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中西貴之「化学に恋するアピシウス」

ホットミルクの表面にできる「膜」は捨てずに食べるべき?実は牛乳以上に栄養の塊?

文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部
ホットミルクの表面にできる「膜」は捨てずに食べるべき?実は牛乳以上に栄養の塊?の画像1
「PIXTA」より

 寒い1月、街を歩いていても温かい飲み物が欲しくなる季節ですが、そんなとき、みなさんは何を飲んでおられるでしょうか。ホットコーヒーをテイクアウトする方が多いのではないかと思いますが、仕事帰りであればホットワインが恋しい季節でもあります。子どもの頃なら、家族が牛乳を温めてくれた経験のある方も多いのではないでしょうか。

 最近では、コンビニでホットミルクをテイクアウトできるようになり、カフェインやアルコールを気にして、ホットミルクを選んでいる方も多いと思います。

ホットミルクの表面にできる「膜」の正体とは?

 ホットミルクで気になるのは、温めて時間が経つと表面に形成されるですが、あの食感が苦手でカップの内側に貼り付けるようにして避けて飲んでいる方もおられると思います。あれはいったい何なのでしょうか?

 牛乳は約87%が水ですが、タンパク質を3%以上、脂質を4%弱、炭水化物を5%弱、さらにビタミン・ミネラルを豊富に含み、5大栄養素をバランス良く含んだ完全食に近い食品です。大人になると体質的に牛乳が飲めなくなる方もおられますが、そうでなければ積極的に摂取したい飲料です。

 牛乳を40℃以上に温めると、表面に薄い膜ができます。この膜は、加熱する時間と温度に比例して厚さが増します。この現象には「ラムスデン現象」という名前がつけられています。その仕組みは、加熱によって牛乳の表面で水分が蒸発すると、熱に弱いタンパク質が濃縮凝固を起こし、その過程で周辺の脂肪や乳糖を包み込み、膜となるものです。

 成分は脂肪分が70%以上ですが、タンパク質を20~25%も含み、ミネラルも2%も含んでいるため、牛乳を飲むよりもむしろ、この膜を食べた方が栄養摂取効率は高く、捨てるにはもったいないものです。なお、牛乳の代わりに豆乳でラムスデン現象が起きたものが「ゆば」です。

 この膜は、避けても避けても次々に形成されるので、嫌いな人によっては歯がゆいものですが、後にできる膜ほどタンパク質含量が高くなります。豆乳がいつまで経っても膜をつくり続けられるのに対して、牛乳では膜を数回取り除くとできにくくなります。日本人は牛乳の膜が嫌いな人が多いようですが、欧州では、チーズ文化が盛んなせいもあるでしょうけれど、牛乳の加熱濃縮凝固膜からチーズをつくったりもしています。

ホエイに食事性糖尿病の発症を抑える作用が

 ところで、牛乳から乳脂肪分やカゼインなどを除いた液体成分をホエイ(乳清)といいます。ホエイには、β-ラクトグロブリンなどの有用なタンパク質が豊富に含まれています。β-ラクトグロブリンは牛乳を温めたときにできる膜の主要タンパク質でもあり、ヨーグルトを冷蔵庫で静置しておくと出てくる上澄みの主要タンパク質でもあります。

 東北大学による最近の研究で、乳清タンパク質のホエイプロテインに2型糖尿病(食事性糖尿病)の発症を予防する作用があるらしいことが明らかになりました。

 肝臓からは「線維芽細胞増殖因子21(FGF21)」というホルモンが分泌されています。FGF21はインスリンに関係するホルモンで、高脂肪食のような肥満や2型糖尿病を誘発する食事をマウスに与えると、高血糖や体重増加をきたす前に血液中のFGF21濃度が増加することが知られています。

 このことから、血液中のFGF21を測定することにより、その人が肥満や2型糖尿病の発症を促す食習慣を持っているかどうかの指標として役に立つのではないかと考えられると共に、FGF21の増加が肥満や2型糖尿病発症のきっかけになっているのではないかと推測されています。

 そこで研究者らは、FGF21ホルモン分泌に関係している食品の探索を行い、高脂肪食を摂取させたマウスに対し、乳清タンパク質のホエイプロテインを投与したところ、高脂肪食による肝臓からのFGF21分泌の増加が抑制され、インスリン抵抗性と高血糖が抑制されることを発見しました。

 さらに、神経伝達物質の一種であるセロトニンは腸からもホルモンとして分泌されていますが、腸由来のセロトニンは高脂肪食で増加し、インスリン抵抗性、脂肪肝、耐糖能障害を起こすことが知られています。ホエイプロテインのセロトニンへの影響を調べたところ、ホエイプロテインには腸由来のセロトニン分泌を抑制する効能も発見されました。

ホットミルクの表面にできる「膜」は捨てずに食べるべき?実は牛乳以上に栄養の塊?の画像2
セロトニンの構造式

 これらの研究結果から、ホエイプロテインは高血糖のきっかけとなる肝臓からのFGF21ホルモンと、腸からのセロトニンホルモンの分泌を同時に抑制し、インスリン抵抗性を改善し、高血糖を抑制することが示唆されました。つまり、ホエイプロテインの摂取は食事性糖尿病の発症を予防することが示唆されたということです。

 ホットミルクにできるを食べれば直ちに高血糖が抑制されるというヒトでのデータはないものの、牛乳の重要なタンパク質が濃縮されたあの膜は、捨てるには少しもったいない食品成分ですね。

(文=中西貴之/宇部興産株式会社 品質統括部)

【参考資料】
日本食品標準成分表『普通牛乳』

一般社団法人日本乳業協会Webサイト

乳清タンパク質ホエイプロテインの新たな効能を発見」(東北大学)

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

中西貴之/宇部興産株式会社 品質保証部

宇部興産品質保証部に勤務するかたわら、サイエンスコミュニケーターとしてさまざまな科学現象についてわかりやすく解説

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