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高橋篤史「経済禁忌録」

五洋インテックスに3500万円を貸した社員は、なぜ返済されずに突然解雇されたのか?

文=高橋篤史/ジャーナリスト
五洋インテックスに3500万円を貸した社員は、なぜ返済されずに突然解雇されたのか?の画像1
日本取引所グループのサイトより

 これは口封じなのか――。

 1月上旬、ジャスダックに上場するインテリアカーテン商社の五洋インテックスは、ある従業員を解雇した。突然クビを言い渡されたのは、関連会社に対し個人的に貸した3500万円が返済されていないとして川勝宣昭社長ら経営陣に訴え出ていた人物だ。焦点の貸付金をめぐっては昨年10月以来、外部弁護士による調査が進められている。が、事態はますます混沌としてきたと言わざるを得ない。

 解雇された女性従業員は2019年秋、五洋インテックスに中途入社、以来、社長室に配属されIR業務などに従事していた。同社の子会社である五洋亜細亜に対し焦点の貸し付けが行われたのは2020年3月。関係者によると、経緯は次のようなものだった。

 貸し付けが行われる約1カ月前の2月13日、五洋インテックスでは社長交代があった。前任の宮原雄一氏に代わり専務から社長に昇格したのは梅野拓実氏。同社は数年来の経営不振にあり、不適切会計が発覚するなど経営混乱は長期にわたる。そんな中、前年4月には大株主やそれらとりまとめ役のロックハラード証券(東京都中央区)が主導する経営体制刷新が行われていた。宮原、梅野各氏もその際に外部から乗り込んできたひとりだ。混乱を収拾できないことで大株主に見切りを付けられた宮原氏に代わり後任社長に据えられた梅野氏ではあったが、資金繰りは綱渡りの情況だった。そんな苦境を近くで見ていた従業員は同情心から資金提供を申し出る。

 話し合いの結果、貸し付けは五洋インテックス本体ではなく子会社の五洋亜細亜を受け皿とすることとなった。これは梅野氏からの提案で、取締役会での承認手続きを避けることなどが理由に挙げられていたという。3月10日、従業員と五洋亜細亜との間では2通の金銭消費貸借契約書が交わされた。1通目は3000万円の貸し付けで、期限は約半年後の9月15日。2通目は同様に500万円で、9月30日とされた。金利はいずれも年3%で、梅野氏が連帯保証人となった。これに基づき、従業員は3月10日~同月18日、5回にわたり計3500万円を、みずほ銀行芝支店に開設された五洋亜細亜の口座に送金した。

 少し注意が必要なのは送金時、口座の名義は旧社名である「MNC」のままであった点だ。同社は2019年7月に医療ツーリズム事業への参入を目指し子会社化されたもので、買収は梅野氏が主導していた。同時期、五洋インテックスは大手病院チェーン「IMSグループ」の関連会社とも業務提携を結んでいた。とはいえ、直前期の売上高が約3600万円と、MNCの活動実態は何とも心許ないものだった。買収後の同年10月、MNCは五洋亜細亜に社名を変更、代表取締役に就任したのはほかでもない梅野氏だ。

決算不能状態

 さて、その後の五洋インテックスだが、資金を貸した従業員の願いも空しく、むしろ混迷は深まった。3月11日には東証から特設注意市場銘柄に指定。内部管理体制に改善の必要性が認められる際の措置で、1年以内に改善の見込みがないとみなされれば上場廃止である。さらに五洋インテックスは決算不能状態にも陥る。5月中旬に予定されていた3月期決算の発表ができなくなったのである。

 こうした事態を受け、梅野氏は社長から引きずり降ろされる。6月30日の定時株主総会をもって任期満了を待たずに取締役も辞任となり、まさに用済みだ。後任社長に指名されたのは新たに外部から招聘された川勝氏で、日産自動車の中堅幹部を経て日本電産の取締役も務めたという不振企業には釣り合わないピカピカの経歴の持ち主だった。

 前述の関係者によると、3500万円もの大金を提供している従業員は7月下旬頃、新社長となった川勝氏に対し貸付金の存在を相談しているという。当初の交渉相手だった梅野氏がいなくなった以上、当然の行動である。従業員はその後もメールなどで川勝氏に返済期限を伝えるなどしたという。しかし、同氏からは何ら回答らしきものがなかったようだ。この間の8月7日、川勝氏は肝心の五洋亜細亜の代表取締役に就任している。そうこうするうち、20万円あまりが利息分として梅野前社長から手渡されたものの、期限が過ぎても元本返済はなされずじまいだった。

 10月8日、従業員のもとに五洋亜細亜の代理人を名乗る弁護士から「通知書」が届いた。その内容は唖然とするものだった。貸付金は法人として関与したものではなく、あくまで梅野氏と従業員との個人間で行われたものとの主張が記されていたからだ。さらに債務不存在確認訴訟の提起まで予告されていたから従業員は動揺した。他方で通知書は梅野前社長による違法行為が複数存在することを匂わせ、その調査に協力すれば前述の訴訟提起を考え直していい旨も記していた。「取引」を持ち掛けるじつに破廉恥な代物である。

