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松岡久蔵「空気を読んでる場合じゃない」~【絶望の自衛隊・3】

湯浅陸幕長、不祥事の揉み消し常態化…処分受けた隊員が昇進、自衛隊の統合運用を妨害

文=松岡久蔵/ジャーナリスト
湯浅陸幕長、不祥事の揉み消し常態化…処分受けた隊員が昇進、自衛隊の統合運用を妨害の画像1
湯浅悟郎陸上幕僚長(陸上自衛隊のHPより)

 防衛省は12日、今月26日付で、陸上自衛隊トップの湯浅悟郎陸上幕僚長が退官し、後任に吉田圭秀陸上総隊司令官を昇格させる幹部人事を発表した。筆者はこれまで、湯浅氏が陸自のパワハラ体質を象徴する人物と報じてきたが、防衛省上層部はさすがに危機感を強めたのか、「湯浅色が一掃された人事」(防衛省幹部)となった。退官間近となった湯浅氏だが、筆者の取材の結果、数々の不祥事を隠蔽してきた事実が明らかとなった。次の吉田体制で少しでも陸自の体質が改善されるよう、湯浅氏が現役の間に公表する。

筆者に届いたA4の2枚の告発状

 湯浅氏については、これまで本サイトで、日米共同訓練に不参加を決め込んだことや、予算要求に個人的な意向をさしはさみ防衛省上層部を激怒させ更迭が決定した経緯について報じてきた。そんな折、今月初旬に筆者の下に封筒に入ったA4の2枚の告発状が届いた。以下、適宜引用する。

陸上自衛隊、特に陸上幕僚長の横暴は、もう限界で目に余ります。(中略)私たちは、特に陸幕長案件で惨めな思いを強いられましたので、その真実をお話ししますので早く世論の力でなんとかしてください」

 全体として、誤字がみられるなど文面の粗さから告発者の切迫した様子が伝わってくる。

 最初に「将官級の高級幹部自衛官の再就職違法問題の当事者たちの処遇について」と書かれた箇所をご紹介しよう。

違法行為で処分を受けた自衛官がむしろ出世

 この問題は筆者がすでに報じたように、防衛省が昨年7月、将官級の高級幹部自衛官の再就職を違法にあっせんしたとして、陸幕の募集・援護課の職員らを停職などの懲戒処分にした際、湯浅氏が処分を受けた職員に「君たちは悪くない」とかばったというもの。これについて告発者は以下のように内情を吐露する(表記や表現的な誤りはママ)。

「違法問題において、陸募長は全く反省していない。その理由は、処分を受けた当時の久保募集・援護課長は、あろうことか陸将補へ昇任し、現在東千歳で第1高射特科団長と勤務

 さらに、当時直接援護を担当していた矢野援護班長も、豊川で駐屯地司令の第10特科連駅長と勤務

 現在も、高級幹部自衛官の援護は、 証拠を残さないように指示し継続

 これを見ても、陸上自衛隊が全く反省せず、むしろご褒美ではないですか」

 この久保、矢野両氏はそれぞれ、久保勝裕陸将補、矢野秀樹1等陸佐のことで、この告発通り、久保氏は北海道東千歳で第1高射特科団長矢野氏は昨年8月25日付で第10特科連隊長兼豊川駐屯地司令と、処分などなかったかのように順風満帆に出世コースを歩んでいる。湯浅氏のえこひいきが反映されたのは明らかで、公正な人事制度の原則を犯すものであることはいうまでもない。処分を受けても陸幕長の覚えがよければ出世できるのだから、違法行為を反省する気持ちなど芽生えるはずがない。

 湯浅氏がこういう状態だから、この「現在も、高級幹部自衛官の援護は、証拠を残さないように指示し継続」していると考えざるを得ない。「陸上自衛隊が全く反省せず、むしろご褒美ではないですか」という指摘は正しい。

前任ポストで部下の不祥事を放置、公益通報揉み消しでかばう

 さらに、この告発状が届いたのと同時期、筆者のツイッターのDMを通して情報提供が相次いだ。いずれも湯浅氏の西部方面総監時代(2017年8月~2019年3月)の不祥事揉み消しについてのもので、こちらも紹介しよう。

 一つ目は朝日新聞が昨年3月15日に記事化した湯浅氏指揮下の西部方面情報隊の隊長の50代男性の1等陸佐が公用車を私的に利用したり、部下にパワハラをしていた事案だ。以下、朝日新聞の記事から引用する。

