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白井美由里「消費者行動のインサイト」

なぜサステナブル商品は売れないのか?「好きだけど買わない」に潜む消費者の購買行動

文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授

 これらの2つの自己が対立し、どちらかを選ばなければならないという状況は日常生活でよく見られます。ピザを食べるかサラダを食べるか、家でゴロゴロするかジムに行くかなどは典型的な例です。一般に、規範自己に合わせた行動をとるためにはセルフコントールが必要です。衝動的な願望自己を抑えて規範自己を強化するのにかなりのエネルギーを使います。したがって、疲労や睡眠不足などでセルフコントロール資源が不足しているときは、倫理的な行動は減少すると言われています【註3】。このような状態では、面倒な規範自己よりもシンプルで衝動的な願望自己のほうが勝ってしまうのです。

 サステナブル商品の選択は規範自己の働きによるものです。サステナブル商品の場合、その特徴を理解するのに時間とエネルギーを使うので、消費者に時間的な余裕と精神的な余裕がなければ注意を向けるのが難しくなります。「サステナブル商品を買うべきである」という規範自己と「他の商品を買いたい」という願望自己が共存するとき、コンフリクトが生じます。

サステナブル商品の購入を促進するには

 コンフリクトはネガティブな感情を喚起します。また、ネガティブ感情は環境問題や社会問題の深刻な状況を知ることによっても生じます。ネガティブ感情は不快なので、その感情が強いとサステナブル商品を理性的に評価することを難しくします。レクゼックらは、こうしたエネルギーの消耗やネガティブ感情に対処するために消費者がとる戦略は、選択時点でネガティブなエシカルな問題を考えないようにすることだと説明しています。サステナブル商品について知ろうとするのではなく、考えること自体を避けてしまうのです。これは「意図的な無知(willful ignorance)」と呼ばれます。

 消費者がサステナブル商品を選択しない理由は他にもあるかもしれませんが、少なくともこの2つのコンフリクトの両方、あるいはいずれかが生じたことにより避けられている可能性があります。サステナブル商品の購入を促進するためには、どのようにしたらこれらのコンフリクトが緩和するのかを考えなければなりません。機能が商品選択の決め手になる製品カテゴリーでは、サステナビリティに関する商品情報に加えて、機能に関するエビデンスの提示があるといいでしょう。

 また、消費者にサステナブル商品を迷いなく購入してもらうためには、情報の提示の仕方を工夫する必要があります。情報を得るにも理解するにもそれほど時間やエネルギーを使わなくてすむような形での提示を考えます。レクゼックが提案する情報の標準化と商品パッケージなどへの表示は有効な手段になるでしょう【註8】。また、サステナブル商品には、オーガーニック、グリーン、フェアトレードなど専門用語が多数あるため、それらを十分に理解していないことが購入の障壁になっている可能性があります。これらの情報がわかりやすいメッセージで買い物環境に示されるといいでしょう。

 最後に、サステナブル商品の購入が環境問題や社会問題の解決にどれだけ貢献するのかがわからないということが、消費者がサステナブル商品を身近に感じない原因になっています。レクゼックも指摘していることですが、例えば「この商品を〇〇個購入するとCO2排出をこれだけ減らせる」といった具体的な情報があると、消費者の貢献意識が高まり選択されやすくなるでしょう【註8】。

(文=白井美由里/慶應義塾大学商学部教授)

【参考文献】

【註1】Narula, S. A. and A. Desore (2016), “Framing green consumer behaviour research: opportunities and challenges,” Social Responsibility Journal, 12 (1), pp. 1-22.

【註2】Kotler, P., G. Armstrong, L. C. Harris, and N. Piercy (2016), Principles of Marketing, Pearson Education.

【註3】Reczek, R. W. and J. R. Irwin (2015), “Ethical consumption,” in The Cambridge Handbook of Consumer Psychology, eds. M.I. Norton, D. D. Rucker, and C. Lamberton, Cambridge University Press, pp. 507-529.

【註4】Kimel, A. J. (2018), Psychological foundations of marketing: The keys to consumer behavior, Routledge.

【註5】Luchs, M., R. W. Naylor, J. R. Irwin and R Raghunathan (2010), “The sustainability liability: Potential negative effects of ethicality on product preference,” Journal of Marketing, 74 (5), pp. 18-31.

【註6】Lin, Ying-Ching and C. A. Chang (2012), “Double standard: The role of environmental consciousness in green product usage,” Journal of Marketing, 76 (5), pp. 125-134.

【註7】Bazerman, M. H., A. E. Tenbrunsel, and K. Wade-Benzoni (1998), “Negotiating with yourself and losing: Making decisions with competing internal preferences,” Academy of Management Review, 23 (2), pp. 225-241.

【註8】Reczek, R. W. (2020), “Why Don’t Consumers Always Shop Ethically?” MSI Webinar, November 13, 2020, https://www.msi.org/wp-content/uploads/2020/11/Why-Dont-Consumers-Always-Shop-Ethically.pdf.

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