 これらの間、臭い物に蓋をするかのような会社側の対応に不信感を募らせた従業員は、東証や自主規制法人に対し貸付金に関する一連の経緯などについて詳細を報告していたようだ。延期に次ぐ延期の末、五洋インテックスが3月期決算の発表にこぎ着けたのは8月25日。が、会計監査人は会社法に基づく監査で意見不表明とした。それでも何とか1カ月後の9月23日、金融商品取引法監査では無限定適正意見を得ている。そんな中での貸付金存在の疑義だから事は重大である。東証などからよほどの圧力がかかったのだろう、会社側は10月20日に至りようやく貸付金をめぐり従業員の申し立てがあったとの事実を公表する。そして、事実解明のため外部調査委員会を設置することとなる。

貸付金のほかにも不透明な問題

 ところが今回の解雇である。会社側は従業員が社内メールを複数回にわたり外部の人間にも「BCC」で送っていた点など、それなりのことを解雇理由に挙げている。が、貸付金の存在をひた隠しにしようとしていた経緯はもとより、会社側の解雇理由を額面どおりには受け取れない周辺事実があるのも確かだ。

 じつは、五洋インテックスをめぐっては件の貸付金のほかにも不透明な問題が燻っている。例えば、名古屋市内の不動産賃借がそれだ。同社は2019年7月頃から同市・上前津のビルを2フロアにわたり賃借している。賃借料は月400万円ほどに上り、直近の年間売上高が12億円の同社にとって大きな負担だ。が、借りたフロアはまったく使われていないという。ビルの持ち主は大株主で名古屋市内に在住する個人投資家の関係企業だという。

 こうした事実は東証なども把握しているとされる。決算不能状態の最中に浮上した件の貸付金に限らず、会社側は従業員が不都合な事実の数々を内部告発していると神経を尖らせ警戒しているフシがある。そこで従業員を解雇という形で厄介払いしてこれ以上の情報提供を防ごうとしたのが事の真相ではないのか――。そんな仮説も成り立つ場面だ。

 他方、焦点の貸付金問題そのものについてはどうなのか。

 これに関しては梅野前社長による流用の疑いがある。前出の関係者によると、従業員が問い詰めても梅野前社長からは資金使途に関し明確な説明がないままだという。驚くべきことに、3500万円の送金先口座は会計監査の対象外に置かれていた簿外口座だった可能性が高い。前述したように、五洋亜細亜(旧MNC)の買収は梅野前社長が主導したものだったが、旧株主である唐沢ムエ氏なる人物は中国出身のようだが、素性は必ずしも明らかでなく、ほかの五洋インテックス関係者は誰も会ったことがないとされる。

待たれる外部調査委員会による報告書

 そもそも梅野前社長は五洋インテックス入りする以前、借金まみれだったとの事実がある。公表されている経歴によれば、1965年生まれの梅野前社長は丸紅を経ていくつかの海外法人の経営に携わり、2009年には中国の名門、復旦大学の客員教授にも就任したとされる。が、実際のところ、公表された経歴では触れられていない日本での起業が致命的な失敗に終わっていたのである。

 やはり中国出身の梅野前社長は2001年に日本帰化しているが、その5年前から東京都内で「アンドラーズ」なる旅行会社を経営していた。ただ、何らかの事情で同社を事実上畳み、2008年に「日中エアーサービス」というやはり旅行会社を設立している。4年後、取締役を降りたものの、梅野前社長は同社の実質経営者であり続けたようだ。2015年秋、中国からのインバウンド需要を当て込んだ同社は同業者と提携し資金を導入する。が、2年足らずで返済不能に陥ってしまった。結局、同社は2018年1月に破産(当時の社名は毎日旅行)。梅野前社長は約7000万円の連帯債務を負った。

 梅野前社長が元妻(2008年に協議離婚したとされる)とともに共同保有するタワーマンションが東京都大田区にある。その登記簿を見ると、金欠ぶりが手に取るようにわかる。最初の仮差押登記が東京信用保証協会によってなされたのは2010年8月。翌2011年3月にはサービサー会社が続き、さらに2017年11月には前述した提携先の同業者が仮差押登記を打っている。関連する民事裁判記録によると、これら債務額は計2億1000万円あまり。マンションの競売が実施されたのは2020年1月下旬で、約5700万円の一番札を入れたのは現在そこに居住する梅野前社長の元妻だった。一体、元妻はどうやってそんな大金を用立てたのだろうか。

 外部調査委員会による報告書は2月中にもとりまとめられるものとみられる。焦点の貸付金は五洋亜細亜が負うべきものか、それとも会社側が主張するように梅野前社長の個人債務なのか。どちらに認定されようとも、五洋インテックスが内部統制上、重大な欠陥を抱えていることに変わりはない。同社の終末的局面は刻一刻と迫っているように映る。

(文=高橋篤史/ジャーナリスト)

高橋篤史/ジャーナリスト

高橋篤史/ジャーナリスト

1968年生まれ。日刊工業新聞社、東洋経済新報社を経て2009年からフリーランスのジャーナリスト。著書に、新潮ドキュメント賞候補となった『凋落 木村剛と大島健伸』(東洋経済新報社)や『創価学会秘史』(講談社)などがある。

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