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片田珠美「精神科女医のたわごと」

「五輪必ずやる」発言の菅首相は“幻想的願望充足”…願望を現実と混同、甘い認識の危うさ

文=片田珠美/精神科医
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 こういう状況で、五輪のための予選や準備ができるのか? アメリカやイギリスなどの先進国でこのありさまなのだから、途上国はもっと大変なのではないか。PCR検査を実施するのに必要な設備も体制も不十分なせいで、感染者数や死者数に反映されていないだけなのではないかと危惧せずにはいられない。

菅首相の求心力、急速に低下の懸念

 したがって、菅首相の現状認識は甘すぎると思う。それだけでなく、目の前の現実をきちんと直視しようとせず、「五輪をやり切ることできたらいいのに」という願望を現実と混同しているようにも見える。これを精神医学では「幻想的願望充足」と呼ぶ。政治家は常に最悪の事態を想定し、その対策を講ずるべきなのに、「幻想的願望充足」にとらわれていて大丈夫なのだろうか。

 私が何よりも心配するのは、緊急事態宣言の発令と同様に、追い込まれて五輪の再延期もしくは中止の決断をせざるをえなくなるのではないかということである。緊急事態宣言は、小池百合子東京都知事をはじめとする一都三県の知事の要請によって出すことになったが、それと同じ事態になる可能性も十分考えられる。

 そうなれば、菅首相の対応はすべて後手に回っており、指導力も決断力もないという印象を国民に与えかねない。ルネサンス期のイタリアの政治思想家、マキアヴェッリは「国家の指導者たる者は、必要に迫られてやむをえず行なったことでも、自ら進んで選択した結果であるかのように思わせることが重要である」と述べた。たとえ“ふり”だけでも、国民にそう思わせることができなければ菅首相の求心力は急速に低下するだろう。

 もっとも、「自ら進んで選択した結果であるかのように思わせる」ためには、自分で責任を取るという覚悟がなければならない。その覚悟が菅首相にはあるのだろうか。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

塩野七生『マキアヴェッリ語録』新潮文庫 1992年

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