「1佐は2018年8月、部隊がある健軍駐屯地(熊本市東区)を一般市民に公開する夏祭りの後、副隊長ら幹部2人と隊長専属公用車の四輪駆動車に乗って駐屯地を出発。約1キロ離れたスナックに向かい、飲食したという。公用車は出退勤にも使われるが飲食は業務ではなかった。

 駐屯地を公開する行事の後は、命令に基づき、各部隊が不審物などが残されていないか探索し、指揮官が安全を確認することになっている。だが1佐は当時、探索作業が終わるのを見届けずに駐屯地を出ていた。

 1佐は18年3月に隊長として着任。慣例で認められていないにもかかわらず、公用車の運転手の隊員に指示して下着のパンツやシャツを職場で洗濯させていたという。職場の机の上で乾いた下着を畳む運転手の姿が複数人から目撃されており、問題視した別の隊員の指摘で18年11月ごろ行為は止まった。

 陸自では、部下が指揮官の迷彩服を洗ったり、ブーツを磨いたりすることはあるが、下着の洗濯は慣例で認められていない」

 情報提供者の陸自関係者は筆者の取材に対し、「湯浅氏が朝日新聞にかぎつけられた途端に『調査中』と嘘をつき、問題提起した隊員を異動させ揉み消しを図った。問題となった1等陸佐は目黒へ異動し手当をたんまりもらいながら勤務している」と答えた。

 朝日新聞の取材に陸自は「調査を行っている段階」と答えており、人事情報からこの1等陸佐は姫田良明氏で、確かに昨年3月16日付で西部方面情報隊長から目黒の陸上自衛隊教育訓練研究本部勤務になっていることがわかる。報道されるほどのハラスメント行為を行っておきながら、懲戒処分もされず2年間の任期を全うできていること自体が異常である。この内情についてある陸自幹部はこう解説する。

「記事中にあるように、公用車の私的利用とハラスメントは姫田氏が18年3月に西部方面情報隊長に就任して1年も経たないうち、全て湯浅氏の総監在任中に行われたものです。現場では姫田氏の問題行為は明らかになっており、湯浅氏は当然知っていましたが、何も対応しませんでした。現場から幾度となく公益通報が上がりましたが、湯浅氏が姫田氏をかばい、全てもみ消しました。朝日新聞の記者から取材を受けた際も、湯浅氏が『調査中』と嘘をつき、すでに公益通報を受けて調査を始めていた体を装ったのです。大手メディアをむげにもできず、湯浅氏側が20年3月15日の姫田氏の離任日に合わせて報道するよう取引を持ち掛けたとされています。結局、姫田氏は現在まで懲戒処分されておらず、目黒で熱りが冷めるのを待っている状況です」

 この姫田氏が就任した目黒の陸上自衛隊教育訓練研究本部が「ハラスメント人材の掃きだめ」というのは陸自内では有名で、処分を受けるなどミソがついた人物の受け皿になっている。この情報提供者が言う通り、東京都勤務のため地方勤務よりは給与水準が高く、「本来若手の教育をするために一番重要な部署の一つであるべきだが、全くそうなっておらず、むしろ若手が幻滅し除隊するきっかけになっている」(先の陸自幹部)という。

不祥事揉み消し、部下を不定期異動の後で退職させ闇に葬る

 湯浅氏の西部方面総監時代の不祥事揉み消しはこれにとどまらない。複数の関係者によると、湯浅氏は、部隊長であった1佐の男性隊員が、部下の女性隊員を官舎に呼んで性交に及んだことを知り、18年に不定期で異動させていた。その後、この男性隊員は退官し、この件は闇に葬られた。

 女性隊員が男性隊員と同意のもとで性交に及んだとしても、隊の規律に関わる立派な不祥事だが、同意がなかった場合は大変な問題である。明らかなパワハラ、セクハラ事案であり、強制性交罪の適用事案となる。

 直近公表された自衛隊内での同様の事案としては、陸自の男性幹部自衛官が道東の矢臼別演習場での訓練中に女性隊員に性的暴行を加えたとして先月25日付で懲戒免職処分となった例がある。この際、被害女性側が上司に相談することで処分につながったわけだが、この男性隊員のケースでは被害女性が泣き寝入りする形で揉み消しが行われた可能性が極めて高い。

