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鬼塚眞子「目を背けてはいけないお金のはなし」

津波で本社や工場が壊滅…かもめの玉子「さいとう製菓」、全社員160人の命を救った行動

文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表
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 齊藤会長が陣頭指揮を執り、無償配布をしたのが13日でした。すでにガソリンの確保もままならない状態です。そこで一計を案じ、すべての営業車の燃料タンクからガソリンを抜き取り、1台のトラックに集約して、回りました。「生きていて本当に良かった。これを食べて元気を出してください。一緒にがんばりましょう」と声を掛けると、なかには涙を流して感謝する人もいたそうです。

 しかし、無償配布を金額に換算すると、総額約3,000万円にも及びます。すでに3億円以上の損失を出しています。少しでも元を取りたいと思わないのでしょうか。

「どうしたら売れるかとか、当社さえ良くなれば、それでいいとはまったく思いませんでした。当社を支えてくださったお客様に、少しでもご恩返しをさせていただくのは、今しかないという思いしかありませんでした」(同)

生産工場が残った

 そんな齊藤会長の思いは、しっかりと社員にも根付いていました。釜石で震災に遭った営業社員は、そこで足止めを食らいます。状況を見かねた社員はとっさの判断で、一人一人に声がけをしながら、車に積んでいた「かもめの玉子」をすべて配布したのです。

「のちに、釜石市長から感謝のお手紙が送られてきましたが、釜石市内は壊滅した町もあったほどで、携帯も通じず、その晩、大火災も発生し、どれだけ社員も不安だったかと思います。それでも、日頃のご恩返しをと、迷わず行動した。経営者としてこんなに誇りに思うことはありません。この社員には翌年のお正月に“あっぱれ賞”を授与しましたが、『あの状態なら、うちの社員なら全員同じことをしていたと思います』と話していました」(同)

 不幸中の幸いだったのは、「かもめの玉子」の生産工場が山間部に位置していたため、津波の被害を免れたことでした。

「この工場にしても地震の揺れによって床や壁などにひびが入ったり、天井が落ちたりしましたが、社員が全員無事だったことと、生産工場が残ったことは、その後の復興の力強い足掛かりとなりました」(同)

 3月23日、齊藤会長は社員全員を集め、今後についての計画を発表しました。

「そりゃ、みんな不安そうでしたよ。私は一人ひとりの目を見ながら、『みんなの給料はこれまで通り払うから、安心してほしい。大船渡で一番早い復活をして、地元の方に元気になっていただきましょう!』と元気よく話すと、社員の目がキラキラと輝きを取り戻して、表情が一変しました。『よし、この社員たちがいれば必ず復活できる』と確信しました」(同)

 しかし、そんな決意をあざけり笑うような事態が同社に待ち受けていたのです。

(文=鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表)

※中編へ続く

●鬼塚眞子/一般社団法人日本保険ジャーナリスト協会代表、一般社団法人介護相続コンシェルジュ協会代表

出版社勤務後、出産を機に専業主婦に。10年間のブランク後、保険会社のカスタマーサービス職員になるも、両足のケガを機に退職。保険業界紙の記者に転職。その後、保険ジャーナリスト・ファイナンシャルプランナーとして独立。両親の遠距離介護をきっかけに(社)介護相続コンシェルジュ協会を設立。企業の従業員の生活や人生にかかるセミナーや相談業務を担当。テレビ・ラジオ・新聞・雑誌などでも活躍。

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