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藤和彦「日本と世界の先を読む」

世界2位の軍事大国・中国と3位のインド、戦争勃発に警戒高まる…世界規模の戦争に発展も

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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「Getty images」より

 英国際戦略研究所(IISS)は1月12日、「2021年の主要な地政学予測」を発表した。IISSは1958年にフォード財団の援助によりロンドンに設立された民間の国際的戦略機関である。冷戦時代は軍事的安全保障の分析が中心だったが、最近は社会的、経済的諸問題も扱っている。日本では毎年発表される「ミリタリー・バランス」などが有名である。

 そのIISSの研究者たちがまとめた分析結果を要約すれば「2021年の国際情勢は暗いものになる」というものである。新型コロナウイルスのパンデミックは人類社会全体に深刻な打撃を与え、文字通り世界を激変させたが、この災禍を克服する道筋はいまだ見えていない。新型コロナウイルスの出現は、コロナ関連以外の問題を二次的なものにしたが、世界の大国間で増大する緊張関係が緩和したわけではない。

 大国間の関係についてみてみると、米国と中国の関係は1960年代以来、米国とロシアの関係は80年代以来、最悪である。米国と欧州の関係も第2次世界大戦後では最悪の状態に陥った。バイデン政権の誕生で米欧関係は改善されるだろうが、その他の大国間の関係は明るい展望が見えない。

 その理由は、米国が国際社会で絶対的な主導権を握ることができなくなったからである。コロナ対策で自国の弱点を世界に露呈してしまったことに加え、トランプ大統領の支持者たちが1月6日に連邦議会議事堂に乱入した事件も「痛恨の極み」である。「米国の民主主義を脅かす暴挙」との激しい非難が、世界各地で巻き起こっているが、筆者は「普通選挙による議会制民主主義への正統性が大きく揺らいだことを示す象徴的な事件だったのではないか」と危惧している。

バイデン政権、外交問題にエネルギーを注ぐ余裕はない

 普通選挙による議会制度が民主主義の名で呼ばれるようになったのは、1830年代以降の米国である。トランプ大統領が尊敬しているといわれるジャクソン大統領は、建国以来のエリートたちが牛耳る政治システムに対抗するため、選挙権の拡大を積極的にはかった。いわゆる「ジャクソン・デモクラシー」だが、米国は自分たちのやり方を民主主義と自称し始め、その後欧州などで選挙権拡大の動きが広まったことから、「普通選挙で選ばれた代表者たちが合議で政治を行うことが民主主義である」と理解されるようになった。米国が世界初の民主主義国家といわれるゆえんである。

 しかし現在の間接民主主義という制度は、あくまでも統治形態のひとつにすぎない。フランス革命以降、一般の人々が求める生活面の改善を政治的な民主化を通じて実現しようとする動きが生まれたが、運動の原動力は経済的や社会的な次元での不満だった。議会制民主主義制度は人々の闘争の結果として残ったものだが、人々が求めていたのは、理念やイデオロギーの実現ではなく、物質的な生活条件の向上であったことを忘れてはならない。民主主義の実現自体が目的だったのではなく、万人の利益を保障する全体システムの構築が本来の目的だったはずである。誤解を恐れずにいえば、普通選挙を通じた議会制度に基づく統治だけを自己目的化することは本末転倒なのである。

「何を獲得し、何を守り、何を阻止するための民主主義なのか」

 トランプ支持者の暴力的な行動は論外だが、実質的な平等を求める若者の間では、かつての欧州のように社会主義思想が広がりをみせている。米国の人たちは現在の民主主義のあり方を根本的に変革しようとしているのかもしれない。いずれにせよ、バイデン政権は分断しつつある国内をまとめるだけで手一杯である。外交問題にエネルギーを注ぐ余裕はないだろう。

「1975年以来の最も危機的な状態」

 このような状況が予想されることから、IISSは米国以上に中国に対して注目を寄せている。中国は超大国になりつつあるが、米国と異なり、他国と強固な同盟関係を築くことができず、隣国のみならず世界から「友好的な大国」とみなされなくなってきている。

 鄧小平が掲げた「改革開放」以降、しばらくの間「金持ち喧嘩せず」とばかりに寛容さを装ってきた中国だったが、大国になっても傍若無人の振る舞いを変えないことに国際社会の目が厳しくなると、自分と異なる他者を排斥するという不寛容さが再び頭をもたげ始めている。自らの不寛容さを克服できなければ、米国に代わる覇権国になることはできないが、非民主的な軍事大国として対外的な悪影響を及ぼし続ける可能性がある。

 IISSは「国際関係における緊張はさらに高まり、軍事紛争という最も暗い状況を生み出す可能性もある」と結論づけているが、筆者はIISSが「1975年以来の最も危機的な状態にある」としている中国とインドの間で大規模な軍事紛争が起きるのではないかと警戒している。

 1月11日付けCNNは「インド軍は中国との事実上の国境に当たる実効支配線(LAC)のインド側で8日に中国の兵士ひとりを拘束した」と報じた。インド軍の発表によれば、中国兵がバンドン湖の南側でLACを越えてインド側のラダック地域に入り、インドの軍隊に拘束されたという。バンドン湖は海抜4000メートル以上の地点にあり、インドのラダックと中国のチベット自治区にまたがっている。

 昨年6月にインド軍と中国軍との間で衝突が起き、45年ぶりに死者が発生する事態となったが、その後も両軍は数万規模の兵士をLAC周辺に配備したままである。軍事面で劣勢とされるインドに対して、米国は昨年10月、機密情報の衛星データや地理情報の共有を可能にする協定を締結し、中国を牽制する姿勢を示している。このところ軍事費を急拡大している中国(2019年は2610億ドルで世界第2位)とインド(711億ドルで世界第3位)の間の軍事紛争が再び勃発し、世界規模の戦争に発展しないことを祈るばかりである。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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