
世界の新型コロナウイルスの累計感染者数が1月10日、9000万人を超えた。感染力の強いウイルス変異種の確認も世界各地で相次いでいる。世界保健機関(WHO)は「変異ウイルスの出現により事態がさらに悪化する可能性がある」と警告を発している。変異種が最初に発見された英国では、変異種の広がりで入院患者数が急増していることから、ロンドンのカーン市長は8日、「制御不能だ」として「重大事態」を宣言した。
日本も1都3県に対して再び緊急事態宣言を発したが、新規感染者数の増加を抑えることができず、全国の重症患者数は連日のように過去最高を更新している。
「日本も欧米のように医療崩壊が始まる」との悲鳴が上がりつつあるなか、筆者が待ちに待っていた朗報が英国から届いた。英国のジョンソン首相は7日の記者会見で、「(大阪大学と中外製薬が開発した)リウマチ治療薬(アクテムラ)が新型コロナウイルス治療に有効だ」と発表したのである。
インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームの臨床試験によれば、アクテムラの投与により、重症患者の死亡リスクが24%減少し、入院期間も10日間短縮できるという。英国政府は8日から「ICUの重症患者にアクテムラを速やかに使用することを医師に求める」方針を明らかにしており、ハンコック保健相は「ウイルス封じ込めで重要な役割を果たすだろう」と期待を述べる。
新型コロナウイルス重症患者用の治療薬としては、昨年6月に英オックスフォード大学の研究チームが有効性を確認して以来、デキサメタドン(ステロイド薬)が世界で広く使用されている。アクテムラの有効性についても英国が世界に先駆けて認めたことで、今後アクテムラの使用が世界各地に普及していくことだろう。
サイトカインストームを抑制
筆者はかねてからアクテムラに注目してきた(2020年7月1日付コラムなど)が、アクテムラの優位点を改めて説明したい。世界の新型コロナウイルス感染による死者数が200万人を超えることが確実な情勢であることから、「新型コロナウイルスは恐ろしい毒性を持っている」と思われがちだが、ウイルス自体の毒性は季節性インフルエンザのほうが強いといわれている。それではなぜ多くの死者を出しているかといえば、その答えはサイトカインストームである。本来私たちの身体を守るはずの免疫細胞が暴走し、全身に炎症を引き起こす免疫の過剰反応のことだが、これが重症化の原因なのである。平野俊夫量子科学技術研究開発機構理事長(前大阪大学総長)らが20年4月に論文を発表して、このことを明らかにしている。
サイトカインとは、細胞から分泌される生理活性タンパク質の総称である。サイトカインは感染症への防御を担っているが、過剰に分泌されると多臓器不全などの原因となる。この状態がサイトカインストームであるが、デキサメタドンは免疫機能全般を低下させることでサイトカインストームを抑制したことに成功したと考えられる。