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長谷川高「“ガラガラポン”の時代を生き抜くための経済・投資入門」

親から相続した処分困難な不動産、仲介業者を介さず個人間売買したら“最悪の事態”に

文=長谷川高/長谷川不動産経済社代表
親から相続した処分困難な不動産、仲介業者を介さず個人間売買したら“最悪の事態”にの画像1
「Getty images」より

 昨年末に知人から聞いた個人間取引に関する怖い話をお伝えしたいと思います。

 昨今、ヤフオクやメルカリなどのサイトによる個人間取引が増加しているのは周知の事実です。私も昨年、多くの書籍をメルカリで買いました。この個人間取引の対象が書籍であれば、購入した後の「瑕疵」といっても汚れや書き込みといった程度のものです。購入金額と比較して損得の問題はありますが、「本を読む」といった本来の目的が達成できないといったことはまず起こりえません。

 しかし、これが不動産、特に土地だけではなく建物付きの物件だった場合、個人間取引には数々の大きな問題が付きまといます。実際に実例を紹介しながら、その点を指摘していきたいと思います。

「売主」側が被害に遭うケースも

 昨年、ある方が所有する地方の古民家を改修して民泊施設を運営しようという計画を立てたグループがありました。ところが改修、つまりリノベーションを開始してみると、大きな問題が発生しました。それは、その古い建物が見た目よりもはるかに傷んでおり、修繕に莫大な費用が掛かることが判明したのです。部分的にかつてシロアリも発生した痕跡があり、修繕には当初の予算の数倍掛かることが判明しました。そこでやむをえず、改修を断念したそうです。

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『不動産2.0』(長谷川高/イースト・プレス)

 実はこのケースは家を借りての民泊事業でしたので、その後、貸主・借主間の話し合いはある程度穏便に終わったと思われます。しかし、これが売買の場合、つまり購入した後=引き渡しを受けた後=残金決済した後なら、どうなっていたでしょうか? 問題解決には数倍の時間と費用が掛かったと想像します。

 次に、不動産の個人間売買における「売主」としてトラブルに見舞われたケースです。

 知人の水谷氏(仮名)は、父親から相続を受けた北関東の別荘の処分に関して悩んでいました。その立地は市街地から離れ、別荘地といっても無名の場所でした。私も町名を聞いても、まったくどこだかわかりませんでした。地元の不動産屋さんやリゾート物件専門の業者に売却したいと相談したものの、見学者すらほとんど現れなかったそうです。

 そこで彼は、地元の人々が日用品の貸し借りや売買の情報を掲載している「ネット掲示板」に「500万円で売却したい」と掲載したのでした。するとある方からメールが来て、新宿の京王プラザホテルのロビーで会うことになったそうです。

 その方(仮にA氏)にお会いすると、お子さんを連れた子煩悩そうな40代のよきパパさんでした。A氏曰く、以前より子供を環境の良い田舎で育てたいと思っていたこと、一つだけ問題があり、今は200万円しかないので、手付金200万円で残金300万円は月々50万円の6カ月分割払いにしてほしいということでした。

 人の良い水谷氏は、この申し出に乗ってしまいました。さらには残金が払い終わる前に、Aさん家族の引っ越しを認めてしまったのです。実際の売買契約書は、インターネットから情報を得て水谷氏自身が作成したそうです。水谷氏は会社の総務部で働いているので、おそらく一般的な契約書をつくること自体はお手の物だったと思われます。

 その後、何が起こったか。A氏が入居した後の残金は一度も支払われず、催促はすれどなんら連絡がなくなったというのです。水谷氏が困り果てていると、今度はなんと警察から電話があり、A氏を傷害罪で逮捕したので、家宅捜査したいと連絡が入ったそうです。

 登記簿上の所有者がまだ水谷氏になっていたので、警察が連絡をしてきたのでしょう。水谷氏が警察官立ち会いで別荘に行くと、そこにはすでに家族も誰もいない空の状態だったそうです。しかしながら、家の中は荒れ放題だったのです。さらに、庭には大量の何かを燃やした跡が残っていたそうです。警察官曰く、A氏は多数の労働者をタコ部屋としてその家に住まわせ、近くの建物解体現場に通わせていたとか。しかし、ある現場で元請けの業者との間にお金の支払いに関するトラブルが発生し、言い争いの中で相手をA氏が刺し、事件になったというのです。

 さらにA氏は前科のある元暴力団組員だったそうです。薬物も使っており、その薬を隠し持っているのではと警察は家宅捜査したそうです。当初は、家を供与した(実際は供与したわけではありませんが)水谷氏も「共犯」ではないかと警察は疑っていたそうです。

 A氏は、通常の売買、つまり不動産業者を仲介業者として入れては、自分が家を借りることも買うこともできないだろうと、個人間売買の掲示板で物件を探したのだと想像します。

 プロの業者を入れず素人相手の個人間ならどうにかできると思ったのでしょう。A氏は水谷氏が「売るに売れない物件」を持て余していたことを見抜き、自分の思い通りの取引にもっていったのです。さらには、買主として怪しまれないように自分の子供も取引の現場へ連れて行き、よきマイホームパパを演じたそうです。

宅地建物取引業者の使命

 ところで、宅地建物取引業者の使命は何でしょうか? よく誤解されることなのですが、その使命とは、売主と買主、または貸主と借主をマッチングさせることだと思っている方が多いようです。実はこのマッチングという業務は、本来の仲介業務の一部でしかないのです。

 ただマッチングするだけならば、それこそマッチングサイトや掲示板で事足りるかもしれません。このマッチング以上に重要なことは「取引の安全をはかる」という点なのです。つまり、「この買主に売って、あとあと問題がないだろうか?」「問題が起こらないようにするには、どのような契約内容にすべきだろうか?」といったことを事前に調査し、詰めていくことが重要なのです。契約した後に、または物件を引き渡した後にトラブルが発生しないように、双方の間に入り取引を「安全に」進めることが本来の仕事なのです。

 近年、某大手ハウスメーカーが本来の土地所有者でなかった者から土地を購入してしまうといった詐欺事件がありました。あの取引も地面師集団に大手ハウスメーカーが騙されたといった構図がクローズアップされていますが、この取引を扱った仲介業者がこの詐欺行為を結果的に見抜けなかったことが個人的には残念でなりません。

 本来売主でない者が売主を装って詐欺的な不動産売買を行うというのは、ある意味古典的な詐欺です。想像するに、買主側にも仲介業者側にも取引を進める上で、いくつも怪しいと感じる点は存在したのだと思われます。しかし、この大きい取引を是が非でも進めたい、成就させたいといった気持ちが強かったのだと思います。つまり行動経済学的でいう「正常性バイアス」が強く働いてしまったのではないでしょうか。

(文=長谷川高/長谷川不動産経済社代表)

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

長谷川高/長谷川不動産経済社代表

東京生まれ。立教大学経済学部経済学科卒。
大手デベロッパーにて、ビル・マンション企画開発事業、都市開発事業に携わり、バブルの絶頂期からその崩壊と処理までを現場の第一線で体験。 1996年に独立。
以来、創業から一貫して顧客(法人・個人)の立場で不動産と不動産投資に関するコンサルティング、投資顧問業務を行う。また、取引先企業と連携して大型の共同プロジェクトを数多く手掛ける。
自身も現役の不動産プレイヤーかつ投資家として、評論家ではなく現場と実践にこだわり続ける一方で、メディアへの出演や執筆、講演活動を通じて、難解な不動産の市況や不動産の購入・投資術をわかりやすく解説している。
長谷川不動産経済社

Twitter:@hasekei8888

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