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「コロナ禍で一番危険な話題は風俗!?」「パパ活は話せるが、デリヘルは話せない」

コロナ禍で大手メディアが「風俗産業」と「フリー売春」の実態を伝えない理由

文=酒井あゆみ/ノンフィクション作家
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写真はイメージ

 一時、新型コロナウイルスに感染した人への差別や中傷が深刻な問題となり、文部科学省は子どもや教職員、地域住民に対し、差別につながる言動を行わないよう緊急のメッセージを発表した(2020年8月)。その他にも、看護師、ごみ収集・資源回収労働者、配送業者とコロナ感染を結びつける職業差別が問題になった。接待を伴う夜の街の飲食店(キャバクラやホストクラブなど)も同様だ。しかし、アンタッチャブルとでもいわんばかりに大手メディアが触れない職業がある。それは風俗業である。なぜか? その理由に、性産業に従事する女性たちを取材してきた作家の酒井あゆみ氏が迫った。

テレビで「コロナ禍における風俗業界」を報じるニュースを見たことがあるか?

 読者のみなさんは、コロナウイルスの蔓延で、さまざまな職業が差別されているという報道を目にしたことがあるだろう。もっともわかりやすい例が「水商売」の部類に入る業種だ。

 例えば、接待を伴う夜の街の飲食店、キャバクラやホストクラブはテレビで感染の元凶といわんばかりにイメージ映像を使ってさんざん喧伝されたあと、帳尻をあわせるかのように深刻な経営状況が報道された。しかし、風俗業界はどうだろう。あなたはコロナ禍における、風俗業界とそこで働く風俗嬢たちのニュースをテレビで見たことがあるだろうか?

 実は、SNSで飛び交っている風俗差別はひどいものだ。その言葉を取り上げること自体、つらいことだが、「今どき、お金を払ってわざわざ感染しに行くつもりか」「病気をうつされるだけ」のような、体を売って生きていかざるを得ない女たちのさまざまな事情に思いをはせることなく、また風俗業界と風俗嬢たちのコロナ感染対策を知ろうとすることもなく、匿名の人間たちが言葉の刃を突き刺してくるのだ。しかし不思議なことに、テレビがコロナ禍における風俗差別の実態を報道することはない。少なくとも、私は見たことがない。

コロナ禍のセックスワーカー問題は炎上する可能性が高い

 私は風俗業界を取材して30年近くになるが、コロナ蔓延でもっともひどい差別に苦しんでいる職業のひとつは風俗嬢だと断言できる。にもかかわらず、テレビは風俗業界の惨状や、職業差別に苦しむ風俗嬢の問題を報道しない。なぜなのか?

 それは、コロナ禍において風俗店に行くのは危険だと本音では思っているコメンテーターや報道制作者が、安易にそれを指摘した場合、社会が隠ぺいしてきたセックスワーカーのさまざまな問題を白日の下に晒さなければならなくなり、議論の収拾がつかなくなってしまう可能性があるからだ。それを怖れ、彼らは話題にすることを避けているのだろう、と私は思っている。

 例えば、セックスワーカーへの持続化給付金のごたごたひとつとってもそうだ。当初、「給付金の趣旨・目的に照らして適当でないと中小企業庁長官が判断する者」(は給付対象外)という規定に基づき、セックスワーカーに対する補償はないというのが大原則だった。しかし、結果的に当局は給付することに決めた。となると、もともと給付しないという判断が覆され、給付することになったのはなぜか、という問題に踏み込まざるをえなくなる。

 このようなセックスワーカーの繊細な問題に一つひとつ向き合うと、炎上する可能性が高くなるため、テレビに登場するコメンテーターや番組制作者はコロナと風俗を結びつけて語るのを避けているのだろう。つまり、彼らだって本当は心のなかで、風俗店は接待を伴う飲食店と同様、コロナ蔓延の震源地になっているというレッテル貼りをしているのだ。これは私の被害妄想だろうか。そうではないと思う。

 その証拠に、コロナパンデミック以降、風俗店が震源地のクラスター(感染者集団)はいまだ発表されていないにもかかわらず、店舗型、無店舗型を問わず、風俗店の電話はピタリと止み、閉店が相次いでいる。これが現実だ。そして、先ほど述べたように、SNSには風俗店や、風俗嬢などセックスワーカーへの差別コメントがあふれている。

風俗ネタはエロ好きな独身者しか見ないというメディア業界の単純公式

 実際、紙媒体やウエブでは風俗の記事を自粛しているのを実感している。例えば、総合週刊誌のウエブ班編集者から、「風俗の話は嫌がられるので……すいません」と企画が通らない。これはどういうことか。

「脱税とか、強盗・殺人とか事件性のあるものは別なんですが……それ以外の風俗ネタは大手ポータルサイトからはじかれる傾向があるんですよ」(総合週刊誌のウエブ班編集者)

