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篠崎靖男「世界を渡り歩いた指揮者の目」

クラシックの世界に根づく不思議な慣習…なぜ指揮者は下手(左側)から登場する?

文=篠崎靖男/指揮者
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 そう考えながらバラエティ番組を見ていると、出演者は上手に、司会者は下手に配置することが多いように思います。日曜日の夕方に放送されている『笑点』(日本テレビ系)などは典型的です。しかし、番組のメインともなる有名タレントが司会者の場合は上手にいたりするので、そのあたりも番組制作者の大事な演出なのかもしれません。人気テレビ番組『行列のできる法律相談所』(日本テレビ系)などは、人気司会者が上手から下手にいるひな壇タレントをいじり、弁護士軍団に判定を下させるときには、カメラワークが下手に司会者、上手は弁護士と変わり、弁護士の判断を高める演出をつくり上げています。

 上手・下手は、演出サイドにとっては、とても大事な要素なので、時には真ん中に司会者が立ち、両サイドに出演者となる場合がありますが、あえて変則的にして印象を高める演出でしょう。司会者と出演者の境界線があいまいになる面白さだと僕は思います。どうして指揮者がこんな話をするのかといえば、歌劇の演出にも共通しているように感じるからです。

 翻って、この上手と下手、つまりは右側と左側ですが、心理学的には国籍、性別、利き腕に関係なく、人間はモノを左側から右側に見ていく傾向があるといわれています。たとえば、書店で本を選んだり、洋服を買う際にも、左側から見ていくのが自然だそうです。しかも、ある心理学者の実験によると、最後に見たもの(右側)に対する関心が一番高くなるとの研究結果が出たそうです。つまりは、上手に立っている人物が一番印象強く感じるといえます。

 そんな人間の心理から、商品のプレゼンテーションをする場合には、たくさんのサンプルを並べ、相手から見て左端の商品から順々に紹介し、最後に説明する右端に本命の商品を置いておくのもテクニックだそうです。確かに、僕が主催者にプログラムを提案する場合、最後にとっておきの案を紹介すると、強く関心を持ってもらえる気がします。

 さて、指揮者がステージに上がる際には、下手(左側)から登場して上手方向(右方向)に移動し、舞台中央にある指揮台に到達します。観客の視線も左から右側に自然と動いて、一番関心が高くなった時に、指揮台に上がることになるのかもしれません。そういえば、歌舞伎の世界でも花道は下手にあり、人気役者が少しずつ上手の方向に動き、舞台に近づくにつれ、観客も盛り上がっていくように思います。
(文=篠崎靖男/指揮者)

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●篠﨑靖男
 桐朋学園大学卒業。1993年アントニオ・ペドロッティ国際指揮者コンクールで最高位を受賞。その後ウィーン国立音楽大学で研鑽を積み、2000年シベリウス国際指揮者コンクール第2位受賞。
 2001年より2004年までロサンゼルス・フィルの副指揮者を務めた後、英ロンドンに本拠を移してヨーロッパを中心に活躍。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団、BBCフィルハーモニック、ボーンマス交響楽団、フランクフルト放送交響楽団、フィンランド放送交響楽団、スウェーデン放送交響楽団など、各国の主要オーケストラを指揮。
 2007年にフィンランド・キュミ・シンフォニエッタの芸術監督・首席指揮者に就任。7年半にわたり意欲的な活動でオーケストラの目覚ましい発展に尽力し、2014年7月に勇退。
 国内でも主要なオーケストラに登場。なかでも2014年9月よりミュージック・アドバイザー、2015年9月から常任指揮者を務めた静岡交響楽団では、2018年3月に退任するまで正統的なスタイルとダイナミックな指揮で観客を魅了、「新しい静響」の発展に大きな足跡を残した。
 現在は、日本はもちろん、世界中で活躍している。ジャパン・アーツ所属
オフィシャル・ホームページ http://www.yasuoshinozaki.com/

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