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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

雇用調整助成金、中小企業の半数が申請できず…「休業」「売上減少の割合」の要件満たせず

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
雇用調整助成金、中小企業の半数が申請できず…「休業」「売上減少の割合」の要件満たせずの画像1
「Getty images」より

 7日に緊急事態宣言が発令され、2021年は波瀾の幕開けとなった。新型コロナウイルス感染拡大による経済的ダメージも大きく、企業の倒産だけではなく、筆者の取材では中小企業経営者の自殺も確認されている。コロナ禍が長引くほど日本を支える中小企業の経営に陰を落とし、多くの人の人生や命にまで影響を及ぼす。そこで今回は、大同生命が全国の中小企業経営者を対象に行ったアンケート(大同生命サーベイ)の結果から、生き残りのヒントを探ってみたい。

 大同生命は20年10月1~28日に、1万4665社の中小企業経営者を対象にアンケートを実施した。業種は製造、建設、卸・小売、サービス業などで、従業員企業規模は5人以下が46.2%と一番多く、6~10人は19.7%、11~20人は14.4%、21人以上は18.8%となっている。

 業況(景況感)は「悪い」が43%で、業況DI(「景気が良い」と感じる企業の割合から、「景気が悪い」と感じる企業の割合を引いたもの)は-35.7ポイント、前月比は+2ポイントとなった。しかし、業種別に業況DIを見ると、宿泊・飲食サービス業の落ち込みは顕著で、-67.2ポイントと最も低い。また、前月より業況DIが悪化したのは、生活関連サービス業・娯楽業(-48.1ポイント)となっている。

 景況感が「良い」と回答した企業のプラスの要因は、「顧客ニーズの変化」が最も多く35%、次いで「季節的な繁閑等」(26%)、「国内景気の変動」(22%)となっている。景況感が「悪い」と回答した企業のマイナス要因は、「国内景気の変動」が60%と最も多く、「顧客ニーズの変化」と「世界景気の変動」(共に22%)を理由に挙げているが、いずれも新型コロナウイルス感染拡大の社会経済活動への影響がうかがえる。

 雇用調整助成金に関しての結果も興味深い。雇用調整助成金(緊急雇用安定助成金を含む)の申請状況は、「申請済み・申請予定」が33%で、業種的には「宿泊・飲食サービス業」と「製造業」(共に50%)が多く、「運輸業」「生活関連サービス業・娯楽業」が続いている。

コロナ禍、従業員に求める人物像

 このなかで見過ごすことができないデータが3点ある。

 ひとつ目は申請の予定がない企業についてだ。実は先の申請状況で申請予定はない企業は53%にものぼるが、内訳のなかで一番多い理由が「支給要件である従業員の休業を実施していない」だ。「売り上げの減少割合が支給要件を満たしていない」は第2の理由となっているが、第1の理由と20ポイント以上の差がついている。申請したくてもできない企業がいかに多いのか、現実を突きつける結果となった。

 2つ目は「人手不足」問題だ。徳島県や高知県のように人手不足を感じる企業の割合が、昨年2月と比較すると1割近く増えている地域があるが、全体をみるとコロナ禍における業況の悪化で「人手不足」を感じる中小企業が大幅に減少している。

 昨年4月以降の新型コロナウイルス感染拡大で、業況の悪化による事業活動の中止や見直し、あるいは受注や顧客減少を、人手不足を感じない理由に挙げる企業が約7割を占めるという。人手が充足していると安堵するのは、いかに早計かがわかる。同時に、コロナ禍の不況で転職などをとどまらせているのだろうか、中途退職者の減少(=定着率の向上)を挙げる企業も多かった。

 3つ目に、「人物像」にも調査を広げた結果が、非常に意義深い。従業員に求める人物像について「変化はない」とする企業が8割を占めるなかで、全体的には「コミュニケーション能力が高い人」が60%と最も多くなった。一方で「変化があった」なかでは「状況に応じて現状とは異なる仕事に対応可能な人」「ITに関する知識がある人」「新しい働き方に順応できる人」の比率が全体より増えており、コロナ禍の影響を無視できないようだ。

今まで通用したことが通用しなくなる

 緊急事態宣言が首都圏以外の自治体にも広がり、経済的な先行きは不透明ななか、このアンケート結果から得られる生き残りのヒントを探りたい。

 実は菅政権誕生にあたって、国や行政に期待することもアンケート項目にあり、「中小企業支援策の拡充」が65%、「経済財政政策(景気対策)」が52%、「新型コロナの感染拡大対策」が46%となっている。今回の緊急事態宣言で時短に協力した飲食店などに1日につき6万円の協力金を出すことを各自治体は決定しているが、サービス業をはじめとする中小企業を取り巻く環境が厳しいことに変わりはない。「なぜ飲食店だけが営業自粛要請の対象なのか、もはや限界」との声も聞く。

 断腸の思いで早めに見切りをつける経営者もいるだろうが、行政による支援抜きに企業努力だけを求めるフェーズは、とっくに過ぎている。

 経営状態が悪化すると、企業内の結束もほころびをみせることも少なくない。前出アンケート結果で経営者が「コミュニケーション能力が高い人」を求めているのは、良き理解者・支援者を欲しているのではないか。孤独や不安をひとりで抱えずに、従業員と腹を割って話し合い、理解や知恵を求めることも不可欠ではないか。

 以前取材した企業のなかに、経営者が従業員に経営の実情、創業時の思いや企業風土、従業員への思いを包み隠さず話し、従業員が知恵を出し合ったり節約に励み、ダウンする収入を従業員が副業でまかなって、しのいだ企業もある。従業員たちは話し合うことで、今働く企業より働きがいのある企業はないと判断したからだという。

 もちろん、こんなテレビドラマのような企業ばかりではないと思う。前出のアンケート結果にあるように、「コミュニケーション能力が高い人」「状況に応じて現状とは異なる仕事に対応可能な人」「ITに関する知識がある人」「新しい働き方に順応できる人」にならなければ、これからの社会では活躍の場は少ないという時代になったのかもしれない。

 コロナ禍でリモートワークが浸透し、誰もが経験しなかった新しい社会が始まろうとしている。言い換えれば、今まで通用したことが通用しなくなる時代と環境になったということだ。「感染しない・させない」を合い言葉に、自分自身の生き方やライフプランと真摯に向き合うことが求められている。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

鬼塚眞子/ジャーナリスト、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュを設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などで活躍
介護相続コンシェルジュ協会HP

Twitter:@kscegao

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