 つまり、風俗の話題は、テレワーク、ステイホーム(巣籠もり)など、家にいる(家族といっしょにいる)読者を念頭に置くと、たとえそれが「コロナによる風俗嬢の差別、貧困」という社会問題だとしても配信されないという空気を感じ、無駄なことはしたくないということだ。風俗ニュースは硬派ネタでも、エロ好きな独身者(一人世帯)しか見ないという公式がメディア業界の人間の頭にはあるということだろう。

惨状と化す風俗業界の一方で、ギャラ飲み・パパ活などの直引きが大盛況

 このように、テレビだけでなく紙媒体もウエブも、コロナ禍で惨状と化した風俗業界、差別され貧困に喘いでいる風俗嬢を報じようとしない。つまり、黙殺されているのでこの問題は可視化されづらいのだ。なにかしら事件が起きて報道されたとしても、風俗嬢の自己責任で話が終わってしまう。私はこの状況にいてもたってもいられなくなり、『東京女子サバイバル・ライフ ~大不況を生き延びる女たち~』(コスミック出版)を刊行した。

 本書はいくつかの側面から成り立っている。そのなかの一つが、コロナ蔓延によって、風俗業界がどうなってしまったか、風俗で働いていた売る女はどうなってしまったか、コロナ禍において買う側の男はどのような選択をし始めたかなどをテーマにした風俗ルポの側面だ。

 風俗業界には多様な業態があるし、働く女たちも多様だ。そこへ、コロナ大不況によって、昼職から水商売まで、失職し食えなくなった女たちが、体を売ればなんとか稼げると期待して、最後の砦とばかりに続々参入してきた。しかし、その末路はどのようなものか。詳細は本書に譲るが、管理売春で稼げなくなった女たちはフリー売春、いわゆるパパ活になだれ込んだのだ。

 それによって、どんな男女のやりとりがSNSや出会い系マッチングアプリで交わされているか、セックスワークのマーケットにどんな影響が及んでいるか、立場の弱い貧困パパ活は女の身にどんなリスクを生じさせるのか、その凄惨な実態も知ってもらいたいと思ったのだ。

パパ活は話せるが、デリヘルは話せない

 女たちがパパ活を目指すのは、コロナ不況で管理売春では稼げないという理由だけではない。そこには、積極的な理由もある。それは「パパ活は話せるが、デリヘルは話せない」というものだ。これはいったいどういう了見だろう。私がこの心情を今どきの売る女たちに取材したところ、以下の回答を得た。

「パパ活している女は自分で男を選べ、金額も提示できる。外で友だちに会ったとしても男を『彼氏』『不倫している彼氏』だと言える。風俗嬢は男を選べない、男に選ばれる。生理的に嫌な男でも接客しなければならない。だから、彼氏や友だちに言いたくない」

「でも、パパ活一本ではやっていけないから、陰で風俗と掛け持ちしている子が多いけどね」

 それに対して、風俗店を稼ぎの主戦場とする売る女は、パパ活専業の女を「売春婦」と罵り、嫌う。なのに、自分がお客様と外で会う(直引きする)のは話が別と、パパ活している子もいる。理屈はどうあれ、両者いずれも、男は「素人の女」「恋人気分」という点にすごく価値を見出すので、その要望に応えた演出をし、パパ活しているのだという。

 しかし、先述のような意見は売る女たちの内輪でしか通じない、滑稽な論理だ。男からしたら、パパ活もデリヘルも、体を売っていることに違いはない。要は、どっちも同じでしかないのに、女に安っぽいプライドがあるのだ。

なぜ風俗嬢は持続化給付金を申請しないのか

 コロナ禍で体を売る女たちの心は引き裂かれている。私は彼女たちの心身が不安で数多く連絡をとりあっているが、悲しいことに自殺する者や消息を絶つ者が続出している。また、可視化されてはいないが「なぜ風俗嬢は持続化給付金を申請しないのか」という支援金の問題からも、売る女の置かれた厳しい状況がわかる。ただこの問題は慎重に、順序だてて話をする必要があるので、性産業に従事する女性たちの納税事情を出発点に取材を始め、なにが申請を阻むのかを明らかにした。

 『東京女子サバイバル・ライフ』では、このような、大手メディアが扱わない、売る女たちの金銭事情、引き裂かれた精神、コロナ感染対策にも迫った。タイトルに「風俗」という言葉が入っていないが、その理由はこの記事から察してほしい。ぜひ本書で、風俗業界の惨状と(管理売春やフリー売春で)体を売る女たちの危険な実態を知ってもらいたい。
(文=酒井あゆみ/ノンフィクション作家)

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:『東京女子サバイバル・ライフ ~大不況を生き延びる女たち~』(コスミック出版刊)

酒井あゆみ

酒井あゆみ

福島県生まれ。主な著書に『レンタル彼氏』『セックスエリート 年収1億円、伝説の風俗嬢をさがして』(ともに幻冬舎)、『売春論』(河出書房新社)、『売る男、買う女 』『ラブレスセックス』(ともに新潮社)などがある。風俗業界と売る女たちを机上の知識ではなく、痛みを伴う性と生の経験から描きだす文章は人の心を打ち、著書は20冊以上に及ぶ。

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