
最近、同性婚を巡る報道がいくつかあったので、今回はこの問題について考えてみたい。
私自身が心を揺さぶられたのは、同性婚を求める「結婚の自由をすべての人に」訴訟原告の佐藤郁夫さんの死に関するニュースである。
放置されたままの不利益
報道によれば、佐藤さんは1月4日に脳出血で倒れて入院し、意識が回復することなく、同月18日に亡くなった。享年61。代理人弁護士によると、入院先の病院で、同性パートナーに対して医師は「親族でなければダメだ」と病状説明を拒否し、別室から佐藤さんの妹に電話をかけた、とのことだ。
「結婚の自由」訴訟で行われた意見陳述に基づくと、佐藤さんと7歳下のパートナーは、約17年間同居していた。2019年1月には、地元の区役所に婚姻届も提出。区役所の職員は「不受理になると思います」と言う一方で、結婚記念カードを発行してくれた、という。
佐藤さんはこの陳述書のなかでも、一方が病気で意識不明になった時の病院の対応について案じていた。それが現実のものとなってしまった。
陳述書ではさらに、こう述べている。
「天国に逝くのは私の方が先だろうと思っていますが、最期の時は、お互いに夫夫となったパートナーの手を握って、『ありがとう。幸せだった。』と感謝をして天国に向かいたいのです」
妹がよい理解者だったためだろう、パートナーは一緒に最期を看取ることができたようだが、そういう媒介者がいなければ、最期に立ち会うこともできなかったかもしれない。
婚姻という法的な裏付けが得られないために、17年も共に暮らした家族が病気で倒れるという非常時に、病院から家族として扱ってもらえない。これは、あまりにも非人情な仕組みではないか。
国が無策を続けている間に、自治体ではさまざまな取り組みが始まっている。
2015年以降、同性カップルに対して婚姻同等と認めて独自の証明書を発行するパートナーシップ制度を始める自治体も、少しずつ増えてきている。今年4月からは、東京都足立区が新たに「足立区パートナーシップ・ファミリーシップ宣誓制度」を始める。
全国に先駆けてパートナーシップ制度を導入した東京都世田谷区は、新型コロナウイルスで死亡した人の遺族が国民健康保険の「傷病手当」を受け取れる特例措置を、同性パートナーの遺族も対象とする独自の制度を作った。
ただ、制度を導入している自治体数は、いまだ全自治体の5%にも達していない。同性カップルが置かれた環境は、住んでいる地域によって格差があまりに大きい。そのうえ自治体によって条件の違いがあり、一方が死亡しても法定相続人にはなれない、遺族年金が受け取れない、などの不利益がある、という。