限界コストが劇的に低下している
再生可能エネについては、以前は天候不順時に発電量が足りなくなることが危惧されたが、今となってはその心配はほとんどないというのが専門家の一致した見方である。その理由は、再生可能エネのコストが劇的に下がっており、余剰電力が発生するくらいまで大量に発電所を建設すれば、天候不順時でも需要を満たすことが可能だからである。
政府は以前、再生可能エネのコストについてかなり高くなるという試算を行っていたが、それも過去の話である。経済産業省と関連団体は「洋上風力産業ビジョン」を策定しており、その中で洋上風力発電のコストを1キロワット時あたり8~9円にするという目標を設定したが、この金額は既存の火力発電(約10円)よりも安い水準である。
海外ではすでに1キロワット時あたり5円程度の発電コストを実現するプロジェクトも出てきており、今後、さらに価格が下がる可能性もある。
生産を1単位増やすために必要な追加コストのことを経済学的には限界コストと呼ぶが、市場規模が拡大すると規模のメリットが発揮されるので、限界コストが劇的に下がっていく。天候不順による出力低下が懸念されるのであれば、低コストを生かして大量に発電プラントを作ってしまえばよく、経済的には十分にお釣りが来る。
しかも発生した余剰電力はムダに捨てられるわけではない。欧州では、風量発電所から生じる大量の余剰電力対策として水素の活用が急浮上している。水素は石油や原子力などに代表される1次エネルギーではなく、あくまで1次エネルギーを使って生み出される2次エネルギーでしかない。つまり水素は単なるエネルギーの輸送手段であって、水素そのものが脱炭素問題を解決するわけではない。火力発電を使って生み出した電力で水素を生産してしまえば、水素の生産過程で大量の二酸化炭素を排出するので脱炭素にはまったく効果を発揮しないことになる。
だが再生可能エネで作られた電力で水素を生産すれば話は変わってくる。
脱炭素に積極的な国では、水素の活用は完全に再生可能エネの余剰電力対策として位置付けられており、過剰になった再生可能エネの電力で水素を生産し、万が一、エネルギーが不足した時に備え、生産した水素を火力発電に回せるようインフラの整備を進めている。
残念ながら日本ではこうした再生可能エネに関するグランドデザインが出来ていない。とりあえず風力発電を大量建設するという段階であり、水素に至ってはどこからいくらで調達をするのかを十分に検討せずに、単純にインフラ建設の話ばかりしている状況だ。できるだけ早く全体の整合性がとれる形で基本戦略を固める必要があるだろう。