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広がる“コロナ貧困”…車椅子で路上生活、普通に働いていた人が家賃払えず、貯金尽きる

文=林美保子/フリーライター
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大人食堂で弁当などを配るスタッフの方々。写真中央は枝元なほみさん

 コロナ禍のなかで、初めての新年を迎えた。40以上の支援団体が連携する「新型コロナ災害緊急アクション」では、1月1日と3日の2日間、東京・四谷にある聖イグナチオ教会で「年越し大人食堂」(食事提供・相談会)を開催した。当日は、料理研究家の枝元なほみさんが調理を担当、感染防止のため弁当形式にして、手づくりの料理やスープをプラスティック容器に入れて配布した。

自営業も、大学院生も、警備員も、路上生活者も

 近くの土手に配置された折り畳みイスに座って弁当を食べていた男性(55)は、下請けの印刷業をしているという。

「仕事の注文が落ち込んでいたところにコロナ禍が追い打ちをかけました。4月の緊急事態宣言が出たあたりから打ち切りが続き、今はまったくなくなりました」

 持ち家はあるが、ここ数カ月、節約のために1日2食に抑えている。貯金も尽きかけているという。

「とにかく、仕事があって働いて、それが一番ありがたかったんだなあと気づきました」

 その近くで3歳の女児に弁当を食べさせている女性(34歳)は、これから相談会に向かうという。女性は研究者になるという夢を抱き、夫を説得して大学院生となった。子育て、学業、アルバイトをこなしていたが、コロナ禍で状況は一変した。

 夫の仕事は激減して、女性もアルバイトの仕事を失った。さまざまな支援制度も、この女性のように子どもを持つ学生という立場を想定していない場合が多く、大学院を続けることができるかどうかの瀬戸際にきているという。

「衣服の配給もあると聞いたので、娘の冬服があればいいなと思って来ました。娘に不自由な思いをさせてまで自分の夢を追いかけていいのかという思いはあります。でも、コロナ禍のために夢を断念するのも悔しいです」

 相談を終えて出てきたのは、警備の仕事をしている50代の男性だった。名目上は社員なのだが日払いで、イベント会場や工事現場を担当しているため、コロナ禍の煽りをもろに受けた。春には給料が5万円以下になった。家賃6万円が払えず、生活保護も頭によぎったが、住居確保給付金制度総合支援資金制度を利用して、なんとか乗り切った。東京オリンピックが開催されれば警備の仕事は増えるが、もし中止になったり、コロナ禍が長期化したりすれば、仕事はもっと減るだろう。

「だから、最悪のことを視野に入れ、生活保護について知りたいと思い、相談に来たのです」

 手提げ袋には弁当が入っていた。「食事提供はうれしいんですけど、こんな歳になって、ちょっと恥ずかしいです」と、男性は照れたように笑う。このようなイベントに慣れておらず、恐る恐る来たのだという。

「最初は審査みたいのがあるのかなと思ったりしてね。でも、気軽な感じでうれしかったですよ」

 医療相談を担当した医師に話を聞くと、車椅子を必要としながらも路上生活を強いられている40代男性からの相談があったという。統合失調症で、生活保護を受けながらアパートに住んでいたのだが、昨秋、脳出血で倒れて入院した。後遺症のために、自宅前の10段の階段が上れず、退院後は自宅に帰ることができずにいる。区に相談したところ、「ヘルパーを手配するまではネットカフェにいるように」と車椅子を貸してくれたものの、ネットカフェでは、「車椅子の場合には介助者同伴が必要」と言われた。1日2人分を支払わなくてはならないために所持金はすぐ底をつき、路上生活を余儀なくされている。

「路上にいることは、区も知っているそうです。この件に関しては、区議会議員に対応をお願いしました」

 咳が止まらないという相談をしてきた路上生活者もいた。

「おそらく喘息なのではないかと思います。無料低額診療所を紹介しました」

 筆者がこの場で話を聞いたのは来場者のなかのほんの一部にすぎないが、困窮する人たちの背景は千差万別だった。コロナ禍は確実に、困窮者の領域を広げてしまったようだ。

自助も共助も限界にきている

 大人食堂の主催団体のひとつ、一般社団法人「つくろい東京ファンド」代表理事の稲葉剛さんによると、大人食堂は1年前に続き、2回目だという。

 普段は日払いなどの仕事をしながらネットカフェに寝泊まりをしている若者たちが、年末年始になると長期間仕事が休みになるために所持金が尽き、路上に弾き出されてしまうという現象が起きていた。炊き出しの場は中高年の男性ばかりで、若者や女性は、「行きづらい」という話も聞いた。

 そこで、食事を介して敷居の低い相談窓口をつくろうと開催したのが、「年越し大人食堂」だった。1年前には数十人規模だったのが、今回はコロナ禍の影響もあり、元日は来場者270人、相談件数45件、3日には来場者318人、相談件数72件と、想定以上の人数が集まった。老若男女さまざまな人たちがやってきて、家族連れや外国人も少なくなかった。外国籍の場合、在留資格の関係で就労を許されず、生活保護などの公的援助も受けられないという八方塞がりで、かなり困窮しているケースが多かったという。

「路上生活やネットカフェ生活をしていた人だけではなく、コロナ以前には普通に働いて普通に生活をしていて、『まさか自分がそんな状況になるとは思っていなかった』という人が困窮しているという実態が、今回の大人食堂で改めて明らかになりました。社会の底が抜けてきているという感覚です」と、稲葉さんは語る。

「つくろい東京ファンド」という名前には、「市民の力で、セーフティネットのほころびを修繕しよう」という意味が込められているそうだ。

「菅総理は“自助・共助・公助”という政策理念を掲げているけれども、今はもう自助も共助も限界にきています。まさに公的責任において貧困対策を実施することが求められていると感じています」

 7日にはついに、緊急事態宣言が再発令された。仕事を失い、困窮する人たちはますます増えていくのではないだろうか。

(文=林美保子/フリーライター)

林美保子/ノンフィクションライター

林美保子/ノンフィクションライター

1955年北海道出身、青山学院大学法学部卒。会社員、編集プロダクション勤務等を経て、執筆活動を開始。主に高齢者・貧困・DVなど社会問題をテーマに取り組む。著書に『ルポ 難民化する老人たち』(イースト・プレス)、『ルポ 不機嫌な老人たち』(同)、『DV後遺症に苦しむ母と子どもたち』(さくら舎)。

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