楽天を通して日本郵政の個人情報が国外流出する懸念も
さらに、問題は楽天の商売だけにとどまらない。17日にメッセージアプリLINEのユーザー情報などがアプリのシステム開発などを請け負う中国の子会社からアクセスできる状態になっていたことが発覚し、グローバルなIT企業に対する情報の安全性への危機感が急速に高まっている。
楽天は通販サイト「楽天市場」が主要事業であり、氏名や住所、口座番号など膨大な個人情報を保有している。今回の日本郵政との提携で、今まで取引のなかった個人や企業の情報にもアクセスできる幅が広がるのは間違いなく、情報漏洩のリスクは数段階も上がることになるだろう。テンセントが人民解放軍とは無関係ではありえない中国IT企業である以上、日本国内の利用者の個人情報が流出する懸念は払しょくできない。そのような事象が発生すれば、あえて資本提携に踏み切った楽天の企業としての信用は地に落ちる。
楽天の出資受け入れの理由は、携帯事業の資金不足
しかし、楽天はなぜ高リスクとしか思えないテンセントからの出資を受け入れたのか?携帯事業の赤字で喉から出るほどカネがほしいからに他ならない。同社の20年12月期の社債および借入金は約2兆5872億円と、前期比で約8600億円も増加している。有利子負債がこれほど膨らんでいること自体、経営危機といってもよいレベルだが、三木谷氏は「携帯事業が軌道に乗り楽天経済圏がさらに強化されれば回収可能」(楽天関係者)との思惑から降りる気はさらさらない。「とにかく急場をしのぎたい楽天が受け入れた、テンセントからの約650億円の出資は、毒饅頭を食べたのと同じ」(携帯大手関係者)との悪評も何のそのというわけだ。
菅首相、郵政との提携で携帯値下げのハシゴ外しを埋め合わせ
テンセントからの出資受け入れと同時に発表された、日本郵政から全株式の約8%にあたる1500億円の出資受け入れも、その資金不足を解消するために三木谷氏が昵懇の菅義偉首相に直談判した結果だといわれている。
今回の出資については、とても常識的な説明がなされたとはいえない。楽天は出資で得たカネを全て自社の携帯事業に投下するとしているが、民営化したという建前はともかく、株式の約6割を政府・自治体が保有する立派な「公営企業」である日本郵政が特定企業の事業を支援する理由がどこにあるのか。日本郵政側には赤字を垂れ流す全国の郵便局を物流面で有効利用できるメリットもあるのは理解できるが、それなら、実務上、昨年末に合意した日本郵便との物流面での業務提携で十分なはずである。日本郵政の経営判断には一般企業よりも透明性が求められるが、関係をより緊密にするというような一般論では、とても納得できない内容だ。