NEW
江川紹子の「事件ウオッチ」第169回

議論呼ぶ、SNSによるトランプ氏追放と「表現の自由」その両立のために…江川紹子の提言

文=江川紹子/ジャーナリスト

SNS各社による今回の措置について、どのような手順と基準で行われたものかを明らかにすべき

 ただ問題は、そうした停止・削除にいたる手続きが、誰によって、どのような手順と基準に沿って行われたのかが不透明なことだ。また、自社のサービスが陰謀論やテロリズムを広めてしまったことへの反省や検証がなされているのかどうかもよくわからない。

 ドイツのメルケル首相らの批判も、そこにある。

 一部のトランプ支持者は、メルケル氏の意見を誤解し、歓迎しているようだが、同氏は言論の野放図な自由を奨励しているわけではない。むしろドイツ政府はSNSの言論規制には積極的だ。2018年にはSNS対策法を施行させた。

 同法によれば、ナチなどの違法組織のマークの使用、国家を重大な危険にさらす暴力行為の称揚、ヘイトスピーチなど、法律で禁じられている表現に関しては、SNS運営会社に削除義務を課している。違反した場合は、最大5000万ユーロ(約63億円)の制裁が科される。

 広報官による記者会見でのやりとりを読むと、メルケル氏の意図は、トランプ氏の野放図な発信を認めよ、というものではないことがわかる。その趣旨は、表現の自由の制限は、「法律に沿って、議会によって定められた枠組みの範囲内」で行われるべきで、「SNSを運営する企業経営者によって決められるべきではない」ということだ。つまり、企業が経営者の方針により、恣意的に表現の自由に枷をはめる、ということに警鐘を鳴らしたものだ。

 ただ、国によって価値観や法体制は異なる。表現の自由を重視するアメリカでは、国家による表現規制には極めて慎重だ。

 そんななかで、Twitter社をはじめとするSNS各社が、トランプ氏や陰謀論グループなどの発信を止めたのは、緊急措置としてはやむを得なかったし、適切な対応だったと思う。

 トランプ氏の弾劾を阻止しようとする人たちによる行政機関の襲撃計画や、ペンス副大統領、ペロシ下院議長ら要人の殺害予告もなされている、と報じられている。バイデン新大統領の就任式が迫るなか、これ以上の暴力沙汰を防ごうとすれば、Twitter社のように大きく構えた対応にならざるを得なかったのだろう。

 とはいえ、今や情報インフラとして公共性を持つSNSを運営している各社が、基準や手続きが不透明なまま、発信や情報の制限に関する重要な決定がなされることはあってはならない、と思う。事後的ではあっても、今回の措置について、どのような手順と基準で行ったものかは、明らかにしてもらいたい。

 そのうえで、凍結が行き過ぎと思われるアカウントについては解除していく是正措置がなされるべきだろう。今回のように、振り子が両極に振り切る極端な対応を、もう少し穏やかな振幅に戻す努力も必要だ。

 トランプ氏のアカウント削除のやり方については、再検討の余地があると思う。今回の措置で、一般人は彼の過去ツイートも見ることができなくなった。そうなると、アメリカ大統領という公的立場の人の発言を過去に遡って検証することができない。彼の発信をなんら制限せず、デマが拡散するにまかせたTwitter社の無策についても検証がしにくい。これはまずいのではないか。

 確かに、トランプ氏の発言を逐次保存したり、翻訳したりしたアカウントはある。それらをたどれば、ある程度はフォローできるが、こうした歴史的な原本である元の発信を保存し、誰もがアクセスが容易な状況にしておくのが、SNS運営会社の責任だろう。新聞であれば、過去のインタビュー記事も、一定の料金で見ることができる。同様の仕組みを考えてほしい。