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日本企業、世界のパワー半導体市場で存在感高まる…“すり合わせ”技術、競争力の源泉に

文=真壁昭夫/法政大学大学院教授
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「富士電機 HP」より

 近時、パワー半導体分野で新しい取り組みを進める日本企業が増えている。広島県にて、三菱電機はパワー半導体の新しい製造拠点の稼働を目指している。東芝も国内での生産能力の増強に取り組む姿勢を鮮明にしている。また、富士電機は中期経営計画のなかでパワー半導体の成長力強化に取り組むことを明記した。さらに、ロームは次世代のパワー半導体市場でのシェア拡大を目指す。

 パワー半導体分野では、日本企業が“すり合わせ”の技術を磨いて競争力を発揮してきた。特に、日本の自動車業界は、パワー半導体の開発に向けた各社の取り組みに無視できない影響を与えた。それぞれのメーカーは、既存分野での技術の向上や新しいパワー半導体関連の部材の実用化などに取り組み、さらなる競争力の強化を目指している。

 コロナショックを境にDX(デジタル・トランスフォーメーション)をはじめ、世界経済の環境変化のスピードは加速している。それに加えて、中長期的に世界のパワー半導体需要は増え、企業間の競争はさらに激化するだろう。そのなかで、日本のパワー半導体関連企業が総合的なモノづくりの力を発揮してより多くのシェアを獲得し、成長を実現することを期待したい。

意外と知られていないパワー半導体の役割

 半導体と聞くと、CPU(中央演算装置)などを思い浮かべることが多い。しかし、パワー半導体は、CPUやメモリとは異なる電子部品の一つだ。

 そもそもパワー半導体は、電力の供給やその流れのコントロールを行う電子部品だ。主な種類に「パワーMOSFET(金属酸化膜半導体電界効果トランジスタ)」や「IGBT(絶縁ゲート・バイポーラ・トランジスタ)」がある。トランジスタとは、電子回路にて信号の増幅(小さな信号を大きくすること)や、スイッチング(電気を流したり止めたり)する電子部品のことを言う。

 電源が必要な機器には、パワー半導体が欠かせない。その領域は広く、スマートフォンをはじめとするITデバイスに始まり、LED照明、白物家電、自動車、ロボットなどの産業機器、鉄道、送電網など多岐にわたる。具体的には、各製品や機器のインバータなどの電源回路にパワー半導体が組み込まれる。自動車の場合、ハイブリッドカー(HV)など自動車の電動化が進むにつれて「パワー・コントロール・ユニット(PCU)」の性能向上が走行性能を左右するようになった。PCUにはパワー半導体が組み込まれ、それが車両の性能向上を支える。そう考えると、自動車産業が国内パワー半導体業界に与えた影響は大きい。

 CPU(中央演算装置)やNAND型フラッシュメモリは、比較的小さな電力で効率的に計算やデータを記録・保存する。そのため、回路線幅の微細化と高集積化が進んだ。それに対して、パワー半導体はより多くの電力を管理し、高温への耐性が求められる。つまり、メモリなどの情報通信関連の半導体とパワー半導体の使用目的は異なり、前者はITデバイスなどの“頭脳”に、パワー半導体は“筋肉”に例えられることがある。

 また、パワー半導体の分野では、その部材(材料)としてシリコンに加えて、炭化ケイ素や窒化ガリウムが注目されている。その理由は、電力損失の抑制や、高温への耐性、小型化を目指すためだ。炭化ケイ素や窒化ガリウムを用いたパワー半導体は「次世代パワー半導体」と呼ばれることもある。なお、次世代パワー半導体の生産コストは相対的に高い。

パワー半導体分野における日本企業の存在感

 現在、日本のパワー半導体業界は、世界市場のなかで相応の存在感を示している。日本の企業は、同分野で3割近い世界シェアを維持している。国内最大手は三菱電機であり、それに東芝、富士電機、ルネサスエレクトロニクスが続く。また、ロームも次世代のパワー半導体分野でシェア拡大を目指している。

