業銀行・富士銀行・日本興業銀行出身者がほぼ交互に頭取を務めている。しかし、三菱UFJ銀行は基本的に、三菱銀行出身者しか頭取に就いていないのである。

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【戦後の三菱銀行~三菱UFJ銀行 歴代頭取】
※三菱銀行は1919年に三菱合資会社銀行部を分離独立して誕生した。 慶応義塾の大学移行は1920年、それ以前は大学ではなく、専門学校扱いだった。

「三菱銀行以外」からの出身者のカラクリ……“血”はむしろ非常に濃い三菱系

 三菱銀行が東京銀行と合併してできた東京三菱銀行の初代頭取は、東京銀行頭取の高垣佑(たかがき・たすく)だった。

 その高垣が唯一の例外である。それ以降、東京三菱銀行(三菱銀行)は、三菱信託銀行(現・三菱UFJ信託銀行)と経営統合しようが、UFJ銀行と合併しようが、頭取の席は他行出身者に譲らず、かたくなに三菱銀行出身者が守り通してきた。まことにアッパレというほかない。

 しかも、その“唯一の例外”さえ、非常にグレーなのだ。

 高垣佑の父は、高垣勝次郎といって旧三菱商事最後の社長である。三菱グループには三菱金曜会という三菱系の会長・社長が集まる会合があり、そのトップを世話人代表というのだが、高垣勝次郎はその初代・三菱金曜会世話人代表だった。

 つまり高垣佑は、東京銀行に勤めていたものの、そんじょそこらの三菱マンよりもよっぽど三菱グループの本流に近い人物なのだ。

 それだけではない。合併時の東京銀行は、会長・副頭取も三菱グループに近い人物だった。

 三菱銀行と合併した際の東京銀行の会長は大蔵省(現・財務省)からの天下りなのだが、戦時中の興信録によると、大分高等商業学校教授・末永想太郎(すえなが・そうたろう)の養子になっていたらしい。その末永の長男が戦後、三菱重工業の社長に就任している。

 また副頭取は、荘田平五郎(しょうだ・へいごろう)の孫娘と結婚している。荘田平五郎は岩崎弥太郎の姪と結婚し、三菱合資会社の筆頭管事に就任して三菱財閥の基礎を固めたといわれる名番頭である。

 三菱グループには有力者の子弟が多いといわれる。確かにそれは否定し得ないが、他の銀行も五十歩百歩だったというわけである。

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大正~昭和時代の銀行家・加藤武男。大正8年、三菱銀行の発足とともに常務取締役に、昭和18年には頭取に就任し、戦後は三菱財閥の実力者として活躍した。(画像はWikipediaより)

三菱銀行の頭取の甥が日銀総裁へ…民間銀行から日銀総裁も珍しくなかった過去の日本

 さて、三菱グループには有力者の子弟が多いといわれる。

 戦時中に三菱銀行の頭取を務めた加藤武男(かとう・たけお)は、戦後の三菱グループ再結集を支えた影の功労者で、戦後の三菱グループでは絶大な影響力を持っていた。その5代後の頭取・宇佐美洵(うさみ・まこと)は、加藤の妻の甥にあたる。

 加藤の妻は池田成彬(いけだ・せいひん)の妹で、池田に人物を見込まれて、妹との結婚を要請されたそうだ。この池田がこれまたすごい人物で、下記を歴任している。

・三井銀行筆頭常務(頭取は三井さんなので、三井銀行の事実上のトップ)
・三井合名会社筆頭常務理事(三井財閥の事実上のトップ)
・日本銀行総裁(14代)
・大蔵大臣兼商工大臣

 宇佐美洵は池田の姉の子に当たり、三菱銀行頭取から日本銀行総裁(21代)に転出した。今でこそ、民間の銀行から日本銀行総裁への転出人事は滅多にないが、昔の日本は、結構人材の流動性が高かったのだ。

 池田成彬は三井合名会社常務理事だった中上川彦次郎(なかみがわ・ひこじろう/福沢諭吉の甥)の娘婿で、慶応義塾の本流ともいえる人物である。加藤武男、宇佐美洵も慶応卒なのだが、宇佐美退任後、「三菱銀行は東京大学卒でなければ頭取になれない」といわれるようになった。

三菱銀行頭取の従兄弟が三菱商事社長で、妻は岩崎家当主の従姉妹で、三菱重工社長の妻も従姉妹

 宇佐美洵は優秀な上に三菱グループ長老の甥なので、若い頃から将来の頭取候補と目され、長期政権は間違いなしと思われた。ところが、3年ちょっとで日本銀行総裁に転出してしまう。急遽、副頭取の田実渉(たじつ・わたる)が頭取に昇進した。

