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木下隆之「クルマ激辛定食」

BMW「M5コンペティション」、常軌を逸した高性能…約2千万円の超高級車なのに紳士的

文=木下隆之/レーシングドライバー
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BMW「M5コンペティション」

 搭載するエンジンはV型8気筒、排気量は4.4リッターにも達する。ツインターボで武装したモンスターは最高出力625ps、最大トルクは750Nmを絞り出すというから、腰を抜かしかける。それでいて、フェラーリやランボルギーニのような低く身構えたイタリアンバイオレンスでもなく、コルベットやパイパーのような獰猛なアメリカンマッチョでもない。ともすれば、ビジネスパーソンの通勤のお供でも不自然ではないし、平和な家族の帰省や旅行に適した、ごく平凡な4ドアセダンだ。もちろん、びっくりするほど高級だが、どこにも破綻のない典型的な3ボックスの正統派セダンだというのに、常軌を逸した性能を誇るのである。

 その名も「M5コンペティション」。BMWのなかで「M」モデルが特別な存在であることは周知の事実だろう。モータースポーツベースモデルを開発するのは、BMW直系のM社である。前身は「Mモータースポーツ」と名乗った。それが証明するように、コンペティションの世界で覇を競い、数々の勝利を積み重ねてきた。本家本元の武闘派集団がつくり上げたモデルが、Mシリーズだ。M5コンペティションは、M社が開発した過激なエンジンを積み込んでいるというわけだ。

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 しかも、今回試乗のために駆り出したモデルは、「M5」をベースにチューニングを加えたスペシャルモデルだというから、あきれるほかない。エンジンは+25ps。M5でも十分すぎるほど速いのに、さらに何を求めているのか、最高速度が120km/hに制限されている日本では、その性能を持て余しそうである。

 ステージをドイツに変えれば、M5コンペティションの存在意義がわかる。速度無制限のアウトバーンでは、これほどの速さが正義となる。正統派セダンでアウトバーンを往復するビジネスエリートにとっては、プロジェクトを成功させるために、誰よりも速く移動可能なクルマが必要なのだ。

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 それが証拠にM5コンペティションは、日常では意外なほどに紳士的な振る舞いである。乗り心地は低速で硬く、サスペンションが締め上げられていることはわかるし、始動の際にエキゾーストノートが獰猛に吠える。だが、乗り心地に閉口するほど荒いわけではないし、エンジン特性も低回転から粘り強い。

 そもそもインテリアは高級感が際立っており、VIPのエスコートにも耐えられる。エクステリアも整っているから、たとえば高級ホテルに乗り付けても場の雰囲気を壊すことはない。財布の厚みをこれ見よがしにひけらかすそぶりもない。オプションを含めれば2000万円を超えようというのに、嫌味ではないのだ。まさにビジネスエリートにとって最高の高速移動型高級セダンなのである。

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 今回マイナーチェンジが施された2020年モデルは、主にブレーキ性能が強化されている。ブレーキの初期の効き味が抜群に鋭くなった。これまでのように踏力を高めずとも、ブレーキペダルに軽く足を添えただけで強引なストッピングパワーを発揮する。まさに紳士的な振る舞いなのである。

 アウトバーンの追い越し車線を矢のように突き進み、時にはスーパーカーを駆逐するM5コンペティションが、日本でも味わえる。日本でその性能を100%引き出すステージはサーキットでしかない。とはいうものの、誰よりも速く走れる高級セダンを所有する、その心持ちも捨てがたい。
(文=木下隆之/レーシングドライバー)

●木下隆之
プロレーシングドライバー、レーシングチームプリンシパル、クリエイティブディレクター、文筆業、自動車評論家、日本カーオブザイヤー選考委員、日本ボートオブザイヤー選考委員、日本自動車ジャーナリスト協会会員 「木下隆之のクルマ三昧」「木下隆之の試乗スケッチ」(いずれも産経新聞社)、「木下隆之のクルマ・スキ・トモニ」(TOYOTA GAZOO RACING)、「木下隆之のR’s百景」「木下隆之のハビタブルゾーン」(いずれも交通タイムス社)、「木下隆之の人生いつでもREDZONE」(ネコ・パブリッシング)など連載を多数抱える。

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