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湯之上隆「電機・半導体業界こぼれ話」

『報ステ』がインタビューを歪曲報道…修正依頼を無視、TSMCの日本進出報道でミスリード

文=湯之上隆/微細加工研究所所長
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 このように、2年で70%ずつ微細化すると、ある一定面積の半導体チップには、2年で2倍のトランジスタが形成できることになる。つまり、2年で2倍の割合で集積度が上がるわけだが、これをムーアの法則と呼んでいる。そして、大規模集積回路の時代が幕を開けた1970年以降、世界中の半導体メーカーが、延々と微細化競争を行ってきた。

 ところが、微細化が進むにつれて技術的なハードルが高くなり、加えてその開発にはとてつもない研究開発投資が必要になってきた。その結果、2000年頃に20社ほどあった最先端半導体メーカーは、どんどん数が減少していき、2015年には米インテル、韓国サムスン電子、そしてTSMCの3社に絞られてしまった。そして、2016年以降にインテルが14nmから10nmに進むことができず、脱落した。

 その後、サムスン電子とTSMCの一騎打ちとなったが、2019年以降、最先端露光装置EUVを使いこなすことに成功したTSMCが一人勝ちの状態となった。2019年に7nmの量産を立ち上げたTSMCは、2020年に5nmの量産を実現し、今年2021年には3nmの量産を開始する。

 このように、現在、最先端の前工程でロジック半導体を製造できるファンドリーは、世界の中でTSMC1社になってしまった。その結果、世界中のファブレスの生産委託がTSMCに殺到し、TSMCの製造キャパシテイの争奪戦を行っている(図3)。それが、TSMCが2位以下に大差をつけて、2020年のファンドリーの売上高シェア55%を独占する要因となっている(図4)。

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 また、今年になって自動車用半導体の供給不足が発覚し、世界中の自動車メーカーが減産を余儀なくされている原因も、TSMCの製造キャパシテイの争奪戦に破れたことにある(その詳細は拙著記事を参照ください)。

TSMCは10年前から後工程にも進出

 このように、TSMCは前工程の微細化競争で一人勝ちの状況となり、ファンドリーの売上高シェアでも圧倒的な存在感を示している。もはや、世界の電子機器(クルマも含む)は、TSMCの存在なくしてあり得ない状況になっているである。

 そのTSMCが、約10年前から後工程にも参入してきた。半導体の微細化は止まってはいないが、先に進むことがますます困難になってきている。しかし、毎年毎年、半導体の集積度を挙げたい、もっと高速に動作させたい、もっと消費電力を下げたいという要求は尽きることがない。

 特に、TSMCの最大のカスタマーであるアップルからの要求は極めて厳しい。アップルは、毎年夏頃に新型iPhoneを発表し、クリスマスシーズンに向けて世界中に大々的に販売する。その出荷台数は、2~3億台にもなる。

 読者の皆さんも、新型iPhoneの購入を検討するとき、どんな新機能が付いているのか、さまざまなアプリが使えるか、バッテリー持ちは良いのか、通信速度は速いか、ストレージは十分あるか、軽くて見やすくて落としても壊れなくて水没しても大丈夫かなど、今までのiPhoneより格段に優れているかどうかを気にするでしょう。

 そのような要求は、すべてTSMCがどのように優れたプロセッサを製造するかにかかっているのである。そのため、TSMCは毎年、10nm、7nm、5nm、3nm、2nmと微細化を進めている。しかし、それだけでは、アップルの要求が満たせなくなってきている。

 そこで、これまでアセンブリーメーカー(OSAT)に任せきりだった後工程に進出し、DRAMというメモリとプロセッサを積層することにより、高速で、低消費電力性に優れ、基板サイズの小さなiPhone用プロセッサの開発に成功した(図5)。TSMCは、このパッケージ技術を、InFO(Integrated Fan-Out)と呼んでいる。

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 ほかにも、自動運転車に使う人工知能(AI)用の半導体など、高性能コンピュータ用に、プロセッサやGPUと呼ばれる並列処理プロセッサを縦に積み、その周辺にDRAMを縦に4枚積層した先端半導体パッケージを開発した(図6)。

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 TSMCはこの先端パッケージを、CoWoS(Chip-on-Wafer-on-Substrate)と呼んでいる。また、DRAMを縦に4枚積層した構造をHBM(High-Bandwidth Memory)と呼んでいる(図7)。このような斬新なパッケージ技術を用いることにより、AI半導体の高速処理が実現している。

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後工程はデットヒートの状態

 このように、前工程は世界の最先端をぶっちぎって独走しているTSMCが、斬新な後工程技術を開発し始めた。しかし、後工程の売上高シェアにおいてTSMCは、既存のアセンブリメーカー(OSAT)には敵わない。また、TSMCのInFOやCoWoSに刺激されて、世界中のアセンブリメーカー(OSAT)が同じような技術開発を始め、さらに前工程の微細化で脱落したインテルやサムスン電子も、この分野に参入してきた。

 後工程においては、異なる半導体を、どのように配置するかということについては、対象となる電子機器ごとに最適化方法が異なる(図8)。図8aのようにロジックもメモリも1チップでつくるのが良いのか(これをSystem on Chip、SOCと呼ぶ)、図8bのようにロジックとメモリを縦に積むのが良いのか(3D Stack)、図8cのように横につなぐのが良いのか(2D Side-by-side)、図8dのように縦にも横にもつないでしまったほうが良い場合もある(Multi-3D)。

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 要するに、後工程の領域においては、TSMCが先端技術で一歩リードしているが、デットヒートの状態にあるということである。TSMCが前工程のように、ぶっちぎって世界1位というわけではない。

 前置きが長くなったが、以上のことを頭に入れた上で、今回報道された、TSMCがつくば市に後工程の開発拠点をつくる意味を考える必要がある。

「トップレベルではなくトップ」の意味とは

 2月10日の『報ステ』で22時30分頃から、TSMC関係のニュースが報道された。のっけっから、筆者の顔がドアップになり、「トップレベルというより、トップです」という発言から始まった。これは、筆者は次のような文脈で用いた文句である。

「半導体は大きくメモリとロジックに分けられます。そのロジック半導体については、設計を専門に行うファブレスという半導体メーカーと、ファブレスから委託されて製造を専門に行うファンドリーがあります。TSMCは、前工程の微細化の最先端を突き進んでいる世界で唯1社のファンドリーであり、その売上高シェアも2位以下を大きく引き離しています。(「トップレベルなんですね」とのインタヴュアーの質問に対し)トップレベルではなくトップです(と答えたわけである)」

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