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高井尚之が読み解く“人気商品”の舞台裏

カンロ飴、「カンロ飴食堂」で調理利用を訴求し売上増…手軽に炊き込みご飯や肉じゃが

文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント
カンロ飴、「カンロ飴食堂」で調理利用を訴求し売上増…手軽に炊き込みご飯や肉じゃがの画像1
「カンロ飴食堂」

「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画や著作も多数あるジャーナリスト・経営コンサルタントの高井尚之氏が、経営側だけでなく、商品の製作現場レベルの視点を織り交ぜて人気商品の裏側を解説する。

 新型コロナウイルス感染防止対策で「外出自粛」となり、多くの社会人が「在宅勤務」を行うようになって1年がたつ。それまで当たり前だった職場への通勤が減り、在宅での巣ごもり消費となり、消費者の購買行動も変わった。「コロナで売れた商品・売れなくなった商品」も、よく報じられている。

 今回は、その先の消費者心理を考えてみたい。筆者が注目したのは「キャンディ類」だ。仕事中に行う「デスクワークでの気分転換」という行為がある。ひと息つくために、ドリンクを飲んだり、お菓子を食べたりしてリフレッシュするものだ。2年前、食品メーカーの「タブレット菓子」(錠菓)担当者は、こんな説明をしていた。

「オフィスでの働き方を調べると、短時間の『メリハリのあるリフレッシュ』と、作業・仕事をしながら席を立たない『ながらリフレッシュ』に分かれているのを感じます」

 当時は“オフィスで勤務”時代だったが、在宅生活が中心となり、気分転換に楽しむ食品にも変化が出た。たとえば、午前中からアイスクリームを購入し、自宅での仕事中に楽しむ人もいる。オンライン会議などを除き、職場とつながっていなければ自由に振る舞えるのだろう。

 新たな訴求を行う企業もある。「カンロ」(本社:東京都新宿区)だ。キャンディ市場で首位の同社の取り組みを紹介しつつ、消費者意識の変化を考えてみたい。

飴事業全体は低迷したが、「カンロ飴」は好調

 まず、カンロの最新の業績から聞いてみた。同社は2月10日に2020年度(2020年12月期)の決算発表を行った。

「2020年12月期の業績は、売上高233億2100万円で、前年比3%減となりました。特に生活様式の変容により、オフィスの喫食需要が減りました。流通チャネルで見ると、CVS(コンビニエンスストア)が大きく影響を受けています。当社も例外ではなく、『飴』(ハードキャンディ)事業はCVSでの売上減少などにより、前年同月比7.4%ダウン(出荷ベース)となりました。

 一方、『カンロ飴』はレシピサイト『カンロ飴食堂』が消費者の在宅需要に合い、メディアに取り上げられたこともあって売り上げが増加しています。ただし、CVSでの構成比率が高い商品に関しては、売り上げ減少となりました」

 カンロの坂東美紀氏(カンロ飴・金のミルクブランド室室長)は、こう説明する。「売り上げは減少したが、新たな施策が注目を浴びた」ということか。

 説明のなかでも触れていたカンロ飴食堂とは、ウェブ上に展開する“食堂”で、世話好きで料理上手な女将がやっているという設定だ。カンロ飴を使った「炊き込みご飯」「肉じゃが」などのレシピが紹介されている。

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「カンロ飴食堂」の料理例

菓子や飲料を「調理に応用」する消費者

「2020年4月にスタートしたカンロ飴食堂は、『料理に使う』という新しい切り口により、楽しさや新鮮さを感じてもらうと同時に、料理を美味しくできる理由としてカンロ飴の特徴を理解してもらいやすいという利点がありました。

 その利点とは、醤油を使った飴であること。台所にあるような素材だけでできていること。飴にする過程において高温で加熱するため、特有の香りやおいしさが生まれていること。水飴により料理に照りが生まれやすいこと、などです」(坂東氏)

 発想の着眼はユニークだが2020年、“製品を調理方法に使う”訴求は、実はほかにもあった。別の飲料メーカーを取材した際も「消費者が、当社の野菜飲料を温めてスープにしたり、カレールーの味付けに使われたりするケースが目立った」と話していたのだ。

 共通するのは「簡単・便利」と「安心感」だ。原材料が砂糖・水飴・しょうゆ・食塩でできているカンロ飴なら、材料を計って調合する手間が省ける。野菜飲料の場合は「コロナ禍で生野菜よりも(製品のほうが)衛生面で安心と思う人もいる」と聞いた。

 ただし、消費者が一時的な興味で飛びついたのか、新たな料理レシピに取り入れたいのか、という判断はもう少し時間が必要だろう。カンロも検証を行っているようだ。

「ロングセラーゆえ喫食経験率は高く、カンロ飴食堂の紹介を見て『久しぶりに食べてみたい』というユーザーが多かったほか、初めて食べるユーザーからは『これはみたらしだんごの味だ』という声も寄せられました。

 一方で、実際に調理でチャレンジした際に『飴が溶けにくかった』などの声も多くいただいたので、今後はより簡単に調理できるレシピなどを取りそろえていく予定です」(同)

