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垣田達哉「もうダマされない」

不要不急の外出自粛を訴えるテレビ局、リモートせず識者・出演者がスタジオ密集はおかしい

文=垣田達哉/消費者問題研究所代表
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「Getty images」より

 テレビ東京が、ニュース番組で出演者同士が会話をする場合はマスクを着用すると発表した。他局は、今のところ追従する構えはないようだ。

 コロナ禍にあって、しかも東京都などが非常事態宣言の発令中の時期に、テレビはどうあるべきかという点では、疑問に思うことがいろいろある。一番強く感じるのは「不要不急」の考え方がバラバラだということだ。東京にあるキー局だけを見ても、対応がかなり分かれている。国も東京都も「不要不急の外出は控えるように」と要請している。つまり「必要かつ緊急の場合だけ外出しても良い」ということだが、すべての仕事に不必要なものはない。テレビ番組も不要なものなどないだろう。わかりにくいのが「緊急」かどうかだが、「テレビ番組すべてが緊急な仕事」とは、とても思えない。

テレビ番組に出演することは不要不急か否か

 東京都に緊急事態宣言が発令されている状況で、同じ局でも出演者の対応はさまざまだ。ニュース番組や情報番組、娯楽番組では、出演者がスタジオに来るのか、リモートで出演するのかが、局によって違うのは仕方ないかもしれないが、同じ局でも対応が分かれている。

 一番疑問なのは、スタジオに出演すること自体に緊急性があるのかという点である。テレワークができるはずではないか。「MCと局アナはスタジオ出演が必要不可欠であり緊急性もある」と言われれば、理解できなくはないが、出演者全員がスタジオに並んで座って会話をする必要はないだろう。もちろん緊急とも思えない。

 リモートといっても、自宅ではなくテレビ局の別室か職場から出演していると思われる人もいる。テレビ局に外出している人たちに、いくら「どうして外出するのだ。自宅でテレワークをしろ」と言われても、「あなたに言われたくない」と思う人もいるだろう。

 感染症対策の専門家たちも、毎日のようにスタジオ出演(外出)している。スタジオでただ話をするだけである。一般企業には「社員の7割はテレワークをしろ」というのに、テレビは特別扱いのようだ。テレワーク(リモート出演)できる人は、するべきである。自宅(あるいは職場)から、テレビ局に外出している人たちに、いくら「外出するな」と言われても、「私の仕事も緊急かつテレワークができないんだ」と言いたい人もいるだろう。

 さらに、東京都などは「他県への移動自粛」も求めている。出演者を見ていると、他府県から東京に来ているのではと疑いたくなる人もいる。その人の住んでいるところは、他県への移動自粛を求めていなくても、不要不急の外出を控えてほしいというのは全国同じだろう。出演者が住んでいる地域の人のなかには、全国で一番感染者数が多い東京に移動した人に戻ってきてほしくないと思う人もいるだろう。

食レポ番組は今必要なのか

 全国放送ではないが、『なりゆき街道旅』(フジテレビ)は、いわゆる「食レポ番組」のひとつである。MCがタレントや芸能人と一緒に各地を回り、名所や飲食店を紹介する番組である。1月17日の放送では、都内の月島を散策していた。

 収録日がいつかはわからないが、緊急事態宣言前の東京であっても、東京都は不要不急の外出は控えるようにと要請をしていた。果たしてこの番組は、緊急性があるのか、不要不急なのかといえば、不要不急な外出になるだろう。

 出演者はMCを含めて3人だったが、スタッフも数人いるだろう。タレントや芸能人の場合、ひとりで来る人もいるだろうが、マネージャーと一緒に来ている人もいるだろう。もしも緊急事態宣言下のロケであれば、5~10名程度の人が都内を練り歩く姿を見た人は、どんな思いになるだろう。会食でなくても、大勢で動き回ることは褒められたことではない。

 しかも、この番組だけではないが、食レポで飲食店を紹介する番組は、緊急事態宣言下であっても結構多い。この番組でも、もんじゃの店や屋形船で食事をしていた。画面から見ると貸し切り状態のようで、3人は密ではなくかなりの空間はあるように思えた。もちろん、5人以上の会食ではないが、マスク会食は実践していなかった。昼飲みがこの番組の売りのようなので、この回も昼間にビールを飲んでいた。

