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木村誠「20年代、大学新時代」

ブラック化する学校で精神がおかしくなる教員が増加中…文部科学省による管理化の弊害か

文=木村誠/教育ジャーナリスト
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文部科学省が入居する霞が関コモンゲート東館(中央合同庁舎第7号館)(「Wikipedia」より)

 1月から始まった新番組『青のSP-学校内警察・嶋田隆平-』(フジテレビ系)が人気だ。警視庁捜査1課の刑事が、SP(スクールポリス)として中学校内の非行やトラブルに対応するというストーリー。校内に本物の警察官を常駐させ、法に触れる行為をした生徒が校長も通さずいきなり逮捕連行されるシーンや、生徒によるSNS拡散で大事件に発展する展開などが見どころだ。

 学校を聖域のように思っている旧世代には荒唐無稽に感じるかもしれないが、ブラック化している最近の学校を見ていると、ポリスはともかく、プロによる介入をナンセンスとは片付けられない。生徒だけでなく、教員もおかしくなっているからだ。

 たとえば、兵庫県の神戸市立東須磨小学校では、2019年に教員間のセクハラ、いじめ、暴行が明らかになり、世間をあっと言わせた。その教員の一部が児童に嫌がらせをして、教師に椅子を後ろに引かれた児童が頭を打ったりしていたという。この事件では、加害者の教員だけでなく、威圧的な態度で教員に接していた前校長が停職処分となった。

 地元では、20年秋に起きた、宝塚中学校の柔道部顧問がアイスを食べていた生徒を脊椎骨折させて傷害で逮捕された事件も話題になっている。東京から週刊誌の記者が取材に来て、近隣住民は一時騒ぎになった。近所からは「日頃からまじめな先生で、奥様や家族は気の毒」という声もあった。今や、学校でのトラブルは日常的になっているのだ。

 東京でも、評判が悪くなかった都立高校教員がヤンキーの生徒に体罰を加えているシーンを他の生徒に撮影され、SNSで拡散した事件が注目された。生徒の罠に落ちた先生も気の毒だ。昔から「荒れる学校」と言われてきたが、最近の方が陰湿になっている印象を受ける。

10年前から問題視されていた教師のメンタルケア

 このような状況下で、精神がおかしくなる教師が増加している。20年12月下旬に公表された文部科学省の公立学校教員に関する人事行政状況調査で、19年度に精神疾患を理由とする休職者が過去最高の5478人を占めて、全教員の0.59%となった。

 私立学校教員を除いているが、学校基本調査で、公立学校教員の割合は、小学校98%、中学校93%。高校73%なので、大勢といってよいだろう。在職者における精神疾患者数の割合は、小学校0.64%、中学校0.6%、高校0.42%であった。一般人の精神疾患の罹患率より、かなり高い。

 実は教員の精神疾患は10年前から問題視されており、文科省では「教職員のメンタルケア策検討会議」で、その原因や対策を探ってきた。15年には、そのまとめが公表されている。

 一般的な傾向として、(1)校長及び副校長・教頭は保護者対応などに関して学校規模が大きいほど強いストレスが多い。(2)教諭は生徒指導、事務的な仕事、学習指導、業務の質に強いストレスを感じている。年代別には、年代が高いほど強いストレスが多くなる傾向があり、その要因として 業務の量と質の変化や職場環境と人間関係が考えられる。(3)教員の業務については残業時間のばらつきがあり、平均退校時間が18時以前の教員が18.7%に対し、20時以降が15.8%もある。(4)業務の縮減・効率化等の改善を図る動きに肯定的回答なのは、校長などは約78%、教諭等など約55%、事務職員約67%となっている――という結果だ。

 教員のストレスを軽減するには、(1)教職員としての理想像を有している。(2)教職員間の良好な人間関係を築く。たとえば、上司と相談しやすい雰囲気や職場を離れた同僚等とのコミュニケーションの確保など、としている 。

ブラック化で教員志望者は減少傾向に

 このようなブラック化が知られるようになって、人気職業だった教員の志望者も減る傾向にある。国立大学教員養成学部の志願倍率は、11年の4.6倍から18年には3.9倍になっている。全学部では同期間で4.6倍から4.2倍だから、減少率は大きい。ただし、これは小学校教員養成認定課程が05年から17年で国立大は50校から52校に増えただけなのに対し、私立大は約50校から183校に激増している点も、考慮する必要がある。

 ただ、生徒児童に与える影響も考えると、これ以上のブラック化はどうしてもブレーキをかける必要がある。教員志望者が減っていけば、日本の初等教育の劣化は免れない。では、どうすればよいのか。

 リタイアした年配の元教員の中には、日教組など教職員労組の弱体化が進んだから、という感想もある。確かに、1960年には81.8%だった全教員に占める日教組組織率は85年に50%を切り、2018年は22.6%となっている。今や少数派で、職場での影響力は落ちているようだ。ただ、この10年は新規採用者の加入率が20%前後なので、これからは現状維持となりそうだ。職場に自主的な組織があって、活発な意見交流ができれば、ブラック化に歯止めがかかることが期待できるであろう。

 また、都市部では、モンスターペアレンツなどの保護者対応や、SNSなど生徒の教室外コミュニケーションの拡大といった、時代の変化もある。そのため、教師の多様な業務が増加しており、それをサポートする態勢を整えることも大切だ。

 現在、一般社会と同様に学校でも非正規職員が増加し、非常勤も多い。正規職員との待遇格差も生まれている。いじめ対策はもちろん、グローバリズムやデジタルへの対応についても、専門スタッフが増加しているからだ。スクールカウンセラーだけでなく、英語学習の専門家(小学校)やALT(外国語指導助手)、ICT(情報通信技術)支援員などだ。教科の教員は、そのチームで中核的な役割を期待される。一般の教員にも管理運営能力が求められているのだ。

 文科省は学校現場の管理化を進めてきたが、その結果、管理・被管理が職場の力関係となって固定化し、それが東須磨小学校のようなブラック化の背景となっている。

 政府は2025年度までに公立小学校の1クラスの人数を35人以下に引き下げることを決定し、同時に生徒1人1台のIT端末の整備を進めようとしている。さらに、統合型校務支援システムとして、ICT運用によって授業準備や成績処理等の負担軽減につなげるという。しかし、ブラック化が深く静かに進行している現状で、果たしてうまくいくか疑問だ。学校を開放的で自由闊達な職場につくり変えていくことが、まず基本であろう。

(文=木村誠/教育ジャーナリスト)

木村誠/大学教育ジャーナリスト

木村誠/大学教育ジャーナリスト

早稲田大学政経学部新聞学科卒業、学研勤務を経てフリー。近著に『ワンランク上の大学攻略法 新課程入試の先取り最新情報』(朝日新書)。他に『「地方国立大学」の時代–2020年に何が起こるのか』(中公ラクレ)、『大学大崩壊』『大学大倒産時代』(ともに朝日新書)など。

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