■コロナショックの危機を乗り越えていくために必要なこと


――もう1つ本書で気になった部分があります。「おわりに」のところで成果は「シナリオ力」によって決まると書かれていました。リーダーはとくにこの力が必要だと思うのですが、「シナリオ力」を高めるためにはどのようなことをすればいいと思いますか?


松岡:シナリオ力とは、ゴールまでの道筋やマイルストーンを常にイメージできるかどうかの力ですね。もちろん、シナリオ通りに進むことはまずないですから、途中で変化を余儀なくされても、すぐにまたゴールまでの新しいシナリオを考えられるかどうかということで、その力です。


――これはリーダー層に求められる力ですか?


松岡:リーダーだけではありません。自分がやるべき仕事をやり遂げるためのシナリオなので、あらゆる人に必要です。


 人を巻き込まないとゴールにいけない場合には、どのタイミングで誰を巻き込むか、そしてどのように巻き込むかを、相手の気持ちを考えながら決めていきます。たとえば、人事部長や経営企画室長として会社の企業文化を変えようと考えたときに、まずはトップにその必要性をどう認識させどう巻き込むか、その下の現場マネージャーをどう巻き込むか、その一連の流れをイメージするんです。


 ただ、人の気持ちを考えずに「これやってください」だけだと、相手に当事者意識が芽生えませんから、うまくいきません。いかに相手に当事者意識を持ってもらいながら巻き込んでいくか、それができるかできないかで大きく違いますね。


――本書をどのような人に読んでほしいとお考えですか?


松岡:まずは経営者。これはトップだけではなく、役員幹部を含めた何らかの形で会社や組織を運営している人たちと、それを目指している人たちです。そういう方々にとっては参考になるはずです。


 もう1つは人事の方々ですね。人事の方々は自分の仕事の役割を狭く考えているケースが多いのですが、実は広いんですよ。会社がうまくいくための雰囲気作りや企業文化を作って強い集団にするのも人事の大事な役割です。そういう方々にも参考になることが書かれています。


――では、最後になりますが、コロナショックは多くの企業にとって、リーマンショックを超える危機となっています。この危機を乗り越えるには、どのようなところがポイントとなりますか?


松岡:1つは、抽象度を上げて言いますと、危機は社員の本気度を今一度高める時だということです。自分たちの大事にしているもの、目指しているもの。この本で言うところの「社外規範」ですね。自分たちは世の中で何を成し遂げたいのか、どんな価値を残したいのか、そのために自分たちはどんな動き方をするのかというあたりを、もう一度全員で再認識することが重要です。


 では、そのためにどうすればいいのか。方法が3つあります。1つはすでに実績のある会社であれば、今までお客さんに喜ばれたこと、自分たちが成し遂げてきた価値があるはずですよね。その価値をもう一度思い出せるようにすることです。


 それには社内に向けてのアピールが大事で、社内報や会議でのトップのメッセージを最大限活かしましょう。そして、どの会社でもできることではありませんが、極端なことを言えばテレビCMを使って社員に伝えるという方法もります。日産はまさにそれをやったわけです。木村拓哉さんが登場する新しいCMシリーズの最初のものでは、今まで自分たちが世の中に出してきた価値を、テレビCMという形で顧客にも社員にも思い出させていたのだと思います。そういう仕掛けも必要なんです。


 2つめは「外からの声」を中に届ける工夫をすることです。顧客含めた外部からの良い評価を知ることで、自分たちの会社や仕事が社会の中で必要とされていることを再認識できるんです。存在価値があることを確信できたら頑張れますよね。自分たちが本気で取り組むべきことを、もう一回腹落ちさせることができる。


 飲食店なら、お店の中で食べてもらう業態からテイクアウトに変わったかもしれないけれど、根っこは一緒。美味しいものを食べて幸せになってほしいという、その意識を再認識してもらう、というような形です。


 3つめは、ヒーローづくりです。変化に対応するためには、「既存の仕事のやり方」から「新しい仕事のやり方」に変わらなければいけません。そこで新規事業などもそうですが、日常的なことでも「新しい仕事のやり方」を生み出した人にスポットライトを当てるのです。その良い動き方をしてくれた人をヒーローにすることが大事なのです。そうすると、多くの人がその人を真似て、新しいやり方を生み出すことに挑戦してくれますよね。その雰囲気作りが重要です。


 この3つを前提としたうえで、さらに大事なことが2つあります。まずは、仕事を硬直化させずに新しいアイデアを1人ひとりが生み出していけないといけません。商品開発にしても、事業を変えるにしてもです。そのためには、フランクに話し合える環境が必要です。つまり、心理的安全性が保たれたうえでのブレインストーミングができる会社かどうかがすごく重要です。ブレインストーミングという言葉自体は、何年も前から浸透していますが、実際にできている会社は少ないです。


 もう1つはそれぞれやると決めたとき、「自由」と「規律」をもってPDCAを回すことです。「自由」に意見を言い合える環境とともに、とにかくやらないといけない時には「規律」をもって全員が徹底的に取り組めるかどうかです。この5つがそろうと、大きな変化にも対応できると思います。


――なるほど。自分たちのすべきことを再認識し、自由と規律をもって変化に対応していく。


松岡:そうですね。リクルート事件で窮地に立たされたリクルートは、まさにそうやって危機を乗り越えていきました。社風や企業文化が違っていても、このやり方は共通すると思います。(了)


※本記事は、「新刊JP」より提供されたものです。

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