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江川紹子の「事件ウオッチ」第169回

議論呼ぶ、SNSによるトランプ氏追放と「表現の自由」その両立のために…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト

トランプ氏による虚偽情報や陰謀論の拡散に加担してきたTwitter、Facebook等のSNS

 2019年3月、新型コロナウイルスが感染拡大するなか、感染防止策に否定的な発信を続けていたブラジルのボルソナロ大統領の発信を、Twitter社が初めて削除した。

 アメリカでも同年5月、トランプ大統領が大統領選での郵便投票が不正の温床になるという趣旨のツイートをしたのに対し、Twitter社は「郵便投票についての事実を知って」という警告メッセージをつけ、クリックするとファクトチェックのページに誘導されるようにした。

 これに対し、トランプ氏は大統領権限で対抗。SNS運営会社による投稿の削除を牽制するための大統領令に署名した。この時トランプ氏は、「検閲は自由への脅威だ」とTwitter社を批判し、大統領令は「言論の自由を守るためだ」と主張している(もっとも、トランプ氏が常に「自由の保護者」であるわけではなく、若者に人気の動画投稿アプリ「TikTok」については、「安全保障上の理由」があるとして、米国内での使用を禁じる大統領令を発した)。

 同じく昨年5月には、ミネソタ州ミネアポリスで白人警察官の制圧で黒人男性が死亡した事件を機に、差別に抗議するBLMのデモが活性化した。トランプ大統領は、このデモ参加者を「ごろつき」と呼び、「略奪が始まれば銃撃も始まる」などとツイートした。Twitter社はこれに「暴力を賛美するものだ」との警告表示をつけた。

 一方、この時点でなんの対応もしなかったFBに対しては、批判が集まった。人権団体の呼びかけで、大手企業がFBへの広告出稿を拒否。FB社内では、社員によるストライキが起き、退職する人も出てきた。

 そうした動きに押され、FBも重い腰を上げた。「政治家や政府関係者の発言であっても、暴力の扇動や、投票を妨げる可能性があると判断した場合は、その投稿内容を削除する」(ザッカーバーグCEO)として方針を転換したのだ。そして8月には、米フォックス・ニュースで新型コロナウイルスに関し「子どもはほとんど免疫がある」と語ったトランプ氏のインタビュー動画を削除した。

 大統領選が近づくなか、トランプ氏のツイートには次々に「警告」の表示がつけられた。これに対して共和党側は「検閲だ」などと強く反発。一方の民主党は、SNS運営会社の規制を強化すべきだと主張し、対立した。Twitter、FB、GoogleのCEOが上院公聴会に呼び出され、双方の立場から追及を受けた。とりわけ共和党議員は、3CEOを「言論の自由に対する最大の脅威であり、自由かつ公正な選挙に対する最大の脅威だ」と呼び、規制を批判した。

 しかし、選挙結果がトランプ氏の敗色濃厚となると、トランプ氏の発信はさらに先鋭化。その結果、「不正」を叫ぶツイートには相次いで「警告」がつき、FBの「選挙を盗むな」と題するグループは削除された。

 議事堂襲撃事件の後、Twitter社はトランプ氏のアカウント永久停止のほか、トランプ支持の陰謀論者グループ「Qアノン」に関する7万以上のアカウントを削除した。こうした同社の対応からは、暴力によって民主主義を否定しようとする、今回の事件がもたらした衝撃の大きさがうかがえる。