 田実の父は三菱の顧問弁護士を務めており、母方の従兄弟・荘清彦(しょう・きよひこ)が当時三菱商事の社長を務めていた。しかも田実の妻は、当時の岩崎家の当主・岩崎彦弥太(いわさき・ひこやた)の従姉妹で、三菱重工業社長・牧田与一郎(まきた・よいちろう)の妻も従姉妹だった。

 三菱銀行・三菱商事・三菱重工業のトップが親戚なんだから、何をするにも話が早い。田実が頭取を務めている頃が、三菱グループの最盛期といっていいだろう(ちなみに荘清彦の姉の夫が、加藤武男の後任頭取・高木健吉である。つまりは、田実も頭取の義理の従兄弟ということになる)。

 田実の8代後の頭取・畔柳信雄(くろやなぎ・のぶお)は、田実が頭取在任中に入行したのだが、父親(第一生命保険役員)が田実の小学校の同級生なのだ。以下は勝手な想像なのだが、まぁまぁ珍しい名字だから、「あぁ、畔柳クンのお子サンかぁ」ということになって、配属先の支店長にも「ボクの小学校の同級生のお子サンなんだよ」と耳打ちぐらいするだろう。支店長サンとしては無碍(むげ)には扱えないだろうねぇ。

長期政権の弊害を見て、「在任4年」の不文律をきっちり守る“組織の三菱”の真骨頂

 田実渉の次の中村俊男(なかむら・としお)、続く山田春(やまだ・はじめ)は共に7年以上頭取に在任しており、いわゆる長期政権である。これには三菱グループ人事が関係していたという噂だ。

 先に紹介した三菱金曜会世話人代表。中村はこれになりたかったのだが、それには現役として会長に留まっていなければならない。そこで、山田に頭取を辞任しないように釘を刺していたというのだ。中村・山田が長期政権を敷いた結果、人事が滞留してしまったという。

 後任の伊夫伎一雄(いぶき・かずお)は人望があったのだが、長期政権の悪影響を身近に感じていたためか、4年でスパッと辞めてしまったという。

 以来、三菱銀行では頭取の任期は原則として4年というのが不文律になっているようだ。その不文律をキッチリ守っていくところが、「組織の三菱」の真骨頂なのだろう(伊夫伎の後任・若井恒雄は東京銀行との合併交渉で5年以上在任してしまったらしい)。

京大卒の頭取→在任1年2カ月の東大卒頭取→慶大卒の頭取…の“波乱人事”

 というわけで、三菱銀行は2度の合併、3度の行名変更を経て三菱UFJ銀行となったのだが、基本的に東大卒、三菱銀行入行、任期4年で続けてきたのだが、史上初めて京大卒の頭取が誕生し、東大卒に戻ったものの1年ちょっとで退任。そして久しぶりの慶大卒の誕生と、波乱(?)の頭取交代が続いた。

「週刊ダイヤモンド」(ダイヤモンド社)2017年7月29日号によれば、「三菱東京UFJ銀行」が行名変更する際、平野信行(ひらの・のぶゆき)会長が「MUFG銀行」案を推したという。三菱東京UFJ銀行とはいっても、頭取人事を見る限り、実態は三菱銀行のままなのだから、頭取OBは猛反発。結局「三菱UFJ銀行」に落ち着いたのだが、両者の板挟みとなった小山田隆(おやまだ・たかし)は精神的に追い詰められ、体調不良を来たし、わずか1年ちょっとでの退任を余儀なくされたとか――。新頭取にがんばってほしい。

(文=菊地浩之)

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戦前の、三菱銀行周辺の“華麗なる家系図”。慶應義塾創設者の福沢諭吉や、2021年の大河ドラマ『青天を衝け』の主人公でもある渋沢栄一の名前も見える。

菊地浩之

菊地浩之

1963年、北海道札幌市に生まれる。小学6年生の時に「系図マニア」となり、勉強そっちのけで系図に没頭。1982年に國學院大學経済学部に進学、歴史系サークルに入り浸る。1986年に同大同学部を卒業、ソフトウェア会社に入社。2005年、『企業集団の形成と解体』で國學院大學から経済学博士号を授与される。著者に、『日本の15大財閥 現代企業のルーツをひもとく』(平凡社新書、2009年)、『三井・三菱・住友・芙蓉・三和・一勧 日本の六大企業集団』(角川選書、2017年)、『織田家臣団の系図』(角川新書、2019年)、『日本のエリート家系 100家の系図を繋げてみました』(パブリック・ブレイン、2021年)など多数。

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