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藤和彦「日本と世界の先を読む」

日本製「アクテムラ」、コロナ治療に有効…英国政府、重症患者への迅速な投与を表明

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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 それでは、なぜ新型コロナウイルスはサイトカインストームを引き起こすのだろうか。平野氏らの研究によれば、重症患者の血液ではサイトカインの一種であるインターロイキン6(IL6)の濃度が上昇している。IL6は免疫反応など生体の恒常性維持に必要なサイトカインだが、炎症性を有することから、サイトカインストームの中心的な役割を果たすとされている。体内にはIL6を大量に分泌するための増幅回路(IL6アンプ)があるが、新型コロナウイルスが増殖する気管支や肺胞上皮にもIL6アンプが存在する。気管支や肺胞上皮に侵入した新型コロナウイルスがIL6アンプのスイッチをオンにしてしまい、サイトカインストームが起きてしまうというわけである。

 このことからIL6の分泌を抑えれば、サイトカインストームが起きないことがわかるが、アクテムラは世界初のIL6阻害剤として開発され、日本国内では05年6月から関節リウマチ用治療薬として市販されている。アクテムラの新型コロナウイルス治療薬としての有効性については、中外製薬の親会社であるスイス・ロシュが昨年3月から米国・カナダ・欧州などで臨床試験を開始し、中外製薬自身も昨年4月から国内で臨床試験を実施している。日本の臨床現場でも一部で使用され、良好な成果が出ているという。

 在英国際ジャーナリストである木村正人氏の取材に対し、アクテムラの開発者のひとりである前述の平野氏は「サイトカインストームが本格的に始まり組織破壊が進行すると手遅れになる一方、軽症者には逆効果になる可能性がある。投与が早すぎても遅すぎても駄目であり、英国の報告にあるように人工呼吸器装着24時間以内に投与することが重要だ」と指摘する。さらに「アクテムラの投与により、重症化防止のみならず後遺症の発症を防ぐ効果も十分考えられる」としている。

早期の緊急事態宣言解除のために

 新型コロナウイルスに対応する医療現場の崩壊が懸念されているが、その要因は重症患者の治療期間の長期化にある。回復後の後遺症の問題も深刻な社会問題になりつつあるが、アクテムラの投与がこれらの問題の解決に寄与するとすれば、新型コロナウイルスのパンデミックの脅威を大きく減じることになるだろう。

 40カ国以上の国々で新型コロナウイルスワクチンの接種が始まっている。日本での接種開始は2月下旬とされているが、重症化しない治療薬があれば、ワクチンを接種しなくても新型コロナウイルスはありきたりの「はやり風邪」となるのではないか。

 政府は英国にならい、医療現場に対してアクテムラの使用を一刻も早く通知すべきである。重症患者の治療をコントロールすることができれば、早期に緊急事態宣言を解除できる道が見えてくるのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

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