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中曽根陽子の教育最前線

不登校18万人…理想を追うオルタナティブスクール・WING SCHOOLの挑戦

文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表
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 私も、修学旅行を生徒に企画させる学校をいくつか知っていますが、これこそ企画実行力を身につける絶好の機会です。しかし、多くの学校では、教師がお膳立てしたものに生徒が乗るだけ。「なぜなら、教師は、子どもに任せるのが怖いから」と言う田上さん。失敗を恐れる文化も根強いなと感じました。

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ペットボトルの筏の川下りプロジェクト
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自分たちが作ったものを学内外で販売するマルシェプロジェクト

WING SCHOOLの実践を公教育に還元していきたい

 現在は、いわゆるオルタナティブ教育という範疇に入るWING SCHOOLですが、目指しているのは学校法人化です。「我々は、オルタナティブスクールをやりたいわけではなく、ここでの実践を公教育に還元し、多くの子どもが通う公教育自体が豊かな畑になり、子ども達がその子らしく育つ場所になることを目指している。そうならないと子どもが救われません。

 オーガニックレストランも、最初はアトピーなど特別な事情がある人のために作られたが、やがて健康志向の人に広まっていった。そして、消費者マインドが変われば一般化します。学校も同じで、不登校で悩むのではなく、消費者である子どもたちが普通にほしい教育を選べるような流れをつくっていきたい」とその思いはもっと先にあるようです。

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手作りお弁当の日の練習で、自分達で給食を作ってみた

 不登校が18万人を超える日本。しかし、「不登校という言葉自体もおかしい」と田上さん。今、学校に行かないという選択をしている子どもたちが、フリースクールという受け皿に物足りず、オルタナティブスクールやN高校はじめ通信制の学校に流れ込んでいる。そして、そこで輝く親子が増えるなかで、その流れが最初は私学、そして公教育に還元されていくのではと考えているそうです。

 ただ、システムが変わっても教師のマインドやスキルが伴わないと絵に描いた餅になってしまいます。そのあたりについて田上さんは、教員養成課程と教員の配置システムを変えていく必要があるといいます。

 どういうことかというと、そもそもインターシップ期間が数週間しかないこと自体が問題で、授業の組み立て方や1年間の構成もわからないまま、闇雲に素人が現場に出ている状態がまかり通っているのが、今の教員養成システム。教員というのは、非常に専門性が高い職であるにもかかわらず、初任時はレシピ見ながら料理を作っているレベルで、しかもほかの先生の授業を見て学ぶ機会もほとんどありません。

「いきなり素人がコックになって、まずい料理が出されているのに生徒のほうが怒られるというおかしな状況になっているし、教員側も、わずか1年目で辞める教師が右肩上がりに増えている。これも、教員養成過程の組み立てがおかしいからだ」という田上さん。本来はプロとしてデビューする前にしっかりとした研修をして、多様なお客さんに合わせて料理を作れるレベルにしてから現場に出るべきなのです。

 また、いくら素晴らしい事例があってもそれが広がらないのは、校長は2~4年くらいで転勤があり、その校長が去れば元に戻ってしまうから。次期社長を育てないまま、まったく違う理念の経営者(校長)やってくるようなもので、現在の公教育の配置システムに問題があると指摘します。

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熊本市の教育委員会の職員が生徒たちに直接話を聞いた

同じ想いを持つ人とつながり、熊本市から日本中に緑の芽ネットワークを広げたい

 そんな田上さんのもう一つの夢は、保育園から大学までつくること。小学校の練習のための保育園や幼稚園ではなく、原体験をたっぷりやる幼児教育と学校をハブとして温かい地域をつくるコミュニティをつくりたい。そして、新しい教職過程を備えた大学もつくりたいと想いは止まりません。もちろん一人では実現できないだろうけれど、同じ想いを持つ緑の芽ネットワークが広がって、日本中に花が咲き、豊かな春が訪れるイメージを持っていると語ってくれました。

 実際、佐賀県鳥栖市にもWING SCHOOLをつくるプロジェクトが立ち上がっているようですし、地元熊本市は、文科省出身の遠藤洋路教育長のもと、公教育の改革にも力を入れていて、教育委員会の職員数名がWING SCHOOLを訪ねて子どもたちの話に耳を傾けるなど、良好な関係のなか、情報共有もされているそうなので、今後の熊本市の教育改革の取り組みも注目したいところです。

 多くのオルタナティブスクールが、公教育以外の立場の人によって運営されているのと比べて、WING SCHOOLは、公立中学の教員だった田上さんがつくったということ、現状の教科学習も否定せず取り入れていることなどが、教育委員会にも受け入れやすい理由ではないかと、インタビューを通して感じました。

 コロナ禍で、学校現場を預かる先生方も大変ですが、その一方で、教育改革の動きがさまざまな形で起きています。それらが共鳴しあい、大きく山が動いていくのも間近かもしれません。

(文=中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表)

●中曽根陽子/教育ジャーナリスト、マザークエスト代表  

教育機関の取材やインタビュー経験が豊富で、紙媒体からWEB連載まで幅広く執筆。子育て中の女性に寄り添う視点に定評があり、テレビやラジオなどでもコメントを求められることも多い。海外の教育視察も行い、偏差値主義の教育からクリエイティブな力を育てる探求型の学びへのシフトを提唱し、講演活動も精力的に行っている。また、人材育成のプロジェクトである子育てをハッピーにしたいと、母親のための発見と成長の場「マザークエスト」を立ち上げて活動中。『一歩先いく中学受験 成功したいなら「失敗力」を育てなさい』(晶文社)、『後悔しない中学受験』(晶文社出版)、『子どもがバケる学校を探せ! 中学校選びの新基準』(ダイヤモンド社)など著書多数。ビジネスジャーナルで「中曽根陽子の教育最前線」を連載中。

マザークエスト 中曽根陽子オフィシャルサイト

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