「ロングセラーの再活性化」として広がるか

 カンロ飴が発売されたのは1955年で、57年には東京での販売を開始。60年代から70年代にかけて、“飴玉”の代表商品となった。だが近年、若い世代への訴求は道半ばで、中高年が支持する「懐かしい飴」という存在だった。「ロングセラーブランドは、消費者と一緒に歳をとる」とも言われる。

「カンロ飴もそうです。2016年頃からユーザー高齢化に伴う売り上げ苦戦が続いていました。社名商品であるカンロ飴の再起のため『カンロ飴再生委員会』を発足し、18年のリニューアルでデザイン変更や、調味料を使わない素材を活かした配合に変更しましたが、大きな変化にはつなげられませんでした。課題は若い人を含めた新たなユーザーに注目してもらうこと。ウェブで展開したカンロ飴食堂は、一定の効果があったと思います」(同)

 一方で最近、ロングセラーブランドを若い世代が「好意的にイジってくれる」現象もある。

 たとえば、数年前「三ツ矢サイダー 無駄にカッコよく撮る選手権」というのがSNS上で行われ、盛り上がった。人気インスタグラマー・声優の福山あさき(あさ姉)さん(1995年生まれ)が始めた活動のようで、太陽の光に「三ツ矢サイダー」をかざして撮ったりした。

 これはメーカーであるアサヒ飲料が関与しなかった、ユーザー起点で始まった活動だ。カンロ飴でもこうした流れがあれば、より関心が高まるだろう。

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現在の「カンロ飴」の商品ラインナップ

飴が持つ「機能的」「情緒的」な価値

 カンロ飴食堂は、ある意味では変化球の訴求だ。直球としてはどう考えているのか。

「まず『機能的価値』として、飴は糖でできているため効率的にエネルギー補給ができる利点があります。『糖』は脳の主要なエネルギー源であり、勉強や仕事の時にも最適です。また、飴は食べる際の手間がかからないので、何かをしながら喫食できる利点もあります」(同)

 最近の消費者の喫食シーンで多い「ながら食べ」。特に目立つのが「スマホをいじりながら」で、菓子やアイスクリームなどの嗜好品では思い当たる人もいるだろう。

「また『情緒的価値』として、飴は気分転換やイライラしたときに喫食される機会が多いのですが、ゆっくり舐めながら食べるという特徴やその甘さにより、気持ちを落ち着かせる、リフレッシュさせる、といった特徴があります。カンロ飴は、醤油を使った“甘じょっぱい味わい”が特徴で、『懐かしさ』『やさしさ』を感じる方が多いようです」(同)

 現在のカンロがコーポレートビジョンに掲げるのが「糖から未来をつくる」。健康志向が進むなか、「肥満の原因」などと思われがちな「糖」のイメージ回復もめざす。

「近年は糖に対するネガティブな側面が目立ちますが、糖には脳の主要な栄養源になるなど良い面が数多くあります。キャンディの専門家として糖と向き合ってきた企業として正しい知識を消費者の方々に伝え、糖に対して理解ある環境をつくりたいと考えています」(同)

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「カンロ飴」の原材料は砂糖・水飴・しょうゆ・食塩のみ。着色料不使用も掲げる。

コロナ禍で「ノスタルジー消費」が続くか

 カンロは「グミ」にも注力するが、まだまだ主力は飴だ。だがコロナ禍で2020年1~12月の飴市場全体は723億円(前年比7.0%減)、グミ市場は392億円(同7.4%減)と落ち込んだ(インテージSRI組成別市場、2020年1月~12月販売金額)。大都市圏で緊急事態宣言が続く現在、急回復の兆しは見えてこない。

 だが、もう少し引いて考えたい。「なぜ日本の消費者は飴を好むのか」という視点だ。

「菓子のなかでも飴の歴史は長く、江戸時代には庶民でも手の届く存在になったといわれています。明治以降も今日に至るまで、日本人の味覚や心理を捉えた商品として進化を続けたことが、今なお日本人に愛されているのではないでしょうか」(同)

 コロナ禍となって1年。巣ごもりが続くなかで目立つのが「ノスタルジー消費」ともいうべき現象だ。たとえば、都市部の住宅街でキャッチボールをする親子の姿、夏にビニールプールで遊ぶ幼児の姿は、久しぶりに何度も目にした。デジタルだけでなくアナログのボードゲームにも支持が集まっているという。

 スローな機運は、少しずつ溶かす飴にも追い風だ。以前のような商品発表会やキャンペーン活動がしにくいご時世だが、消費者の“琴線に触れる”訴求を考えるチャンスといえるだろう。
(文=高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント)

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

高井尚之/経済ジャーナリスト・経営コンサルタント

学生時代から在京スポーツ紙に連載を始める。卒業後、(株)日本実業出版社の編集者、花王(株)情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。出版社とメーカーでの組織人経験を生かし、大企業・中小企業の経営者や幹部の取材をし続ける。足で稼いだ企業事例の分析は、講演・セミナーでも好評を博す。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。これ以外に『なぜ、コメダ珈琲店はいつも行列なのか?』(同)、『「解」は己の中にあり』(講談社)など、著書多数。

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