 被害者の二次被害を最優先に考えなければならないため、性犯罪事案は取り扱いが難しいのは仕方ないにしても、事案の理由・背景もろくに公表せずに闇から闇へ葬り去ろうとする姿勢は、組織の透明性の上で非常に問題がある。

 筆者の力不足で、この男性隊員が懲戒免職されたという情報提供の裏付けがとれなかったが、もし懲戒免職だった場合、処分自体は公表されているはずだ。これについて書かれた記事が皆無なのを考えると、少なくとも再発防止に向けた広報活動が行われたとは考えにくい。

 なお、この事案は当時の陸自内で大きな話題になったにもかかわらず、その後どうなったのかについては知る人が極端に少ないというのが筆者の印象だ。「この時期は湯浅氏にとっては陸幕長への昇格がかかった人事上、非常に重要な時期であり、このヤバすぎる不祥事が表ざたにならないよう揉み消しに走った」(当時の状況を知る陸自幹部)という疑いが濃厚だ。

湯浅氏、統合運用を妨害 コロナ感染防ぐ気はゼロ

 さて、冒頭の告発状に話を戻そう。湯浅氏が統合幕僚本部の指示に従わず、妨害している様が以下のように書かれている。

「統幕では統合運用の視点から様々な議論をし進めていますが、統幕の施策が少しでも陸上自衛隊に触れるとダメなのです。途中で1佐クラスの陸上自衛官が陸幕長や陸幕副長の部屋に呼ばれ、とことん指導され、挙句の果てには人事を盾に話をしていきます。(筆者注・先月の2月)19日には指揮通信システム部長が呼び出されて、長時間怒鳴られ (これはパワハラです)、そして統幕長が承認した資料を削除させました。

 現在も陸上幕僚監部のみは、陸幕長の意向で政務が一丸となっているテレワーク等の施策は一切せず、毎日出動し別の部屋や今まで通りの勤務を行い、各部長も分かっているが全く指導はしないのが実態です」

 これについても、資料の削除までの部分は関係者への取材で概ね事実と確認している。テレワークについては、一切していないということはないものの、導入には全く積極的ではなく、「湯浅氏を含めて陸幕上層部にコロナ感染を避ける意識がゼロ」(陸自中堅幹部)という。

大甘な懲戒処分の公表基準を改めよ

 ここまで湯浅氏の不祥事揉み消しについて具体的に見てきたが、酷いの一言である。湯浅氏の個人的な資質によるところが大きいにせよ、防衛省全体の隠蔽体質が本質であるように思われる。

 まず、懲戒処分の公表基準自体が甘すぎる。防衛省の懲戒処分の公表基準は、「被処分者の所属等、事案の概要、処分年月日及び処分量定に関する情報を、個人が識別されない内容のものとすることを基本として公表する」としているが、これでは再発防止の効果は非常に低い。「本人が特定されることで必要以上の不利益を与えないようにする」(防衛省関係者)ことを前提としているが、今回、久保氏、矢野氏、姫田氏にそんな寛大な配慮をする必要性はないと考え、追跡調査を可能にする目的から実名を公開した。違法行為や重度のハラスメント行為をした個人が、自衛官であるというだけで責任が軽くなるなど論外だろう。

 岸信夫防衛相を筆頭に懲戒処分の公開基準見直しや、ハラスメントなど不祥事を撲滅するよう、徹底していただきたいものだ。

 次期陸幕長の吉田圭秀陸上総隊司令官は東京大学卒で、1990年に防大1期生が陸幕長になって以降、31年ぶりの防大出身者以外のトップとなる。吉田氏については「米軍との関係も深く、今後の中国対応を考えれば適任」(防衛省関係者)との声も聞こえるなど、国際派として活躍するとともに、これまでの防⼤出⾝者の間で培われた悪しき伝統を断ち切ってくれることに期待したい。
(文=松岡久蔵/ジャーナリスト)

松岡久蔵/ジャーナリスト

松岡久蔵/ジャーナリスト

 記者クラブ問題や防衛、航空、自動車などを幅広くカバー。特技は相撲の猫じゃらし。現代ビジネスや⽂春オンライン、東洋経済オンラインなどにも寄稿している。
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Twitter:@kyuzo_matsuoka

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