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藤和彦「日本と世界の先を読む」

ミャンマー軍クーデター、アジアで高まる地政学リスク…インド・中国、代理戦争の懸念

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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 インドにとってもミャンマーは1500キロメートル以上の国境線を接する重要な隣国である。ASEAN諸国のなかで唯一国境を共有する国であり、成長著しい東南アジアへの入り口としてミャンマーとの友好関係は戦略的に重要である。

 1月22日にインドから新型コロナウイルスのワクチン(150万回分)が届き、27日からミャンマーで接種が始まった。ミャンマーに対しては中国も1月11日にワクチン(30万回分)提供を表明していたが、インド側が「ワクチン外交」で一歩リードしたかたちとなっている。

 インドメディアが「今回のクーデターで国際的に孤立したミャンマー軍のインドへの依存が高まり、インド政府は国際社会との間で『綱渡り外交』を余儀なくされる可能性がある」と報じているように、ミャンマー情勢をめぐる国際社会における主要なプレーヤーは、中国や米国ではなく、インドなのかもしれない。

中国とインドの覇権争い

 静観の構えを見せている中国だが、今回のクーデターが起きたことでスー・チー国家顧問とフライン司令官を「両天秤」にかけてきた外交が破綻したとの見方もある。もしそうであれば、ミャンマーで推進中の中国の各種プロジェクトが打撃を受けることになりかねない。ミャンマーではクーデターに対する国民の不満が拡大しているが、混乱すればするほど「少数民族保護」を名目に中国が介入する可能性が高まるのではないだろうか。

 インドは、安全保障の観点から中国がミャンマー経由でインド洋に進出することに懸念を示してきた。2月2日付本コラムで述べたとおり、インドの北東部に位置するアルナチャルプラデシュ州内に中国が「数千人が居住できる村」を建設していたことが明らかになっている(2020年11月25日付CNN)。「村」から約1キロメートル南には中国軍の駐屯地があり、「居住民保護を名目に実効支配を行うのではないか」との懸念がインド側に生じている。中国は「我が国の領土に違法に設置されたアルナチャルプラデシュ州なるものをこれまで一度も承認したことはない」との立場であり、1962年の中印紛争ではこの地域でも激しい戦闘が行われた。

 領土をめぐり中国との間で緊張が高まっているなかで、インドとしては、アルナチャルプラデシュ州をはじめとするインド北東部と国境を接するミャンマーが中国の勢力下に入ることは、なんとしてでも阻止しなければならないだろう。

 ミャンマー軍は「対応を誤れば、同国がインド・中国両国間の代理戦争の場になる」ことを恐れてきたが、自らが起こしたクーデターによりその懸念がにわかに現実味を帯びてきた。なんとも皮肉な話である。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職

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