 それに加えて、トヨタ自動車は、デンソーと豊田中央研究所との共同によってパワー半導体の研究開発と、実用化に取り組んでいる。日立製作所はグループ企業と共同でパワー半導体への取り組みを進め、高電圧に対応したパワー半導体を用いたEV(電気自動車)向けのインバータを開発した。存在感という点で考えると、一般的に指摘されているよりも、世界のパワー半導体市場における日本企業のプレゼンスは大きい可能性がある。その状況は、メモリなどの情報通信関連の半導体とは対照的だ。現状、メモリ分野ではキオクシア(旧東芝メモリ)が、CMOSイメージセンサ(画像処理の半導体)ではソニーが競争力を発揮しているが、日本全体で見るとメモリ分野などでの競争力は低下した。

 国内パワー半導体業界の競争力を支える要因は複数考えられる。その一つとして注目したいのが、“すり合わせ”の技術だ。日本経済にとって、自動車産業は経済の屋台骨だ。自動車各社はHVシステムの実用化や性能の向上などを目指して、サプライヤー各社に新しいパワー半導体の実現を求めた。それは、国内パワー半導体分野でのイノベーションを支え、世界市場でのシェア維持を支えた大きな要因だろう。

 その影響は、パワー半導体という製品に留まらない。日本では、ロームが炭化ケイ素製のウエハーをスイスの半導体大手のSTマイクロエレクトロニクス社に提供している。他方、日本企業は、シリコンウエハーを用いたパワー半導体分野でも、技術の革新に取り組んだ。例えば、三菱電機は次世代パワー半導体の生産を目指すことに加えて、東京大学と共同で電流のオン・オフ時の電力損失を抑えるシリコン製パワー半導体向けの新しい技術を開発し、実用化を目指している。以上をまとめると、個社ごとに事業戦略の違いはあるが、日本全体で見ると、既存技術の改善と次世代製品市場でのシェア拡大の両面でパワー半導体業界はシェアの獲得に取り組んでいる。

パワー半導体各社に求められる変化への対応力

 中長期的に、世界全体でパワー半導体の需要は高まるだろう。自動車分野では電動化(HV、PHV、EVなどへの取り組み)が進み、自動車に搭載されるパワー半導体の数は増える。また、環境面でも需要は拡大する。太陽光や風力などの再生可能エネルギーの利用拡大のためにパワー半導体は欠かせない。欧州各国や米国のバイデン政権は環境対策で景気回復を目指す「グリーン・リカバリー」を重視している。パワー半導体関連の技術向上は、各国の環境政策にも無視できない影響を与える。そうした需要を獲得するために、パワー半導体業界での競争は激化している。

 他方、世界の半導体業界全体では、設計・開発と生産の分離が加速している。昨年後半以降の世界的な半導体の需給ひっ迫は、自動車やIT機器向けの半導体需要が高まるなかで、台湾のTSMCなどファウンドリーに半導体の生産が集中したためだ。世界的な半導体の設計・開発と生産の分離は、日本のパワー半導体業界にとって他人事ではない。各社はそうした変化に的確に対応しなければならない。パワー半導体を生産してきた日本企業にとって、自社で設計・開発・生産までを手掛ける垂直統合のビジネスモデルを見直し、より効率的なビジネスモデルの確立を目指すことの重要性は高まっている。

 すでに国内のパワー半導体業界では、外部への生産委託の割合を引き上げようとする企業がある。それによって企業は設備投資への負担を引き下げつつ、次世代のパワー半導体の創造や既存技術の改善に注力することができるだろう。

 その上で各社は、新しい発想に基づいたパワー半導体が実用に耐えうるか否かを迅速に検証する体制を整え、競合相手に先駆けて市場に投入しなければならない。それは、最先端の分野では高付加価値の製品創出に取り組み、既存分野ではより効率的な製造技術を確立するという意味での総合力の重要性が高まっていることを意味する。

 現在の世界市場における国内パワー半導体企業のシェア水準や、財務的な健全さを考えると、各社がビジネスモデルの変革を進めつつ、新しい製品の創出などに取り組むことは可能だろう。各社トップが事業戦略を明確化して、組織全体を一つにまとめ、さらなる成長を目指す展開を期待したい。

(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

真壁昭夫/多摩大学特別招聘教授

一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。
多摩大学大学院

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