 飲食や飲食店紹介が悪いと言っているのではない。局としての考え方がどうなのかが、わからないのだ。フジテレビも含め、各局とも、多くの番組で「不要不急の外出は控えて」と声高に訴えている。しかし、その定義は誰も教えてくれない。テレビ局は不要不急の定義を決めているのだろうか。それとも各自に任せているのだろうか。

 おそらくテレビ局は、「必要不可欠」であれば緊急性があるので不要不急には該当しないと考えているのではないだろうか。そうであれば「必要不可欠と番組責任者が判断すれば、緊急性もあるので外出しても構わないと当社では決めている」と言うべきである。視聴者だけに外出制限を強く訴えているのに、自分たちは自ら決めた基準で飛び回っている。まさに「隗より始めよ」と言いたい。

Mリーグ、囲碁、将棋は必要かつ緊急なのか

 こうした疑問は、インターネットテレビにも感じる。今人気のABEMAで、毎週月、火、木、金の4日間、Mリーグという麻雀番組が放送されている。生放送で19時からスタートする。麻雀2試合が終了するまで放送されるので、終了時間は決まっていないが21時を過ぎることもある。

 もちろん、画面上では飲食をしているわけではないし、出演者は4人以上8人以下なので大勢で集まっているわけではない。しかし、出演者やスタッフは会場まで外出をしている。そうなると「これは不要不急な外出ではないのか」と疑いたくなるのだ。しかも東京都は、非常事態宣言を発令する以前から「夜8時以降の外出を控えるように」と要請している。これは麻雀に限ったことではない。囲碁や将棋は、もっと長時間試合をしている。ABEMAでは将棋も放送しているので、出演者である解説者と聞き手(どちらもほぼプロ棋士)には外出をさせている。そして、多くの人が夜8時以降も外出している。

国だけでなく民間もかなり緩んでいる

 個々の番組を批判する意図はまったくないが、今の日本の状況を紹介するために、具体例を挙げている。何が言いたいかというと「緩んでいるのは政府や東京都などの地方自治体だけでなく、テレビも緩んでいる」ということだ。昨年の非常事態宣言時には、大相撲も囲碁も将棋も中止した。今回は、国や地方自治体が規制していないので、多くの業界で人々が外出をしている。一方で、多くのテレビ番組では「政府の対応が後手後手、甘すぎる」という論調になっている。「国民も前回時より気持ちが緩んで、多くの人が外出している」という言葉もよく聞く。

 国や地方自治体、国民の対応を批判する前に、自分たちはどうなのかということを見直すべきだろう。国や地方自治体に言われなくても、率先して「自分たちは、前回と同様に外出を自粛している」と言うべきであり、実践すべきである。

 テレビ業界だけでなく、多くの業界では、前回の緊急事態宣言時と比べて人々が外出を自粛していない。前回よりも感染者数がはるかに多くなっているのに、危機感がないのは国民一人ひとりだけではない。企業や業界がこれだけ外出を自粛していないのだから、感染者が減るわけがない。

 テレビでは、毎日のように品川駅を映し「人出が多い」と叫ぶ。あの画面に映った人はいい迷惑だろう。テレワークといっても、工場は無理だし、内勤でも総務・人事・財務・経営企画・研究・開発、さらに営業部門などは外部持ち出し禁止データが非常に多い。営業でも顧客データを持ち出すことは難しい。中小企業になればなるほどテレワークは難しい。

 皆がどうして外出(出勤)するのかというと、仕事をしなければ収入が減るかなくなるからだ。前回の緊急事態宣言時より、はるかに経営が厳しくなっている企業や個人が多いのに、追加の定額給付金も持続化給付金も出ない。国や東京都は「仕事をしないでくれ」と言っているのに、収入減の補償はしてくれないのだ。それなのに外出するなとは虫が良すぎる。

(文=垣田達哉/消費者問題研究所代表)

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

垣田達哉/消費者問題研究所代表、食品問題評論家

1953年岐阜市生まれ。77年慶應義塾大学商学部卒業。食品問題のプロフェッショナル。放射能汚染、中国食品、O157、鳥インフルエンザ問題などの食の安全や、食育、食品表示問題の第一人者として、テレビ、新聞、雑誌、講演などで活躍する。『ビートたけしのTVタックル』『世界一受けたい授業』『クローズアップ現代』など、テレビでもおなじみの食の安全の探求者。新刊『面白いほどよくわかる「食品表示」』(商業界)、『選ぶならこっち!』(WAVE出版)、『買ってはいけない4~7』(金曜日)など著書多数。

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