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「俺たちはPR素材」…安倍前首相“復興五輪のための復興”発言、被災地住民から冷めた声

文=菅谷仁/編集部
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 東北六魂祭は民主党政権時の2011年7月、東日本大震災からの復興と犠牲者の鎮魂を祈って津波被災地である仙台市で始まった。東北6県の県都である仙台市、盛岡市、福島市、秋田市、青森市、山形市の市長らでつくる実行委員会が主催し、全国的に有名な6市の「仙台七夕まつり」「秋田竿灯まつり」「盛岡さんさ踊り」「青森ねぶた祭」「山形花笠まつり」「福島わらじ祭り」を一堂に会して披露するという趣旨のもので、運営は電通パブリックリレーションズが担った。

 以降、2016年6月まで毎年各県都で開催され、2017年からは「東北絆まつり」に名称が変わった。会場では前出の女性が話す被災地の祭りや伝統芸能も小規模に披露されてはいたが、決してイベントのメーンという位置づけではなかった。

 人出は第1回の仙台市が37万人(主催者発表、以下同)、盛岡市が24万人、福島市25 万人、山形市26万人、秋田市26万人、青森市17万人。いずれも全国各地から多くの見物客が訪れ、観光・宿泊業を中心に地元経済界を潤し、東北の復興の推進力になったのは事実だろう。

 一方、東北6県の県都は震災で少なくない損害を被ったが、津波被害を受けたのは仙台市のみ、原発事故の特定避難勧奨地点が設定されたのは福島市のみで、実質的な「被災地」というわけではなかった。

「五輪のために」復興は進んできたのか?

 津波で市街地の半分が浸水し、町長を含む町全人口の約8%に当たる1286人(関連死含む)が亡くなった岩手県大槌町の30代水産業男性は語る。

「なんていうか進め方が同じだよね。六魂祭と復興五輪って。電通さんがやっているからなんだろうけれど。被災地復興を看板にしてもらうのは結構だけど、要は俺らを『復興しました』というPRの素材にするから、『とにかく早く復興しろよ』ということでしょう?

 地元の役所の人間たちは、政府や電通さんから震災10年以降の復興財源を押さえられていて、ぎゃーぎゃー言われているから、最近になって『復興五輪成功のために』とかいうスローガンを掲げ始めているようだけど、正直、ピンとこないんだよね。そもそも、『俺たちのために東京でオリンピックを開いてください』なんて政府にお願いした記憶はないんだよな。

 少なくとも俺は『復興した姿を皆さんに見ていただく五輪にしたい』なんて考えたことはないし、そのために地元の復興が進んできたわけじゃないと思うけどね。そんな大層なことを考える余裕はこの10年間なかったし、この町で次の世代も、その次の世代もまっとうに食っていけるようにがんばっているだけ。それだけ」

 毎日新聞インターネット版は1日、記事『五輪開催「復興の後押しにならない」61% 被災3県・世論調査』を公開した。同記事では「『復興五輪』を掲げた東京オリンピック・パラリンピックの開催が『復興の後押しにはならない』と答えた人が61%に達し、『後押しになる』の24%を大きく上回った」と報じ、被災地庶民の五輪への期待感の薄さが浮き彫りになった。

 一方、東北6県のブロック紙河北新報オンラインニュース(仙台市)が同日公開した記事『被災3県42首長アンケート 「復興度90%以上」6割 福島は「70%以下」が過半数』では、「今夏の東京五輪・パラリンピックが掲げる『復興五輪』の理念が『明確である』と評価する首長は48%(20人)で約半数に上った。前年の調査から10ポイント(4人)増」と分析されていた。自治体の首長レベルでは復興五輪への理解が進んでいるように見える。

 いずれにせよ政府、被災自治体、住民の間で東京五輪に対する見方に隔たりがあるのは明らかだ。震災復興はそもそも誰のために行われるものなのか。今一度、考える必要がある。

(文=菅谷仁/編集部)

●菅谷仁/Business Journal編集部 

 神奈川新聞経済部記者、創出版・月刊『創』編集部員、河北新報報道部・東日本大震災取材班記者を経て現職。

 

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