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片田珠美「精神科女医のたわごと」

碇容疑者、なぜママ友に“支配”され、わが子を餓死させた?夫の嘘の浮気を信じ込まされ離婚

文=片田珠美/精神科医
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「Getty Images」より

 福岡県篠栗(ささぐり)町のマンションで昨年4月、当時5歳の男児に十分な食事を与えず栄養失調状態にしたうえ、病院に連れて行くなど適切な治療を受けさせないまま餓死させたとして、母親の碇(いかり)利恵容疑者が保護責任者遺棄致死容疑で逮捕された。

 驚くのは、母親の知人の赤堀恵美子容疑者も同じ容疑で逮捕されたことだ。福岡県警によれば、両容疑者は2016年4月、幼稚園の「ママ友」として知り合い、当時碇容疑者は結婚していたが、その後離婚し、シングルマザーとして餓死した男児を含む子ども3人を育てていたという。

 碇容疑者は、赤堀容疑者に信頼を寄せ、次第にその指示通りに行動するようになったようで、生活保護費や児童手当など月20万円前後の収入があったが、「元夫の浮気調査費」などの名目で、貯金も含め1000万円超を赤堀容疑者に渡していたという。そのため、赤堀容疑者は碇容疑者から現金や預金通帳をだまし取ったなどとして、詐欺や窃盗の疑いで逮捕、起訴されている。

 ちなみに、浮気や調査の事実はなかったらしいので、赤堀容疑者が碇容疑者に元夫の浮気について根も葉もない話を吹き込み、離婚するように仕向けた可能性も考えられる。碇容疑者が結婚したままだと、元夫から「そんなママ友とつき合うのはやめておけ」と助言されるかもしれないが、離婚して孤立した状態になれば、赤堀容疑者の支配を受けやすくなるからである。

 それにしても、なぜ碇容疑者は赤堀容疑者の話を真に受けて信頼し、その指示通りに行動するようになったのか? 赤堀容疑者の支配下に置かれ、金銭まで渡すようにもなったのは一体なぜなのか?

赤堀容疑者は「マニピュレーター(manipulator)」の可能性

 もしかしたら、赤堀容疑者は他人を操って支配する「マニピュレーター(manipulator)」かもしれない。「マニピュレーター」とは、文字通り「マニピュレート(manipulate)」する人であり、他人を思い通りに操ろうとする。

 厄介なことに、「マニピュレーター」は、うわべはいい人である場合が少なくない。赤堀容疑者も、外面はよかったからこそ、碇容疑者からの信頼を得ることに成功したのではないか。しかも、「マニピュレーター」は他人の不安や弱みを操ることにかけては達人であり、その正体を見抜くのは至難の業だ。

 もっとも、「マニピュレーター」の言いなりになるような支配-被支配の関係は、支配する側だけの要因で成立するわけではなく、双方の要因が密接にからみ合った結果である。それぞれの側の要因を挙げておこう。

支配する側の要因

1)相手が意識していない弱点をつくのが巧み

誰でも多かれ少なかれ弱点を抱えているものだが、「マニピュレーター」はどれが負い目を引き出すボタンか心得ており、それを巧みにつく。

2)不安や恐怖をかき立てるのが得意

 赤堀容疑者は、家の中に監視カメラを設置し、共通の知人が見張っているなどと碇容疑者に信じこませ、「監視してるから(子どもに)食べさせ過ぎてはいけない」などと言っていたようだが、不安や恐怖をかき立てて支配しようとするのは、「マニピュレーター」の常套手段である。2012年10月に兵庫県尼崎市で発覚した連続殺人死体遺棄事件の主犯格とされる角田美代子(後に自殺)も、恐怖で被害者を支配していたようだ。

3)罪悪感を覚えることを徹底的に拒否

「平気でうそをつく人」と共通するのだが、相手をだましても、傷つけても、自分が悪いとは決して思わない。つまり、罪悪感を覚えないわけで、「自分の罪悪感と自分の意志とが衝突したときには、敗退するのは罪悪感であり、勝ちを占めるのが自分の意志である」(『平気でうそをつく人たち』)。

支配される側の要因

1)自分が攻撃されていることに気づけない

 何をされても、「自分のためを思ってやってくれている」と思いこみ、相手に悪意があるのではないかと疑おうとしない。そのため、操作されて自分が壊れつつあることに気づけない。

2)自ら考えて決めるのが苦手、あるいは責任を伴う判断を下したくない

 自分で考えて決めるのも判断するのも、必ず何らかの責任を伴う。それを避けようとするあまり、支配する側がすべてを決めて支配し、自分はそれに従うだけでいい関係を心地いいと感じる。

3)「問題があるのは自分のほう」と思いこみやすい

「マニピュレーター」に問題を指摘されると、自分に問題があるのではないかと思いこんでしまう。つまり、罪悪感を覚えやすいわけで、罪悪感を抱くことを徹底的に拒否し、他の誰かに押しつけたい「マニピュレーター」からすれば、いいカモである。

「マニピュレーター」は、どこにでもいる。しかも、相手を一段劣った立場にとどめておいて支配することに大きな快感を覚えるので、1度成功すればエスカレートする。

 職場の上司や同僚、友人や恋人、あるいは家族の中にも「マニピュレーター」が潜んでいる可能性は十分考えられる。おまけに、詐欺と同様に、自分は大丈夫と思っている人ほど被害者になりやすい。皆さんも十分気をつけてください。

(文=片田珠美/精神科医)

参考文献

片田珠美『他人を攻撃せずにはいられない人』PHP新書、2013年

M・スコット・ペック『平気でうそをつく人たち』森英明訳、草思社、1996年

ジョージ・サイモン『他人を支配したがる人たち』秋山勝訳、 草思社文庫、2014年

片田珠美/精神科医

片田珠美/精神科医

広島県生まれ。精神科医。大阪大学医学部卒業。京都大学大学院人間・環境学研究科博士課程修了。人間・環境学博士(京都大学)。フランス政府給費留学生としてパリ第8大学精神分析学部でラカン派の精神分析を学ぶ。DEA(専門研究課程修了証書)取得。パリ第8大学博士課程中退。京都大学非常勤講師(2003年度~2016年度)。精神科医として臨床に携わり、臨床経験にもとづいて、犯罪心理や心の病の構造を分析。社会問題にも目を向け、社会の根底に潜む構造的な問題を精神分析学的視点から分析。

Twitter:@tamamineko

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