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寒波で月の電気代が10倍に高騰?「市場連動型プラン」は契約してはいけない?

文=横山渉/ジャーナリスト
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「Getty images」より

「今冬の電気料金は例年の10倍になるかも……」などと、SNS上で電気代の急騰を心配する声が広がっている。昨年末から続く寒波で電力不足が続き、電力会社間で電気を取引する卸電力市場のスポット価格が急騰しているからだ。そして、この問題は、一部の新電力が提供している「市場連動型プラン」と呼ばれる電気料金プランに加入した世帯で発生している。

「市場連動型プラン」の説明の前に、電力会社がユーザー(家庭や企業)に供給する電気の調達方法を説明する。その方法は主に3つある。

(1)旧大手電力グループのように自前の発電施設で発電した電気を供給

(2)電気の市場である日本卸電力取引所(JEPX)から電気を購入し供給

(3)市場を通さず相対契約で購入して供給

 電力会社すなわち資源エネルギー庁の「登録小売電気事業者」は全国に698者(昨年12月28日現在)あり、電力自由化後に設立された新電力の多くは発電設備を保有していない。設備を保有している企業は20社に1社程度なので、多くは「電気の小売り専業会社」である。発電設備を持たない新電力は、商品である電気の仕入れをJEPXから調達したり、企業が持つ自家発電設備などの余剰電力や大手電力との相対契約で調達したりしている。

 JEPXは発電所を所有していない事業者でも小売電気事業に参入できるようにと設立された経緯があり、日本国内の主要な発電所の電気が市場を通じて売り買いされている。JEPXでは翌日の電力供給量を売り手が提示し、買い手が必要量を提示することで価格が決定される。

寒波と新型コロナの影響で高騰

 JEPXでの市場価格が高騰した最大の理由は、昨年末から続く寒波により暖房設備などの利用が増え、急激に電力需要が高まったことだ。国際環境NGO「FoE Japan」によれば、北海道、北陸、関西、四国など地域によっては供給力に対する最大電力需要が95%を超えるような日もあったそうだが、日本全体で電力不足になっているわけではないという。例えば、東京電力エリアでは、80~90%程度と余裕のある状況だ。

 価格高騰には他の理由もある。現在、日本の電力をもっともまかなっているのは液化天然ガス(LNG)の火力発電だが、燃料であるLNGの在庫が少なくなったことも原因だ。政府も輸入を急いだが、コロナ禍により、輸送路であるパナマ運河で海上輸送路制限が敷かれ、輸送船の到着が遅れた。

 LNGはタンクに入れて長期間貯蔵すると気化してしまうため、夏場に余ったLNGを貯めておいて冬場に使うというわけにはいかない。政府や発電事業者が在庫見通しを誤ったといってしまえばそれまでだが、想定外レベルの寒波だったということだろう。

 そもそも、JEPX価格急騰の根本原因は、日本のエネルギーシステムが、価格変動リスクの大きい輸入燃料に頼っているからだ。もし、国内で自給できる自然エネルギーの発電比率が高く、輸入資源への依存度が低ければ、電力会社はより安定した価格で電気を調達することができるはずである。今冬のように雪が多いと太陽光発電が著しく不利なのは事実だが、自然エネルギーは太陽光だけではない。

市場連動型プラン、想定契約件数は約80万件

 電気料金プランの1つである市場連動型プランは、JEPXの市場価格に連動して電気料金単価が決まるプランだ。JEPXの市場価格が高騰すると、利用者の電気料金にもそのまま反映する。

 電力・ガス比較サイト「エネチェンジ」によると、市場連動型プランを取り扱う新電力(小売電気事業者)の供給量シェアは1.86%で、想定契約件数は約80万件。その多くは飲食店や個人商店のような小規模法人だ。ほとんどの一般家庭・消費者の電気料金プランは従量制料金で、料金単価が固定されており、今回のJEPX高の影響は軽微だ。つまり、ほとんどの人にとって、SNSで騒がれるような電気代高騰は杞憂である。

 ただ、従量制料金は固定であるものの、電気料金に加算される「燃料費調整額」をJEPX価格の変動に合わせて調整する「燃料費調整型」の料金プランもあるので、その点は注意すべきだろう。市場に連動するということは、電気代が安くなるときもあるということ。

 とくに昨年は新型コロナの影響で企業の生産活動が低迷し、電力需要も落ち込み、市場価格は著しく安かった。市場連動型プランの契約者はそこで恩恵を受けていたはずだ。例えば、2020年11月のJEPXスポット市場の24時間平均価格(東京エリア平日)は、2019年11月の半額だった。電気料金プランのメリット・デメリットはトータルで判断されるべきだ。ENECHANGEの有田一平代表取締役COOはこう話す。

「今回のような高騰するリスクをユーザーさんは理解して契約していたかどうか。一方で電力会社は十分にそのリスクを説明していたかどうか。そこが大きなポイントです。また、市場連動型プランに加入していることを、そもそも認識していないユーザーがいるかもしれません。事前に料金単価がわからないので、請求書が届いて初めて電気代高騰を知る法人ユーザーが出てきて、騒ぎがさらに大きくなることも予想されます。市場連動型プラン自体は必ずしも悪いというわけではありませんが、こういう状況が発生するとわかってしまった以上、今後は選ばないほうがいいでしょう」

 なお、従量制料金プランで短期的には料金が上がらなかったとしても、市場価格の高騰が落ちついた頃に多くの電力会社で一斉に電気料金の改訂(電気料金の値上げ)が行われる可能性はある。4月あたりの検針票・領収書は要注意である。

(文=横山渉/ジャーナリスト)

横山渉/フリージャーナリスト

横山渉/フリージャーナリスト

産経新聞社、日刊工業新聞社、複数の出版社を経て独立。企業取材を得意とし、経済誌を中心に執筆。取材テーマは、政治・経済、環境・エネルギー、健康・医療など。著書に「ニッポンの暴言」(三才ブックス)、「あなたもなれる!コンサルタント独立開業ガイド」(ぱる出版)ほか。

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