早く決断しないと確実に乗り遅れる
各企業における個別対応についても同様である。日本は製造業(工場等)の分野において年間約2億9000万トンの二酸化炭素を排出しているが、仮にこの排出量をすべてコストと位置付け、排出権を購入することで金銭的に解決した場合、必要となる支出は、現在の排出権取引価格(1トンあたり約4800円)を適用すると年間1.4兆円にも達する。
この支出について単なるコストと考えると、日本経済には甚大な影響が及ぶ。2020年3月期における日本の製造業全体の営業利益はわずか14兆円であり、1.4兆円がコストとして消える場合には、営業利益の1割が吹き飛んでしまう。これは製造業のみに焦点を当てた数字だが、日本全体では約6兆円のコストが発生する計算である。
この巨額コストはコストとして扱わず、すべてを脱炭素を実現するための投資に切り換えれば、これは設備投資という扱いになり、今後の成長を担保する支出となる。どう考えても、脱炭素をコストとして処理せず、戦略的な投資として位置付けたほうが、日本経済全体にとって圧倒的にメリットが大きいはずだ。
ちなみに欧州や米国、中国は脱炭素関連の支出を戦略投資として位置付け、関連技術への投資に邁進している。欧州連合(EU)は10年間で1兆ユーロ(約126兆円)、米バイデン政権に至っては4年間で2兆ドル(約200兆円)という巨額資金である。中国も脱炭素を含む次世代インフラに170兆円を投じる計画を明らかにした。
国際エネルギー機関の報告書を元に筆者が試算したところによると、全世界の脱炭素投資(再生可能エネへの投資と省エネ関連技術への投資)の総額は約6600億ドルとなっているが、もしEUや米国、中国の関連投資が追加で実施された場合には、この水準をはるかに上回り、脱炭素への投資額はほぼ倍増となる。
当然のことながら、これは巨額の景気対策でもあり、あらゆる業界にとって巨額マネーの争奪戦となっている。日本は脱炭素について外圧と考えるのではなく、失われた30年を取り戻す最後のチャンスと捉えるべきであり、思い切った先行投資が必要である。
(文=加谷珪一/経済評論家)