ビジネスパーソン向け人気連載|ビジネスジャーナル/Business Journal
谷脇氏の悲願だった携帯料金引き下げは菅氏の強権で目先は達成したが、今後は次世代通信規格「5G」関連をはじめ、大手携帯キャリアが格安スマホ業者に回線を貸し出す接続料を引き下げる際の法令整備や、オンライン手続きの普及によって取り残される携帯電話販売代理店の問題への対応など課題は多い。
「谷脇氏は一つの国会で2、3本も法案をみれる怪物のような人だっただけに、5Gをめぐって世界各国が競争している現在は特に、日本の通信業界全体のダメージは非常に大きい」(冒頭のアナリスト)
今回の処分で谷脇氏以下、電波行政を担う旧郵政系の幹部が一気に4人も抜けることになり、実務に支障が出るのは間違いない。次期次官候補としては、現在内閣官房まち・ひと・しごと創生本部事務局地方創生総括官の名前が上がるが、旧自治省系で電波行政の知見はゼロ。ある携帯大手の中堅幹部は「役所に法案のことを相談しようにも、そもそも話がわからない幹部ばかりになり、早晩途方に暮れるのは避けられない」と予測する。
政治家も官僚も「菅銘柄」は壊滅
今回の接待問題の本質は、菅氏が正剛氏を東北新社にコネ入社させ、長男が接待係として同社でハバを聞かせる余地をつくってしまったことにある。「文春」側が事前に正剛氏の接待の日時と場所を把握していたことを考えると、東北新社側からのリークであることは間違いなく、社内で相当の不興を買っていたことは想像に難くない。
正剛氏は40代の会社員だが、通常なら中央官庁の高級幹部が接待に会うことなどあり得ない。課長クラスがせいぜいというところだろう。背景には菅氏の威光があったことは明らかだ。人事権で霞が関を掌握してきた菅氏の長男に呼ばれたら、拒否することなどできるわけがない。官僚自身の脇の甘さもあるのは間違いないが、そうした環境を菅氏が用意してしまったことは否定できない事実だ。
それにしても、菅氏の引きで出世した人間は政治家も官僚もほぼ壊滅状態だ。今回処分された総務省幹部は菅氏が総務大臣だったころに目を付けたメンバーだ。政治家にしても、2019年の参院選での収賄罪で起訴された河井克行被告や、菅原一秀元経済産業相は菅氏の側近中の側近だった。官房長官時代には「鉄壁のガースー」としてディフェンス能力の高さを評価されていたが、最高権力者になって逆風が強まり、馬脚を現したということだろう。
菅氏は「秋田の田舎から出てきて出世した」という苦労人のイメージを振りまいてきたが、今回の接待問題で、長男のコネ入社など、本質的には「成り上がりのオヤジ」と変わらないことを露見してしまった。低迷を続ける菅氏は総選挙に向けて、ますます厳しい政権運営を迫られることになる。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)
●松岡 久蔵(まつおか きゅうぞう)
Kyuzo Matsuoka
ジャーナリスト
マスコミの経営問題や雇用、農林水産業など幅広い分野をカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや文春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。ツイッターアカウントは @kyuzo_matsuoka
ホームページはhttp://kyuzo-matsuoka.com/
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