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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

津波で本社や工場が壊滅…かもめの玉子「さいとう製菓」、全社員160人の命を救った行動

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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災害時の行動を考え直す

 大船渡市役所のHPによると、市内の震度は6弱、建物被害は5592世帯、人的被害は死者340人、行方不明者79人(令和2年9月30日現在)という大惨事となりました。同社は本社と和菓子工場1棟、直営店5店舗に加えて、23人の社員の自宅が津波で流されてしまいましたが、160人の社員全員は無事でした。

 なぜ全員が無事だったのでしょう。

「普段から決して特別な対策をしていたわけではありませんが、偶然にも、以前から予定していた避難訓練を前日の3月10日に行っていたのです。実は3月9日にも地震が発生し、避難警報が出されていて、本社と店舗を閉めて社員全員を帰らせていました。そこで“人命第一”の観点から、大きな地震があった時は、自宅へ帰るように決めていた経路を高台の避難場所に変更して、全社員に周知しました。自宅が流された社員が23人もいたことを思えば、避難経路を変更しなければ、被害に遭う社員がいたかもしれません。偶然とはいえ、避難訓練は、改めて災害時の行動を考え直すきっかけになっていたと思います」(齊藤会長)

 当日の気象庁の発表によると、地震発生からわずか8分後の2時54分、大船渡に津波の第一波が押し寄せました。

 大地震のショックと津波の危機感を抱えながら、車で避難するにせよ、業務を終了して8分以内に本社関係者全員が避難するのは容易ではありません。

「普段から緊急避難用品は備蓄していましたし、避難訓練の時に、誰が何を持ち出すか、担当者は誰かも決めて、全員に伝えていました。陸前高田の店舗スタッフは、なんとかレジのお金をわしづかみにして逃げましたが、沿岸に近い本社や裏にあった工場の社員は何も持ち出せず、着のみ着のまま逃げるだけで精一杯でした。命に直面する緊迫した状態とは、そういう事態に陥ることです。結局、被害に遭った本社や店舗は流されて何も残りませんでした。

 周囲の会社も避難用品の備蓄を怠っていなかったのですが、どこも大津波には太刀打ちできませんでした。耐震性能に優れた建物にオフィスを構えることは必須だと思います。10メートルを超える津波もありましたので、津波の心配のある地域は4階以上に備品を設置するなど、最悪のリスクを想定して保管場所を決めることです。同時に、災害が発生したら即座に避難用具を持ち出すことができるように、普段から訓練を行い、体に叩き込んでおく必要性があると痛感しています」(同)

 同社にとって3月は、盆・暮れに続く贈答時期で増産体制に入る時期です。余震も頻繁に発生し、ライフラインや場所によっては道路も寸断されている状態では、生産も物流もままなりません。お客様にしても「また地震が発生したら」「津波が来るかも」という恐怖が先に立ち、とてもお菓子を買う気持ちにならないものです。

 そこで、齊藤会長はある英断を下します。仙台、盛岡などの各店舗や物流拠点に在庫を確認したところ、「かもめの玉子」の在庫が全部で約30万個あることがわかったのです。

「恐怖で夜も熟睡できない方も多くいらっしゃいました。おいしさは安らぎにつながります。避難所で苦しい生活を送っている方々や不安を感じていらっしゃる皆様に『かもめの玉子』を食べて元気になっていただきたいという気持ちで、避難所や高齢者施設に3回に分けて、すべて無償配布をいたしました」(同)

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