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藤和彦「日本と世界の先を読む」

【コロナ】政府によるロックダウンや外出規制、実は「経済損失に影響なし」との研究報告

文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー
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 渡辺努・東京大学教授は「人々が感染を恐れて外出を抑制したことが需要減の真の原因である」と指摘しており、心理学の実験では、恐怖心の強弱と感染対策の行動(外出抑制やマスク着用など)との間には強い相関関係があるといわれている。

 人々は政府に命令されたから外出を控えているというよりも、自らが感染し重症化・死亡するリスクへの「恐れ」から自発的に外出を抑制しているというわけである。

 確かにこの1年、世の中にはコロナに関する悲観的な情報があふれていた。テレビに出演する専門家などは「怖くないから恐れるな」と言って後で大流行すると過去の発言を問題視されるので、大げさな発言をしがちである。見ているほうも最初は軽く受け流していても、悲観的なコメントばかり聞いていると恐怖心が醸成されてしまう。

 ホラー映画の巨匠であった故アルフレッド・ヒッチコックはかつて「恐怖は、銃声ではなく、銃声の予感に宿る」と語っていたが、恐怖は不確実性ではなく、不確実性の認識に宿るようだ。優秀な人間の頭脳は最悪の事態をシミュレートすることができるがゆえに、それがいきすぎると精神がやられてしまう。人はしばしば知性で「恐怖」を乗り越えようとするが、このような試みは実を結ばない場合が多いといわざるを得ない。

求められる「ゆっくり」のコンセプト

 自由な個人が「市場」で競争するのが経済学の世界観だが、知性の限界に起因する「恐怖」に打ち勝つためには、経済学が想定していない「何か」が必要である。

「混迷な時代は、ごく小さな人の集まりで前向きな会話ができることが力になる」。このように述べるのは『イドコロをつくる 乱世で正気を失わないための暮らし方』の著者・伊藤洋志氏である。伊藤氏が提唱する「イドコロ」とは、自分が居心地よく精神を回復させられる場である。近況をおしゃべりする友人から家族、趣味の集まりなどであり、複数あることが大事だという。序列ができやすいコミュニティーとは異なるものである。

「現代は、正気を保つのが難しい時代」だとする伊藤氏は、病原菌のように正気を失わせる異物(恐怖心など)に対抗するイドコロの総体を「思考の免疫系」と仮定しており、免疫物資と同じように著書の中にはたくさんの種類のイドコロが登場する。

シニア消費」の活性化という観点も重要である。「80歳代のひとり暮らしの母親が、新型コロナウイルスの感染拡大後、マスクを着用した店員の声が聞こえづらいなどの理由でスーパーへ行くことを嫌がるようになった。高齢者が焦らずに済むよう、急いでいない客専用のレジを設けたらどうか」とする娘の投稿に注目した坊美生子・ニッセイ基礎研究所准主任研究員は、「長寿化に適応できていない社会のひずみを突くような指摘である。高齢者、特に後期高齢者の特性に合わせて『ゆっくり』のコンセプトが求められているのはサービス全般にいえる」と主張する(2月22日付ニューズウィーク)。

 世界に冠たる超高齢社会である日本では、「効率」よりも「安全・安心」の価値を高くすることが「恐怖」に打ち勝つ最善の方策なのではないだろうか。

(文=藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー)

●藤和彦/経済産業研究所コンサルティングフェロー 

1984年 通商産業省入省

1991年 ドイツ留学(JETRO研修生)

1996年 警察庁へ出向(岩手県警警務部長)

1998年 石油公団へ出向(備蓄計画課長、総務課長)

2003年 内閣官房へ出向(内閣情報調査室内閣参事官、内閣情報分析官)

2011年 公益財団法人世界平和研究所へ出向(主任研究員)

2016年 経済産業研究所上席研究員

2021年 現職

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