松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」

楽天モバイル信用失墜、強引経営の歪み…転職者がSB営業秘密持ち出し、契約件数“誇張”

楽天の三木谷浩史社長(写真:つのだよしお/アフロ)

 問題続きの楽天が、とうとう刑事事件で世の中を騒がせている。事件は、元ソフトバンク社員で昨年に楽天モバイルに転職した45歳男性が次世代通信規格「5G」などの営業秘密を持ち出したため、警視庁が1月12日、不正競争防止法容疑で逮捕したというもの。ソフトバンクの発表によると、男性が転職した直後に情報を持ち出したことが発覚し、警視庁に被害届を提出したという。

転職での機密情報の持ち出しは当たり前

「あまりにずさんな手口で、むしろこっちが驚いている」と話すのは、ある楽天モバイル関係者だ。報道などによると、男性は2019年12月31日の最終勤務日に自宅からソフトバンクのサーバーにアクセスし、情報の入ったファイルをメールに添付し持ち出したため、ソフトバンク側が持ち出しに気付いたという。「堂々と会社のサーバーにアクセスしてメールするなんて確実に証拠が残る。捕まえてくださいと言っているようなものだ」とこの関係者は当惑を隠さない。

 携帯電話業界の事情に詳しいアナリストは「転職による競合他社の技術情報の持ち出し自体はよくあること」とした上で、以下のように解説する。

「転職組を迎え入れる理由なんて、前いた会社での技術や知識、人脈が目当てなのは当然のことで、携帯業界に限らない。第⼀、今回被害者のソフトバンクだってドコモやKDDIからも優秀な社員を引き抜いてきたのだから、お互い様です。プロ筋からすれば、もっとうまい持ち出し方があるにもかかわらず、直にメールを送るという最悪の方法をとったこの社員が無能だということになる。楽天側の本音は『鈍い⼈間を採⽤して失敗した』というところだろう」

楽天にとっては喉から手が欲しい人材

 この事件の焦点は、楽天モバイル側が男性社員に秘密情報を持ち出すよう指示していたのかどうかだ。もし楽天側にこの事実が認められれば、企業としての信用が致命的に失墜することになる。

 楽天は昨年4月に携帯電話事業に本格参入した。男性社員が転職した昨年1月時点では、楽天の携帯事業が本格サービス導入前の試行段階だったが、基地局建設を急ピッチで進めていた時期でもあり、男性の持つ技術や知識が重宝したのは言うまでもない。大手携帯電話キャリア関係者による解説。

「男性の持ち出した技術は携帯通信に必要な伝送路に関するもので、基地局建設を効率的に進めるのに役立ちます。報道だと5G関連というところが強調されていますが、実際には現行規格4Gでも使われるベーシックな技術。そもそも楽天は4G基地局ですらまだまだこれからの状態ですから、男性のような技術者は喉から⼿が出るほど欲しかった。男性側にしても、今の携帯業界で働いていれば5G基地局建設が加速する流れは誰もが予測できるはず。⾃分の市場価値については⾃覚していたと思いますよ。

 楽天側からの情報持ち出しの指示があったかについては、現状、警察の捜査を待つしかありません。ただ、仮にあったとしても、よほどの間抜けでもない限り、やりとりの証拠は残さないようにしているはずで、⽴証は難しいでしょうね」

 ソフトバンクは男性個人に対し、損害賠償請求の民事訴訟を予定している。

楽天モバイルでの男性の社用パソコンにソフトバンクから盗んだファイルがそのままの状態で残っているかがポイント。それが出てくれば男性もその技術を用いた楽天側もグウの音も出ない。捜査当局が1年近く捜査した上での逮捕なので、それなりの証拠はそろっているはずだ」(ソフトバンク関係者)

 楽天側からの働きかけがあった場合、捜査当局が一番に疑うのが、男性と同じソフトバンクから楽天モバイルへの転職組だ。「特に技術者の所管分野などの人事情報を持っている管理職経験者が引き抜きのアプローチをした可能性が高い」(前出アナリスト)という。

三木谷氏、強引さでイエスマンしか残っていない惨状

 今回の事件以外にも、楽天は最近失態続きだ。昨年までに6回も行政指導を受けている上、年末に楽天市場などの顧客情報が大量に流出するなど枚挙に暇がない。携帯電話業界に詳しい全国紙記者は「三⽊⾕浩史会⻑兼社⻑が強引すぎて、イエスマンしか残らなくなっている。モバイル事業だけでなく、あらゆるところに歪みが出ている」と話す。

 楽天モバイルは昨年10月の人事で総務省OBの松井房樹氏を副社長に招き入れ、同省とのパイプを強めるなど、基地局建設に向けての体制を整えようとしている。ただ、これは楽天常務と楽天モバイル副社長を務め、同省とのパイプ役を担った徳永順二氏が昨年4月に退職したことによる後釜人事。「モバイル事業⽴ち上げの功労者がサービス本格開始直前に辞めること⾃体が異常」(前出記者)なのは言うまでもない。

年末に契約数を誇張

 菅義偉政権の下で、NTTドコモなどの⼤⼿携帯電話会社の料⾦引き下げが急ピッチで進められる中、安さが売りだった楽天モバイルの価格優位性は⼤幅に低下し、苦境に陥っていることは本サイトですでに報じた。楽天モバイルは昨年末時点で「累計契約申し込み数」が200万件を突破したと発表しているが、契約申し込み数は契約件数ではないところがミソだ。「実際の契約は200万を下回るということで、反対に誇張しているところが不調ぶりを⽰している」(前出記者)のは言うまでもない。

 楽天のモバイル事業は、⼤⼿キャリアの新プランが春先以降にサービス開始することを考えれば⼋⽅塞がりだ。コロナ禍での巣ごもり需要の高まりで楽天市場のEC事業は好調だが、そこでの利益でいつまでもモバイル事業の大赤字を補填し続けるわけにはいくまい。昨年の今ごろは「値下げの第4極として殴り込みをかける」という希望があった。絶望しかない今年は昨年以上に厳しい経営環境となりそうだ。

(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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