開業医が自身の経験に基づいて語る、あまり知らない「医療法人経営」の実態の画像1
※画像:『ドクター・プレジデント』著者・田畑陽一郎氏(幻冬舎刊)

 医師としては一流の腕前を持つが、経営者としては素人。そんな中でクリニックを開業し、事業を拡大させていく。「開業医」は医師だけでなく、経営者の視点を持たなければならない。


 『ドクター・プレジデント』(幻冬舎刊)は、一代で10以上の医療・介護施設を開業し、千葉県医師会会長を歴任し、名医でありながらも経営者としても腕を振るう医療法人社団明生会会長の田畑陽一郎氏が、医療法人経営の軌跡を明かした一冊。


 その裏には一体どのような苦悩があったのか。そして、経営者としてどのように成長をしてきたのか。田畑氏へのインタビュー後編では、事業拡大のエピソードやベンチマークにしている経営者などについてお話をうかがった。


田畑陽一郎氏インタビュー前編を読む(※外部サイト・新刊JP編集部)

 

■経営者としての大きな決断「事業拡大」 しかし予測は外れて…


――前半で経営セミナーに通われながら、経営者としての勉強をしたとお話されていました。その経営者としての勉強において、どんな点に苦労をされましたか?


田畑:経営者として一番つらいのは、職員が辞めていくことなんですよ。自分が思っている以上に、組織は自分に対して忠実ではないし、自分も職員側の気持ちを掬えていないということに気づいたんです。だから、そこは勉強をしないといけないと。セミナーの他にも本を読んだりして、学んでいこうと思っていました。


――経営者にとって現場との付き合い方ってすごく難しいのかなと思います。


田畑:勉強をして分かったことは、職員の気持ちを汲み取るためには、まずは自分がオープンにならなければいけないということだったんです。格好つけたら駄目で、自分の失敗もちゃんとさらけ出せば、相手もそれに報いてくれるということが分かってきて。それは勉強をするまで気づけなかったことですね。


――田畑さんの経営する医療法人はたくさんの職員を抱えていらっしゃいますが、組織が一枚岩になるには理念が必要だと思います。田畑さんが経営する明生会はどのような理念があるのでしょうか。


田畑:本書にも書かせていただきましたが、基本理念として「患者介護利用者最善サービス」「医療介護質的向上」「個人尊重」の3つをあげ、その実現のために実行すべき5つの「S」を定めました。


それが「Secure(仕事は確実に行います)」「Speedy(素早く行動します)」「Smart(最良の判断で治療します)」「Smile(笑顔ある環境を創ります)」「Service(慈愛の精神を大切にします)」の「5S」です。


明生会では、この「5S」を大切なモットーとして引き継いでいます。


――理念づくりに困っている医療法人の経営者に対してはどんなアドバイスがありますか?


田畑:組織があり、そこには職員がいて、そして患者さんがいる。そこに関わる人たちが納得する言葉を使うことが大切なのではないかと思います。


――現在、医療施設だけでなく介護施設にも事業を拡大されています。介護にも事業を拡大した理由はなんですか?


田畑:明生会が経営するクリニックは人工透析がメインで、来院する患者さんの平均年齢はおよそ69歳前後。つまり、高齢の方が圧倒的に多いんですね。だから、いずれは私たちも高齢者の介護分野に向き合わないといけないと思っていました。また、介護保険の対象が65歳以上という背景もあります。


 そこでまずチャレンジしようということで、訪問介護ステーションを開所したのですが、あまり患者さんが来なかったんです。なぜかというと、人工透析が必要な患者さんは、申請すると「身体障害者一級」に認定され、医療費の助成を受けられ、健康保険の自己負担分が無料または減額になるなど、さまざまなサービスを受けられるんですね。


 また、人工透析をきちんと行っていれば、それ以外は普通の人と変わらないので、元気に働くこともできます。だから、人工透析者イコール介護が必要とはならないんです。


――つまり、当初の見立てが外れてしまったわけですね。


田畑:そういうことです。ただ、いずれにしてもこれからさらに高齢化が進み、介護は必要になってくると思っています。


――でも、介護事業にも乗り出すということは、思い切った事業拡大ですよね。事業を広げる見極めというのはどういうタイミングで行ったのですか?


田畑:本業の人工透析の方である程度儲かっている間にやらないといけないと思っていました。医療の方の事業が伸びている途中だったからこそ、「今やるべきだ」となりましたね。


――まさしく経営者的な視点ですね。


田畑:そうですね。私は日本電産の永守重信さんのやり方から学んでいるんです。日本電産はモーター技術が強みで、そこで利益を生んでいる。そういうコア事業を成長させながら、広げていくということを実践しています。

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