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藤和彦「日本と世界の先を読む」

数十年後、欧州の平均気温4度低下の可能性…異常気象多発と大西洋南北熱塩循環の変化

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
数十年後、欧州の平均気温4度低下の可能性…異常気象多発と大西洋南北熱塩循環の変化の画像1
「Getty Images」より

 今年の冬の北半球では、例年以上に寒波が襲来した。年明けの日本では北海道や本州の日本海側が猛吹雪となったが、世界の注目を集めたのは2月中旬に米国テキサス州を襲った大寒波である。記録的な寒波に電力供給が間に合わず、テキサス州では400万世帯以上が停電となった。

 世界気象機関が今年1月、「2020年の世界の平均気温は16年と並び観測史上最高となった」ことを明らかにしたように、21世紀に入り、地球温暖化の勢いが加速しているといわれている。

 今年の冬の大寒波の襲来だけを根拠にして「地球温暖化は嘘だ」と主張するつもりはないが、なぜ近年異常気象が多発しているのだろうか。

 2月下旬に気になる研究結果が明らかになった。ドイツ・ポツダム気候影響研究所のチームが2月25日、「大西洋南北熱塩循環がここ数十年で最も弱い状態になっている」とする内容の論文を公表した。研究チームが注目している「大西洋南北熱塩循環」とは、赤道から北極に向かうにつれて冷却され、高緯度のグリーンランド海などで沈み込んで、その後、深海底をゆっくり南へと逆戻りする大規模な海流システムのことである。循環のサイクルは約1000年、大西洋南北熱塩循環が運ぶ流量はアマゾン川100本分に匹敵するといわれている。大西洋南北熱塩循環により大量の熱が運ばれていることから、緯度が高いのにもかかわらず、欧州地域の気候は暖かいのである。

 しかし、大西洋南北熱塩循環が、小氷期が終わった1850年以降、150年間にわたり徐々に弱まっており、近年そのスピードが増している。2018年に発表された研究によれば、現在の大西洋南北熱塩循環の動きは少なくとも過去1600年間で最も弱まっているという。デンマーク・コペンハーゲン大学のチームは3月2日「大西洋南北熱塩循環が、近年加速化している融氷現象のせいで崩壊する恐れがある」と警告を発した。

 大西洋南北熱塩循環の勢いは海水の塩分濃度に影響を受ける。塩分濃度が高いと海水は容易に沈み込むが、塩分濃度が低下すると沈み込みの力が弱くなるからである。国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は2019年4月、「現在のグリーンランドの氷床は40年前の6倍の速さで溶けている」と推定結果を発表しているが、氷河が溶けることによりもたらされる大量の真水が、グリーンランド周辺の海水の塩分濃度を下げている。

大西洋南北熱塩循環の中断

 大西洋南北熱塩循環の動きが弱まり続けると世界の気候はどうなってしまうのだろうか。コペンハーゲン大学の研究チームは「これがもし事実だとすれば、人類が安全に活動できる地域が減少してしまう」と警鐘を鳴らしている。地域別に見てみると、欧州や北米地域は、冬はより厳しくなるが、その反対に夏の数カ月間は異常に暑くなる。赤道周辺ではより強力な台風やハリケーンなどが発生し、南アジアやアフリカ地域では夏の降水量の著しい減少が起きるという。

 大西洋南北熱塩循環の動きを解明した米国の海洋科学者であるブロッカー氏は、次のように分析している。

「約2万年前まで続いた最後の氷河期の時代には、海水の塩分が薄くなったために大西洋南北熱塩循環がしばしば停止し、欧州地域が寒冷化したことが当時の氷の記録などからわかっている。塩分を薄めた犯人は陸地から流入した大量の真水だった。真水はカナダにあった膨大な氷河が溶けてできたものであることが突き止められた。大西洋南北熱塩循環の中断はわずか10年程度の出来事だったらしいが、気候変動はカナダ周辺にとどまらず、地球の至る所で同時に進行していた」

 04年に米国で製作された映画『デイ・アフター・トゥモロー』に描かれた世界が現実のものになってしまうのだろうか。この映画は地球温暖化によって突然訪れた氷河期に混乱するというストーリーだが、ベースには大西洋南北熱塩循環という科学的事実を据えている。

「海洋観測の結果から北大西洋の水温や塩分が低下した」という現象を見つけた主人公の気候学者が、過去の記録に基づいて「こういう現象が起こり始めると大規模な気候変動が起きる」と警告を発するが、周囲は彼のことを相手にしないというイントロから始まっている。ネタを10倍、いや、100倍に誇張しないと映画にならないからだろうか、映画では大規模な気候変動が6~8週間のスパンで生じ、大きな竜巻や高波が起きるなど大規模な気象災害がたて続けに起こり、嵐が過ぎ去ったあとの地球は氷河期になってしまうという極端な展開となっている。

 寒冷化による竜巻や高波の発生は論外だとしても、大規模な気候変動は最短で3年のスパンで起きる可能性は排除できない。05年11月30日付AFPは「映画ほどの急激さはないものの、映画と同じ理論に基づいて数十年後に欧州地域の平均気温が4度低下する恐れがある」と主張する科学者の見解を伝えている。

 気になるのは、ここ数年の間に「大西洋南北熱塩循環の中断」に関する科学者の危機意識が急速に高まっていることである。

 19年時点のIPCCは「大西洋南北熱塩循環の中断はほぼあり得ない」と結論づけていたが、前述したように欧州の研究チームの見解は「大いにありうる」である。何より心配なのは、温室効果ガスの排出量を著しく制限したとしても、北大西洋には大きな変化が訪れる可能性が高いということである。

 温室効果ガスの排出量削減のさらなる努力は不可欠であるが、これだけでは食い止められない気候変動に備えて抜本的な対策を講じることが、日本を始め世界にとって喫緊の課題になってきているのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

(参考文献)

『気候変動はなぜ起こるのか グレート・オーシャン・コンベヤーの発見』ウオ-レス・ブロッカー著

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー

1984年 通商産業省入省
1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)
1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)
1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)
2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)
2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)
2016年 経済産業研究所上席研究員
2021年 現職
独立行政法人 経済産業研究所

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