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修正資本主義とルネサス
米中対立に加えてコロナショックが発生した結果、自由資本主義を重視してきた米国などで、市場での競争に、必要に応じて政府が介入するという「修正資本主義」の発想が重視され始めた。米国は中国の通信機器大手企業である華為技術(ファーウェイ)やファウンドリー大手の中芯国際集成電路製造(SMIC)に制裁を科した。その一方で、米国政府は自国の半導体産業などへの補助金政策を重視している。
政府が主要産業の競争力を支えるという点に関して、ある意味ではルネサスは先行企業といえる。なぜなら、同社の最大株主は政府系ファンドであるINCJ(旧産業革新機構)だからだ。過去の業績などを振り返ると、ルネサスは政府の意向に加え、NEC、三菱電機および日立製作所の出身者間の利害をうまく調整することが難しかった。
今回の需給ひっ迫によって同社は、需要されるモノを生産することが何よりも重要であることに気付いたはずだ。現在の環境はルネサスが需要されるものを生産するという価値を共有し、組織を一つにまとめるチャンスだ。また、安定した資本の基盤は効率的な量産体制の確立や、中長期的な社会の変化に対応した半導体を創出することに資するだろう。口で言うほど容易なことではないが、ルネサスはそうした取り組みを進めなければならない。反対に、需要が明確に見えている間に組織をまとめ、新しい発想の実現に向けて社員が一丸となって取り組む体制を確立できなければ、需給ひっ迫感の解消、あるいはその緩みによって、同社の収益と事業運営体制が不安定化する可能性は否定できない。
そのためには、組織に属する個々人が車載、産業向けの半導体にどのような機能が求められていくか、将来の展開を思い描き、「こうなったらいい」という思いの実現に取り組むことが必要だ。それは、買収などによって得られるものとは異なり、企業内部のオーガニックな取り組みによるとことが大きい。組織全体でさまざまな価値観や発想を共有し、その実現を目指すために、同社経営陣がどのような取り組みを進めるか注目したい。
(文=真壁昭夫/法政大学大学院教授)
●真壁昭夫/法政大学大学院教授
一橋大学商学部卒業、第一勧業銀行(現みずほ銀行)入行。ロンドン大学大学院(修士)。ロンドン証券現地法人勤務、市場営業部、みずほ総合研究所等を経て、信州大学経法学部を歴任、現職に至る。商工会議所政策委員会学識委員、FP協会評議員。
著書・論文
『仮想通貨で銀行が消える日』(祥伝社、2017年4月)
『逆オイルショック』(祥伝社、2016年4月)
『VW不正と中国・ドイツ 経済同盟』、『金融マーケットの法則』(朝日新書、2015年8月)
『AIIBの正体』(祥伝社、2015年7月)
『行動経済学入門』(ダイヤモンド社、2010年4月)他。